世界最大の化粧品会社であるロレアルグループの日本法人「日本ロレアル」は9月25日、「ロレアル−ユネスコ女性科学者 日本奨励賞 20 周年記念トークセッション」を開催した。同賞の2007年度の受賞者である戸張靖子氏、2020年度の受賞者である小野寺桃子氏らがパネリストとして登壇。
○女性科学者を支援するロレアルの取り組み
フランス・パリに本社を置き、世界150カ国以上で化粧品ビジネスを展開するロレアルグループ。研究開発への投資額や特許の出願・取得数は業界随一で、2024年度の売上総額は約435億ユーロ(7兆円ほど)と、化粧品業界No. 1を誇る。
創業者のユージン・シューラー自身が科学者であり、ユーザーの多くが女性であることなどから、科学分野での女性支援にも注力しており、女性研究者の採用・登用の推進。1998年からユネスコとのパートナーシップによって、"世界は科学を必要とし、科学は女性を必要としている"を理念とする「ロレアル-ユネスコ女性科学者賞」を世界で展開してきた。
日本ロレアル バイスプレジデントコーポレート・レスポンシビリティ本部長の楠田倫子氏は本イベントの冒頭、OECDのデータから日本の女性科学者比率が国際的にも下位グループにある実態を説明。科学分野での研究職の女性比率は世界平均で33%、日本は18%に留まっている現状を語った。
一方で2022年度の「OECD生徒の学習到達度調査」(PISA)の結果は、日本の15歳男女はともに数学的・科学的リテラシーでトップクラス。男女間の差は極めて小さく、優れた理数リテラシーを持つ人材が世界的にも豊富な国とも言えるが、女性の科学分野への進出はなかなか進んでいないという状況にあるようだ。
「その理由には女性のライフステージの各段階において文化、教育、社会の様々な側面から阻害要因を見出すことができます。初等・中等教育の段階では親御さんや教員の意向が進路選択に強く影響しがちで、理数系に進みたい女子高校生などリアルな声にも母親など周囲からの理解が得にくいといった悩みをよく耳にしています」(楠田氏)
また、科学分野でキャリアを形成するイメージができない女性のロールモデルが少ないこと。結婚・出産を経てワークライフバランスを保つことの難しさに直面し、研究職を離れる女性も多いという。
「そうした中で当社は女性研究者の積極的な採用と管理職への登用を進めており、2023年末で研究者の女性比率はグローバルで69%。川崎の研究開発所における女性研究者の比率は59%となっており、女性管理職比率も47%と管理職に占める女性の割合である12.7%(厚生労働省の2022年度「雇用均等基本調査」)を大幅に上回る実績となっています」(楠田氏)
○「日本奨励賞への挑戦が研究人生の宝物に」
日本ロレアルは日本独自のプログラムとして「日本奨励賞」を2005年に創設。「日本奨励賞」では生命科学・物質科学の2部門から博士課程後期に所属する女性研究者各2名を選出し、奨学金を提供するなど優れた女性科学者の支援を行っている。
「ロレアル−ユネスコ女性科学者 日本奨励賞 20 周年記念トークセッション」には、麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 准教授の戸張靖子氏、2020年度の受賞者で東京大学 生産技術研究所 特任助教の小野寺桃子氏らがパネリストとして登壇。戸張氏は同賞に応募したきっかけを語った。
「私は実は二回応募させていただいていまして、1回目は落選してしまったんですけども、その時は周りに自分がこんなに研究者として積極性があることを示したくて応募しました。1回目は落選してしまったんですが、二次面接での審査員との質疑応答が、私の研究人生で宝物のような、ドキドキとワクワクが止まらない素晴らしい経験で、2回目の応募につながるモチベーションになりました」(戸張氏)
「ロレアル-ユニスコ女性科学者日本奨励賞」の受賞はその後の研究生活にも大きなポジティブな変化があったという。
「この賞を受賞できたから今のポジションにいられるんじゃないかと感じております。私が受賞した時は、別の研究機関で研究員として仕事を始めた時でしたが、この賞を受賞したことで広く名前を知っていただけました。もともと私は医学部出身ですが、現在の獣医学部の中でのポストと職を得たきっかけのひとつにもなったので、とても感謝しております」(戸張氏)
博士課程3年のタイミングで本賞に応募したという小野寺氏も、受賞当時の心境などを次のように振り返っていた。
「応募の時点では自分の研究成果もそれなりに頑張ってはいる気持ちはありつつ、あまり自信がありませんでした。受賞させていただいたことで非常に大きな自信になり、非常に大きなモチベーションにもつながりました。
○「女性が少ないことはむしろチャンス」
マテリアル工学科出身で工学の中でも特に女性研究者が少ないとされる領域が専門という小野寺氏。女性が多い/少ないということは自身の進路選択では、あまり気にならなかったという。
「私の個人的な感覚だと、とくに学生時代に感じたことなんですが、女子は他にも女子がいるところに進みたい人が多数派に感じたので、やっぱり敷居が非常に高いのかなと。私自身は普段、女性が少ない職場ということで困ることや待遇面の違いは感じないので、ポジティブな力をとっかかりに女性の数を少しでも増やしてあげられれば、女性もどんどん増えるような気がします。むしろ、女性が少ないことで周囲から覚えてもらいやすいといったこともあるので、理系女子に今なるのはとてもおトクだと思いますね」(小野寺氏)
STEM分野に進む女性へのポジティブなイメージを呼水にしていくことが大切とのことで、本トークセッションではドイツ政府が2001年に立ち上げた職場体験プログラム「ガールデー」の取り組みなども紹介された。
10~15歳の女子生徒が女性比率の低い職種、とくに科学・技術・工学・数学分野の研究者が働く民間企業や研究機関での職場体験を提供するもので、女子生徒がSTEM分野に進む社会的機運をメディアも巻き込みながら醸成してきたそうだ。
戸張氏は自身の所属機関の次世代の女性研究者を育成の取り組みについて、「大学生の進路決定って最近早くなっているので、研究活動への心理的な敷居を下げて研究の楽しさを体験してもらうために学部の1~2年生や高校生の本物の研究活動を体験してもらうように。学部で実業界に出ることも素晴らしいことですが、修士課程や博士課程の女子の進学率を上げるということを注力しています」と、コメントしていた。
なお本年度の「日本奨励賞」には生命科学・物質科学ともに3名ずつ、計6名を選出された。10月2日には大阪・関西万博のテーマウィーク会場にて授賞式を執り行い、当日は受賞者の会見や記念レセプションなどを予定しているという。
伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。