○船橋市とNTT東日本 千葉支店が共同して地域DXを推進

2020年12月に「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」が策定されて以来、自治体ではどのようにDXを推進していくかが課題となっている。民間企業と同様、自治体においてもDX推進の担い手は不足しており、人材育成や確保、体制の整備、システム調達などをどう解決していくか各自治体が頭を悩ませている状況だ。


そんな中、地域密着型のITベンダーの協力を得て、デジタル化による価値創造と地域社会の発展を実現する取り組みで成果を上げているのが千葉県船橋市だ。同市は、2023年9月1日、NTT東日本 千葉支店と「DX推進に関する事業連携協定」を締結。船橋市職員向けに勉強会や体験会を定期的に開催し、「DXとは何か?」といった初歩から理解を深める場を設けたほか、庁内外業務全般における改善・効率化とコスト削減、職員の負担軽減に取り組んできた。

人材の確保に向けては、2025年8月から9月にかけて「DX推進リーダー育成研修」を実施した。この研修では、組織の中核として実務を主導できる人材を庁内から募り、DX推進リーダーとして育成する。目指したのは「職員自らがDXを進めることで、組織全体の市民サービスの向上と業務効率化を実現するとともに、新しい仕事のやり方を推進していく意識の底上げを図ること」だ。

船橋市はどのような研修を行ったのか。船橋市 総務部 デジタル行政推進課 DX推進係 係長 半谷夕輝氏、総務部 デジタル行政推進課 DX推進係 主事 畑駿祐氏、NTT東日本 千葉支店 第二ビジネスイノベーション部 第二地域基盤ビジネスグループ 地域基盤ビスネス担当 担当課長 緑川敏也氏、NTT-ME 千葉エリア統括部 エリアプロデュース担当チーフ 山際勇也氏に話を聞いた。

庁内でDX推進リーダーを育成する研修を実施

--研修を企画した背景を教えてください--

半谷氏: 2022年に「船橋市DX推進計画」を策定し、庁内業務においてデジタル技術を活用することに取り組んできましたが、DXの進捗にバラツキがありました。そこで、全職員がDXそのものに対する理解を深め、DXの意義や必要性を理解すること、さらに、今までのやり方にとらわれることなく自ら考えて行動し、組織の文化・風土自体を変革させていくことが必要だと考えるようになりました。そこで取り組んだのが、DX推進リーダーの育成です。

--そもそもDX推進リーダーとは何でしょうか--

半谷氏: 総務省の定義では「デジタルに関する一定の知識と行政実務の知識・経験を兼ね備え、一般行政職員や高度専門人材と連携し、組織の中核として実務を主導できる人材」です。
平たく言えば、現場の課題を熟知し、デジタル技術を活用して新しい仕事のやり方を提案できる職員です。身につけたことを自らの所属で活用し広める、自らの所属の業務の問題を見つけ改善案を考える、自ら業務改善の提案を行なう、といった役割が期待されています。デジタル行政推進課とのつなぎ役でもあります。

--研修の目的は何ですか--

半谷氏: 各所属に1人以上、DX推進リーダーを育成し、各所属の業務効率化に向けた意識の底上げを行うことです。まずは、業務効率化への意識に差があり、現場での推進状況にも差があるという課題を解消することを目指しました。
BPR研修やkintone研修に想定を超える174名の職員が参加

--対象者はどのような立場の方ですか--

畑氏: 150名で募集したところ、最終的に主事・係長など174名の市役所職員が参加しました。常勤職員は約4000名で、これまで行った研修への参加者は多くても30名程度。予定数を超えるこれだけの数の参加者が集まったことに正直、驚きもありました。それだけ研修内容が魅力的だったのではないかと考えています。

--実際にはどのような研修を行ったのですか--

畑氏: 大きくDX基礎研修、BPR研修、kintone研修、生成AI研修、Canva研修と5つの研修を行いました。DX基礎研修は、自治体DXの基礎や考え方、DXの必要性、国際的動向、IT化とDXの違い、誤ったDX、成功・失敗事例などを学ぶオンラインの研修です。BPR研修は、グループワークによる課題解決型のワークショップです。
実践的なBPRの手法を学び、グループごとに発表を行いました。

kintone研修は、基礎編、実践編、課題編に分け、kintoneの概要、基本的な機能・活用事例を学習し、自らの所属における業務効率化に向けた基礎知識や、業務に即した実践的なツール作成スキルの習得を目指しました。

生成AI研修は、生成AIを利用した応用的な業務効率化の方法をAIアドバイザーに学ぶものです。また、Canva研修はデザインツール「Canva」による資料・ポスター作成の方法をCanva認定講師に学ぶものです。

--NTT東日本と共同で内容を考えたのですか--

畑氏: 企画や内容は船橋市が決め、DX基礎研修、BPR研修、kintone研修の3つをNTT東日本に依頼しました。NTT東日本には、会場としてスタジオを貸していただいたり、研修内容についてアドバイスを受けたりしました。
これまでの勉強会や体験会で信頼を獲得、DX研修ではノウハウを提供

--NTT東日本とは2023年に事業連携協定を結んでいます。これまでどんな取り組みをしてきたのですか--

緑川氏: 例えば、DX体験会や勉強会を実施しています。体験会は、庁舎の大フロアを使って、NTT東日本の技術や製品をブース展示で紹介するものです。具体的には、ドローンのシミュレータによる操作体験や、ARゴーグルを使った水害の防災体験などを実施しました。仮想映像を使うことでドローンの操作や浸水災害の危険性を疑似体験することができます。

半谷氏: 体験会や勉強会もそうですが、もともと庁舎のネットワーク構築などでNTT東日本に協力いただくことも多く、信頼が厚かったという背景があります。
われわれの課題に向き合った提案をしてくれるため、事業協定という形で関係をさらに深めました。

--今回の研修でNTT東日本の力が発揮されたシーンはありましたか--

畑氏: BPRのワークショップでの会場設営や進め方のアドバイスをいただきました。グループワークは全員の前で参加者が必ず発表する経験を持ってもらうことを目指しましたが、174名が一堂に会して発表することは会場の広さや時間の制限があり簡単ではありません。

NTT東日本に相談したところ、部屋を2つに区切り、それぞれ4グループに分けながら順番に発表することで、全員が発表の機会を持つことができるとアドバイスいただきました。その方式を採用したことで、頭で考えて終わりではなく、発表して自分の体験として持ち帰ってもらえました。それを映像として記録して振り返ることもできるようにしました。

--NTT東日本には研修に関するノウハウがあるのですね--

山際氏: 今回は、オペレーションを検討して、35人ずつ5グループで発表を行うことを提案しました。グループに分けると、映像や音声が場所によって聞こえにくくなるため、機材や設置場所を工夫する必要があります。研修にかかわらず、映像配信などのノウハウを持っているため、そうしたスキルも研修運営に生かしています。例えば、同じ部屋を2つに区切って実施する場合、前方の話者の声が後方のマイクに聞こえないようにする必要があります。そこで、講演者にはマイクを持ってもらい、映像と音声を別々に収録するといった工夫を行いました。

先進的な技術を使って、地域の課題に寄り添おうとする姿に感心

--ほかによいところはありましたか--

畑氏: ファシリテーターのサポートは大きかったです。
グループごとにファシリテーターが1人ついていただき、何か困ったことがあれば、その場ですぐにサポートしてくれます。これにより、参加者がすんなりと研修に取り組むことができたと考えています。

山際氏: ファシリテーターは当社の社員で、講師とは別に設置しています。当社にはさまざまな分野で明るい人材がいます。そうした人材がファシリテートするので研修のサポートを手厚くすることができます。これはNTTグループの強みの一つだと考えています。

半谷氏: 講師だけが一方的に話し、170人の受講者がそれを聞くという形では、置いていかれる人が出てきます。そうではない方法で実施できたことは非常によかったです。また、kintoneに関しては「モクモク会」という、kintoneの操作をモクモクと学ぶ機会もつくっていただきました。NTTの担当者がマンツーマンで教えてくれるので、学習効果も高いです。

緑川氏: BPR研修やkintone研修なども、民間企業や他自治体で実施しているためノウハウがあります。BPRについては専門的な解説にとどまらず、自治体にとっての業務改革とは何かという形でワークに落し込んでいくところが強みだと思っています。
今回は、そうしたノウハウを提供することで、船橋市様の取り組みを後押しできたと考えています。

--NTT東日本に対する評価を聞かせていただけますか--

半谷氏: われわれの実情をわかっていて、さらに国や民間の動きも把握しています。そのうえで、船橋市にとってよいプランを提案してくれるところを高く評価しています。例えば、個人的に感動した提案に、ナシの黒星病を防ぐ仕組みがありました。AIカメラでナシの映像を記録し、黒星病の発生を抑えられる農薬散布のタイミングを予測するという取り組みです。行政と一緒に取り組むことで、船橋市の農家の負担軽減を目指すもので、実現には至りませんでしたが、先進的な技術を使って、地域の課題に寄り添おうとする姿に感心しました。

--今後の展開を教えてください--

半谷氏: DX推進リーダー研修は今後も継続して実施していく予定です。そのほか、デジタル行政推進課では、窓口業務改革プロジェクトなどを進めています。NTT東日本との協定のもと、今後もさまざまな取り組みを進めていく予定です。
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