Uberといえば、一般にはフードデリバリーの「Uber Eats」や配車サービスがよく知られています。ほかにも近年、同社が企業向けに高性能なAI構築を支援する新たなビジネスに乗り出したことをご存じでしょうか。
Uberが2025年7月、日本を含むグローバル市場に向けてローンチした新事業が「Uber AI Solutions」です。

Uber AI Solutionsは、同社がこれまでに培ってきた独自のテクノロジーとAIに関する豊富な知見を活かし、パートナー企業とともに社会に新しい体験価値を提供することを目指しているサービスです。Uber AIソリューションズ ジャパン コマーシャルヘッドとして国内事業を統括するUber Japanのズーク・アヤ氏は、「この取り組みには、社会に大きな変化をもたらす可能性がある」と語っています。

Uberのテクノロジーと経験を活かした「AIの共創事業」

Uberはスマートフォンからタクシーを呼んだり、Uber Eatsのサービスと連動して料理を注文できたりする便利なモバイルアプリとして親しまれています。2026年2月現在、Uberは世界の数百に及ぶ都市にサービスを展開しています。しかし実のところ、創業当初からその事業の根幹を支えてきたのはAIをはじめとする高度なデジタルテクノロジーです。

「Uberは創業以来、コンシューマー向けのデジタルサービスを開発・提供してきました。現在70カ国に広がる私たちのサービスでは、ソフトウェアの領域にとどまらず、配車のように実世界で人と関わるフィジカルな領域においても、様々なAIテクノロジーが活用されています」

Uberにはモバイルアプリをユーザーとの主要な接点にしながら、世界最大級のテクノロジー主導型のマーケットプレイスを10年間にわたり運営してきた実績があるのだと、ズーク氏は胸を張ります。

AIに関する技術面でも、Uberは人々の移動行動や天候、交通状況といった現実世界のデータを収集・解析し、利便性と安全性が両立するサービスをつくってきました。こうした経験を活かして、今後もより多くのパートナー企業とともに、AIを軸とした新たな価値創出に取り組んでいくことがUber AI Solutionsの目指す方向性です。
「意味あるデータ」が質の高いAIサービスには不可欠

Uber AI Solutionsに含まれる重要なサービスの一つに、データのアノテーションとラベリングがあります。

優秀なエンジニアが完成度の高いプログラムを書くだけでは、ユーザーの役に立つAIサービスになりません。
AIがテキストや音声、動画といったデータを読み込みながら、ユーザーに対してより正確な答えを返せるように、学習するデータにラベルやタグを付ける作業を「アノテーション」と呼びます。

例えば自動運転AIであれば、イメージセンサーが読み込んだ画像データに対して「これは信号機」「あれは歩行者」といった具合に、一つひとつ丁寧に正確なラベルを付けながら、膨大なデータを学習させます。この正確なデータ作成のプロセスを経ることで、AIサービスにおいて意思決定を担う「頭脳」に相当するAIモデルが高度に最適化されます。その結果としてユーザーの課題を的確に解決する、実用性の高いAIソリューションが実現します。

Uberは世界の様々な地域で配車サービスの事業を展開し、近年では自動運転タクシーによる商用運行を開始・拡大しています。人命にも関わるサービスを安全に運行するためには、質の高いデータを集める必要があります。そのために築いてきた高度なアノテーションの仕組みがUber AI Solutionsの土台を担っています。

ズーク氏は、このアノテーションのプロセスに「人間が介在すること」の重要性を強調します。

「最近では機械が読み込んだデータを自動でアノテーションするツールもあります。しかし、その精度には課題が残ると私たちは考えます。自動化を進めたとしても、最終的には機械が付けたラベルを、念入りに人間が確かめなけらばならない場合があります。それであれば、特に重要度の高いデータについては、当初から人間によるチェックを全面的、あるいは部分的に採り入れるプロセスを構築した方が、結果として品質の高いデータを提供することにつながります」

Uber AI Solutionsには、世界中に総勢15万人以上の「エキスパートポータル」と呼ばれる、データのアノテーションに携わる専門スタッフの人材プールがあります。


その中には、例えばAIに関連する高度な知識を持つデータサイエンスやシステムエンジニア、プログラマーも在籍しています。総勢4万人以上の言語学のスペシャリストによる、世界言語のカバー率は90%を超えています。ほかにも物理学に生物学、法学、経済学などそれぞれの専門知識を持つエキスパートや、映像・音楽制作のクリエイターなど多種多様な人材が、人間ならではの視点からアノテーションの成果をチェックします。AI全盛の時代だからこそ、逆に「人の目による品質保証」が価値を持ちます。

企業のAI開発を支援するグローバル企業は、Uber以外にも存在します。その中でUber AI Solutionsはデータのアノテーションからローカライゼーション、製品テストに至るまで、AI開発の全工程を一貫してカバーできるプラットフォームであることを特徴としています。既に独自のAIモデルを構築している企業に対しては、高精度で新鮮なデータの収集・提供に特化したサービスを切り分けて展開するなど、柔軟に対応できるとズーク氏は説いています。
サービスの市場投入を適格、かつ迅速に支援する

Uberには、デジタルとフィジカル(実世界)の双方にまたがる大規模なビジネスを、世界規模まで拡大してきた実績があります。

昨今は特にロボットや自動運転車のように、実世界で動きながら人間を支援する「フィジカルAI」が注目されています。Uberは配車サービスを通じて蓄積した膨大な走行データや、レーザー光を使うLiDARセンサーなどの複雑な3Dデータの扱いにも長けています。

「私たちの強みはやはり自動運転系のAIソフトウェア開発、フィジカルAIを通じて得た豊富な知見を持っていることです。例えば多種センサーにより取得した実世界の3Dデータにアノテーションを付ける作業は、データの精度を維持することも含めて非常に専門性と難易度が高いものです。
これをUberは得意としています」

結果として、Uber AI Solutionsはローンチ直後から自動運転サービスに関連するAIソフトウェア開発の領域からも、強い引き合いを得ていると言います。あるいは物流倉庫や工場設備のメンテナンスなどの用途に活用される産業用ロボットの開発においても、Uberが自動運転で培った「物体を正確に認識する技術」が積極的に応用できるそうです。

Uberには世界中で展開する配車サービスのドライバーパートナーと、密接に連携しながらビジネスを大きくしてきた実績もあります。

「Uberはギグワーカーというコンセプトを世に広めた当事者であると自負しています。デジタルプラットフォームを通じて、ある一定のスキルを持った方々を呼び集めて、彼らを必要とする仕事とのマッチングを促すノウハウが当社にあります。これもまた他社のサービスに対する、Uberの強みと言えます」

さらに、ドライバーパートナーに対する報酬の支払いや、世界の各国・各地域の法規制への対応といった、泥臭くもありながらとても重要なインフラを地道に整備してきた実績があるとズーク氏は語ります。

Uberは、自社サービスのために構築した実績のあるツールやインフラを、クライアントのニーズに最適化して提供しています。ズーク氏は、システムをゼロから構築するベンダーと比較すると、Uber AI Solutionsを活用することでコストを抑えつつ、高品質なサービスを迅速に実現できると述べています。クライアントにとっては開発コストの低減に加え、市場投入までの期間を大幅に短縮できる点が重要なメリットになります。
日本の社会に貢献し、新しい価値を創出する

ズーク氏は、Uber AI Solutionsが日本の市場にもたらす好影響にも期待を寄せています。

「欧米に比べると、日本は先進テクノロジーがもたらす自動化のインパクトに対するアレルギー反応が少ないと私は感じています。少子高齢化による労働力不足が深刻な現状において、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)や、人間を支援するロボットの活用は待ったなしの課題です。
Uber AI Solutionsは、こうした日本企業の取り組みをデータの側面から様々な形で支援します」

例えば、多言語対応を実現してきたUber Eatsの実績を活かし、より自然でスマートな対話型AIエージェントの開発に必要な多様な学習データを、Uber AI Solutionsは提供できると言います。こうした取り組みによって、私たちが日常的に接する機会も増えている各種サービスのAIカスタマーサポートも、よりスムーズに課題を解決できるようになるかもしれません。

AIの社会実装に取り組む企業が増加する一方で、PoC(概念実証)から実稼働へ移行できない事例は少なくありません。ズーク氏は、実用化を阻む要因として「データの質」の問題を挙げています。

「当社で分析したところ、多くの場合はデータの精度が低いことがボトルネックになっていることがわかりました。AIモデルが価値あるアウトプットを生成するためには、質の高い学習データを確保することが重要です。また、インフラ基盤が未整備な環境では、PoC(概念実証)による部分的な検証は可能であっても、実運用におけるスケールアップを実現することは困難です。Uber AI Solutionsを提供することで、パートナー各社の取り組みをPoCから実運用へと進展させて、新たなビジネス価値の創出に貢献できると考えています」

今でこそフィジカルAIへの関心が高まっていますが、Uberは2009年の創業時よりデジタルとフィジカルを融合させた事業を展開して、成功を収めています。「Uberが目指してきたことに、時代が追いついてきた」と語るズーク氏の言葉には自信があふれていました。同社の新しい企業向けサービスは、やがて私たちの暮らしをより便利で安全なものに変える原動力にもなりそうです。
編集部おすすめ