『こゝろ』を着想にショートドラマ化

メインダンサー&バックボーカルグループ・超特急のメンバーであり、俳優としての活躍も目覚ましい草川拓弥。今年は特に多くの出演作が公開、放送された。12月8日(20:00~ほか)には日本映画専門チャンネルで、文豪・夏目漱石の名作『こゝろ』から着想を得たショートドラマ『こころ』が放送となり、樋口幸平とW主演する。


そんな草川に、自身や人の“心”との向き合い方を聞くと、「僕は基本的には自分に自信がない。自分の“心”を表現したりするのは苦手」「『きっとこう考えているのだろう』と人間観察をするのは好き。でもそのほとんどが間違っているんだろうなとも思う」と繊細な答えが返ってきた――。

○「セッション」で撮る中川龍太郎監督の現場

――『こころ』が、夏目漱石の超有名小説にインスパイアされた作品だと、最初に聞いたときはいかがでしたか?

夏目漱石さんの『こゝろ』のことはもちろん知っていました。学生のころの教科書にも載っている、おそらく全国の方々が知っている作品でもある。誰もが触れてきた題材を、僕がやらせていただくのはすごく光栄だと思いました。同時に、そうした作品を背負う、責任と覚悟が必要だなと思いました。

――原作は長編です。撮影前に読まれたそうですね。

読んでみて、純粋に苦しかったです。ずっと暗いトンネルをさまよっているようで、光が入ってこない感じ。登場人物たちは互いの心の内を知っていきますが、人の心って、簡単に触れちゃいけないものでもあると思っていますし、すごく苦しかったですね。
今回の『こころ』は短編で、台本の本読みを含めて2週間くらい、撮影自体はぎゅっとまとめて3日くらいでした。期間は短かったですけど、1本の映画を撮っているような濃さがありました。

――映画『四月の永い夢』『わたしは光をにぎっている』などで国内外から評価されている中川龍太郎監督とのお仕事でした。

僕が経験した中では、初めてのスタイルでした。これまでの作品では、段取りをしてテストをして、そこから本番という流れだったんですが、中川監督の現場はシーンによって、段取りをしたら次は本番なんです。毎回芝居の流れや動きも違いますし、そのときの役者のリアルを映像に収めてくださる。自分自身が、今までちょっと型に縛られていたかなと感じるような現場でした。まさにセッションといえる現場でしたね。

――限られた撮影期間の中、心掛けていたことはどんなことですか。

短編なので、僕が演じる“私”も、これまで育ってきた環境や歴史、どんな人間かということを表現するシーンが限られてきます。だからこそ中川監督とは本読みの段階から、たくさんお話させていただきました。「ここはどう思っているのか」「このセリフはどう思いながら言っているのか」といったことを、率直に聞いてくださったので、僕も自分の考えをお伝えして、一緒に作らせていただきました。


○魂を削る役者と向き合って感じたこと

――駆け出しの小説家“私”を草川さんが、親友の“彼”を樋口さんが演じました。樋口さんの印象はいかがでしたか。

以前、違う作品で共演しているのですが、共演シーンが少なかったので、そのときにはあまりコミュニケーションが取れませんでした。今回、“私”と“彼”として関わらせていただいて、すごくいい化学反応を起こせたと思っています。撮影以外でも、プライベートのお話もたくさんしましたし、仲良くなりました。ちなみに、いまは取材なので樋口さんと言っていますが、普段は「幸平」「拓弥くん」と呼び合う間柄になりました(笑)

――樋口さんの“彼”を受けて感じたことは大きかったですか?

とにかく幸平が本当に魂を削って演じていたんですよね。“彼”が自らの胸の内を“私”にさらけ出すシーンはある種バトルみたいなものだと思っていました。魂を削って演じている役者を一番近くで見られて、僕も心が動きましたし、テイクごとに顔が違っていて、相当いろいろなものを背負っていると感じました。お互いに、この撮影期間中、役に向き合ってすごくしんどかったし、苦しかったのですが、幸平じゃなかったら、僕の“私”も生まれなかったと思います。

心を守るために始めた「瞑想」

――草川さん自身は、自分の“心”に正直なタイプですか? それとも自分の本心はあえて見せなかったりするタイプでしょうか。

結構正直だと思います。ただ、それを表現したりするのは苦手なタイプです。


――それはなぜ。シャイだからですか?

自信がないんです。不安のほうが勝ってしまうので、であれば抑えておこうと引っ込めてしまいます。こうしたお仕事をさせていただいていますが、人前に立つときはドキドキしますし、得意でもありません。もっと自分の心を豊かに、ちょっとでもいい方向に持っていければ、その矢印を周囲に向けられるとも思うので、もっと自分の心を大事にしたいと思っています。

――表舞台に立つ方は、外から投げられてくる情報もより多いと思います。自分の心を守るためにしていることはありますか?

最近、仕事仲間から「いいよ」と聞いて、瞑想にチャレンジしているところです。

――瞑想!?

まだ始めたばかりで何もつかめていないんですけど(笑)、寝る前にやっています。

――最初に原作の感想を伺った際に「人の心って、簡単に触れちゃいけないものでもある」とお話されていました。草川さんが、自分ではなく“相手の心”と向き合う際に大切にされていることは。

基本、人見知りなので、自分から話しかけられないんです。やっぱり人に嫌われたくないんだと思います。


――その中でも、樋口さんとは仲良くなれたんですね。

幸平は割と気さくに話しかけてくれたんです。基本的に、話しかけてくれる人が、僕は心地がいいですね。どうしても、人とコミュニケーションを取るときに、「これは言っていいかな」とか「伝えたいけど、どうしよう」と考えすぎて結局、話せずに終わってしまうタイプなので。本当は自分の気持ちをもっと伝えられるようになりたいですね。

――いろいろ考えているんですね。

この人は「きっとこう考えているのだろう」と人間観察のようなことをするのは好きなのですが、それもたぶん、ほとんどが間違っているんだろうなとも思います。心って本当に目に見えないものですよね。大事に扱わないといけないと思います。

○心を動かしてくれる超特急の新メンバーたち

――放送にあわせて、特集企画【2ヶ月連続 俳優 草川拓弥がとまらない!】も組まれています。俳優としての活躍も目覚ましいですが、超特急のタクヤとして、相乗効果を感じる部分はありますか?

表現をするというくくりでは、グループの活動もお芝居も一緒ですが、やっていることは全然違うので、相乗効果があるかは正直分かりません。ただ、一人の現場が続いているときに、久々にグループのメンバーに会って踊ったりすると純粋に楽しいです。
それは素敵だなと思いますし、ドラマや作品から「この人、グループ活動もやっているんだ」と知って、わざわざライブまで足を運んでくれる方もいる。逆にグループを知っていた方が『昔見ていたこの作品に出ていたんだ』と気づいてくれることもあって。いろいろな経験、いろいろな表現ができて楽しいです。

――最後にここ数年の出来事から、人との関わりで、心を動かされた瞬間を教えてください。

超特急としては、2022年のグループ新メンバーオーディションで、4人が入ってきてくれて今があります。オーディションをやっていた当時、メンバーのカイがこの出会いを「正解にしていく」と言っていたんですが、間違いじゃなかったと思いますし、4人のおかげでたくさんのファンの皆さんとの出会いもあったと思います。タイミングと選択で、いろいろ変わっていくということに、すごく心が動かされています。

●草川拓弥1994年11月24日生まれ、東京都出身。2008年、テレビドラマ『貧乏男子 ボンビーメン』で俳優デビュー。12年、超特急のメンバーとしても活動を開始。主な出演作に、ドラマ『ウルトラマンギンガ』シリーズ、『みなと商事コインランドリー』シリーズ、『地獄は善意で出来ている』、映画『チェリまほ THE MOVIE~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』『栄光のバックホーム』など。26年1月にはドラマ『俺たちバッドバーバーズ』の放送も控えている。


望月ふみ 70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビュー取材が中心で月に20本ほど担当。もちろんコラム系も書きます。愛猫との時間が癒しで、家全体の猫部屋化が加速中。 この著者の記事一覧はこちら
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