日清食品ホールディングス株式会社は、2023年度、15年ぶりにITプラットフォーム部門での新卒採用を実施した。同年度に入社し、新設されたばかりのデータサイエンス室に配属された粟野志穂さんは、現在、日清食品、日清食品冷凍、日清チルドのセールス・マーケティング領域においてデータ利活用の促進などを行っている。
また、入社わずか1年後で、全社員向けのプログラミング言語「Python(パイソン)」の講座で講師を担当。社員の成長を後押しする企業風土のもと、常に積極的に、枠にとらわれることなく前進する粟野さんの姿勢に迫った。
○■15年ぶりの新卒採用でIT部門へ。“データで会社を変える"挑戦の始まり

――粟野さんはデータサイエンティストとして、日清食品、日清食品冷凍、日清食品チルドのセールス・マーケティング領域でのデータ利活用促進などを行っているのですよね。具体的にはどのような業務を担当なさっているのですか?

粟野 各部署が抱える課題を改善できるよう、データの利活用を進めたり、プログラム開発などの仕事をしています。たとえばデータを分析する際、必要な数値をその都度エクセルなどにまとめ、担当者が個別に分析して会議で共有する方法よりも、グラフや表などのビジュアルで直感的に把握できるダッシュボードを活用する方が、意思決定のスピードが上がり、業務の効率化も期待できます。こうした業務効率の向上につながる仕組み作りを提案しています。

――データサイエンスという分野に携わることになった経緯を教えてください。

粟野 もともとは、高校進学の際に、周りから「看護師に向いていそう」と言われたことがきっかけで漠然と理系のコースを選択しました(笑)。そして、その後の進路を考えるにあたり自分の志望先の一つであった滋賀大学について調べたところ、データサイエンス学部があることを知ったんです。パソコン作業が好きだったことに加え、自分の知らない世界が広がっていることに興味が湧き、入学しました。
○■ゼミで企業との産学連携にて課題解決を経験。
“実務直結"の学びが今につながる

――大学で勉強した内容で、特に印象に残っていることは何ですか?

粟野 3年生の春から所属した「河本ゼミ」での体験は、今の業務に大変役立っています。データサイエンティストとして企業での実務経験を持つ河本薫教授のもと、企業と連携して実際の購買データを分析し、売り上げ向上施策を考え提案するという経験を積みました。私はゼミに在籍中、小売や教育業界、化学業界、自動車メーカーなど、合計6社以上の企業と産学連携によるデータ分析の取組をさせていただきました。

――まるで仕事ですね!

粟野 そうですね。データサイエンティストの仕事をコンパクトに体験したと言っていいと思います。専門的な知識を持って、データという根拠をもとに企業の方々に施策を提案すると、皆さんの意思や会社の取り組み、そして売り上げまで変わるのだなと感慨深かったです。そのあたりにとても魅力を感じたので、卒業後はデータ分析の仕事に就きたいと考えました。ゼミの体験から、自分の目に見えるモノ、たとえば食品や日用品などに関わりたいと考え、メーカーを中心に就職活動をしました。

――専門性を磨くと、その分野の職に就こうという気持ちになりそうですが、粟野さんの場合は考え方が柔軟ですね。

粟野 たとえ営業職に就いたとしても、仕事でデータ分析はかならず行うと思ったんです。どんな仕事においてもデータ分析は役立つと思ったので、はじめは職種を限定せずにチャレンジし、ゆくゆく専門的な部署でキャリアを積むのもよいのではと考えていました。そのため、様々なメーカーの新卒採用を調べていたのですが、日清食品グループがIT部門の募集も行っていることを知りました。
ネットで「日清食品 DX」などのキーワードで検索したところ、「NISSIN Business Transformation(NBX)」というDX戦略を掲げており、ここであれば、私の大学時代の経験を活かせるのではないかと思い志望しました。
○■内製ダッシュボードで意思決定を加速。Power BIが現場を変えた!

――現在所属されているデータサイエンス室は、就職活動中はまだ存在せず、粟野さんが入社する1ヶ月前にスタートした部署だとお聞きしました。ご自身の専門性を発揮できる部門がタイミングよく新設されたことは、さぞ嬉しかったのではないですか?

粟野 とても恵まれている環境だと思いました。データサイエンス室が設置される前からデータ分析の仕事をしている先輩方に指導いただきながら、新たに入って来た社員の皆さんと一緒に、社内のさまざまな部署の課題を改善する業務にさっそく取りかかることができました。この仕事をしていて充実感を得られることは数多くありますが、データの使い方や見せ方を各部署の社員と一緒に考えて、一緒に作り上げたものを業務で役立ててもらえるときは特に嬉しいです。

――具体的には、どのようなものを発案するのですか?

粟野 たとえば、各部署にとってデータが見やすくなるよう、マイクロソフトが提供する「Power BI(パワー・ビーアイ)」を用いてダッシュボードを作ります。すると、「このボードを会議で使ったらすごく便利だったよ」と言っていただけることが多いです。弊社のデータ分析は、データサイエンス室が立ち上がるまでは外部のパートナーさんにお願いしていたのですが、一度納品いただくと、その後の細かいやりとりをすぐに行えないなどの課題もあったようです。その点、同じ社内にあるデータサイエンス室であれば、二人三脚のような形で、瞬時に実践力の高いデータ分析やダッシュボードの作成ができます。以前に比べると、データをもとに事業スピードが上がっていると感じています。
○■入社1年で「Python」講師に! “学びの連鎖”を起こす新人力

――入社後、他にやりがいを感じている業務があれば教えてください。


粟野 私自身は大学時代にプログラミング言語の「Python」学んでいたのですが、データサイエンス室内にはプログラミング経験の浅い方もいらっしゃいました。データ分析の仕事に必要なスキルのひとつでもあるので、一緒に学びませんか?とお声がけをさせていただき、データサイエンス室内の数人でPython勉強会を企画しました。すると、この取り組みが評価されて、データサイエンス室だけでなく所属するITPF全体に向けての勉強会も任されるようになり、その後全社を対象にした講座も担当させていただくことになりました。私が入社してから約1年が経った頃のことです。全社向けに私が講座をすると聞いたときは、大丈夫なのかなと驚きと不安でいっぱいでした(笑)。

――新入社員で、全社の社員の方々向けの講師を担うとは、大役ですね。

粟野 そうなんです。「Python」のオンライン講座を始めることになり、募集をかけたところ1回あたり最大で50名ほどの参加をいただきました。せっかく担当するのだから質のよいものに仕上げたい思いで、スタート前は先輩方から多くのアドバイスやサポートをしてもらい、念入りに準備を行いました。その甲斐もあってか、この講座をきっかけに、プログラミングのことをより深く学びたいと、社内オンライン学習で継続して勉強する社員が現れたのです。さらに、それが業務の成果につながっていると聞くこともあり、自分から発信したものがそのようにつながっているのだと考えるととても嬉しいです。

――入社早々、意欲的に挑戦できる場所があって、仕事の充実度が高そうですね!

粟野 大変やりがいがあります。
また、会社全体の雰囲気として、自分が興味を持ったものには積極的に参加したり、よいものを採り入れようとする姿勢を示す社員が多く、刺激をもらっています。私のような新人が行う講座についても、年齢や役職を問わずに受け入れ、講座に対する質問やキャッチアップも盛んで驚かされることが多いです。
○■部門理解×伝える力。“専門用語の壁”を越える成長戦略

――これまで順調にキャリアを積んでいらっしゃいますが、ご自身の課題はありますか?

粟野 データの分析やプログラムの開発は、いろいろな部署の社員と一緒に取り組んでいます。そうすると、各部門の具体的な業務内容や課題、苦労点を把握しているほど、こちらからの提案はしやすいのです。ただ、私自身はまだ経験が少ないため、それぞれの業務への理解が足りないところがあります。たとえば、各部門でよく使われる言葉が何を指し示しているのか理解できなかったり、逆に、私がITについて説明する際は、専門用語を使わずどれぐらいかみ砕いて説明すればわかりやすいだろうかなど勉強中です。先輩がどんな提案の仕方をしているのかを見て学んだり、疑問点をいろいろな社員に質問することで、成長できるように心がけています。

――最後に、今後の目標をお聞かせください。

粟野 どのような相談を受けても、よりよい提案ができるように、業務に役立ちそうな情報に対してアンテナを張り、知識を強化させていきたいです。また、自分の仕事に活かせる資格を取り、社内にも社外にも「この分野に特化した人なのだな」と認知いただける指標を得たいとも思っています。データに触れる仕事は本当に面白く、データから見える商品の傾向がわかるようになるなど、発見がたくさんあります。
そして、ひとつの方向から物事を見るのではなく、考え方を少し変えるとどうかな? と、多面的なモノの見方ができるようになったのもこの仕事を始めてからです。これからも、柔軟な発想で、さまざまなことにチャレンジしていきたいです。
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