深夜の幹線道路沿い、煌々と輝く赤い看板に吸い寄せられるように車を停め、無性に濃厚なラーメンをかき込んでしまった経験はないだろうか。

実は今、そんな私たちの「胃袋の衝動」を捉えたビジネスの裏側で、驚くべきマネーの動きが起きている。


外食産業、とりわけラーメンチェーンの株価を長期的視点で比較すると、企業間で信じがたいほどのパフォーマンスの差が生じているのだ。

2024年1月末から2025年1月末までの1年間で見ると、山岡家(3399)の株価は112%上昇し、2倍超となった。さらに、2020年1月末から2025年1月末までの5年間で見ても、約1500%上昇し、16倍ほどの伸びを記録している。一方、一風堂を展開する力の源ホールディングス(3561)や、町田商店を展開するギフトホールディングス(9279)も上昇しているものの、山岡家ほどの爆発的な伸びには至っていない。

なぜこれほど圧倒的な差がついたのか。

ここからはプロの投資家であり、投資スクール「Financial Free College(FFC)」CEOの松本侑氏(X:@smatsumo0802)の見解を交え、業績とビジネスモデルの裏側を見ていきたい。

競合が4倍成長しても、山岡家“一強状態”のワケ

まず、5年という長いスパンで見ていくと、力の源ホールディングスが153%(約2.5倍)、ギフトホールディングスが306%(約4倍)成長している。

「これらの企業も決して悪い数字ではありません。ただ、山岡家の1500%、約16倍という数字が際立ちすぎているのです。それに相場全体が軟調な局面でも、山岡家は相対的に強い値動きで推移してきました」(松本氏、以下同)

さらに株価だけでなく、実業の業績ベースでも明暗は分かれているようだ。

「2025年1月発表のデータで比較すると、山岡家の当期純利益は前年比97%増とほぼ倍増しており、その前年も243%増とすさまじい伸びです。

一方、力の源ホールディングスは一部の期間では減益となる場面も見られました。
ギフトホールディングスは売上高26%増と健闘していますが、山岡家の利益成長率と並べてしまうと見劣りします。なので数字だけを見れば、山岡家の“一強状態”と言えますね」
5年で株価16倍。山岡家をバズらせる4つの秘密

外食産業において、SNSでのバズや新メニューのヒットが客数を一時的に押し上げることは珍しくない。山岡家の好業績も、そうした短期的なトレンドの恩恵を受けた結果ではないかと疑う見方もあるだろう。だが、実態はより構造的だった。

「山岡家がここ数年で劇的に伸びた理由は、一過性のトレンド依存ではなく『売上モデルの強さ』にあります。具体的には4つの仕組み化が成功していて、1つ目は深夜需要をうまく取り込んだ『24時間ロードサイド戦略』です。

深夜帯に営業している競合店は少なく、幹線道路沿いに大型駐車場を構えることで、トラックドライバーや夜勤労働者、若者層を確実に取り込んでいます。これは駅前の店舗には真似ができません」

たしかに独自の立地戦略は強力だが、それだけで客が定着するほど飲食業界は甘くない。リピートを生むための商品力や施策はどうなっているのか。

「2つ目は『中毒性の高い商品設計』です。豚骨醤油ベースで味の軸を定めつつ、個人の好みに合わせたカスタマイズが可能で、定期的に無性に食べたくなる味を作り上げています。


3つ目は、アプリを活用した『来店頻度のゲーム化』。来店ポイントや会員ランク制度を導入し、意図的に常連客の来店頻度を高める設計が機能しています。そして4つ目が直営中心の運営体制であること。急速なフランチャイズ拡大に頼らず、どの店舗でも味のブレがなく、均一なオペレーションを提供できています」
インフレも怖くない。山岡家の死角なきビジネスモデル

ライバル企業も手をこまねいているわけではない。家系ラーメンで急成長するギフトホールディングスや、ロードサイドに強い幸楽苑(7554)など、市場を狙う競合は多い。その中で山岡家だけが特別視される理由はどこにあるのか。

「競合と比較した際、山岡家の優位性は明確だと見ています。まず、家系ラーメンは味の方向性や中毒性では近いですが、深夜のロードサイドという立地戦略では山岡家に分があります。

また、幸楽苑はロードサイド展開に強いものの深夜営業に弱みがある。結果として、立地、高回転率、そして低単価という強みが組み合わさることで、他社が容易に参入できない壁を作っているのです」

投資判断において懸念されるのは、今後のインフレや外部環境の悪化による影響だ。飲食業は、とくに食材費や人件費高騰の打撃を受けやすいはずだが、この点について松本氏の見解は明るい。


「ラーメンは他の外食チェーンに比べて低単価です。例えば5,000円のディナーが10%値上がりすれば500円の負担増ですが、1,000円のラーメンなら100円で済みます。このように絶対額が小さいため、値上げに対する客離れが起きにくいのです。

滞在時間が10~15分と短く高回転であること、買い控えをしにくい男性層や深夜労働者がメイン客層であることも、経済の悪化に対する強いディフェンス力につながっています」

相場全体が下がれば買うべし。逆風に強いラーメン業態の真価

ビジネスモデルの差は、最終的に店舗の売上高にもっとも直結する「来店頻度」の差となって表れる。

「一般的なラーメンチェーンの来店頻度が月に2回程度だとすれば、山岡家のコアファンは週に1回は足を運びます。この頻度の差が、そのまま圧倒的な業績差、ひいては株価の差に直結しているのです」

日経平均の全体的な下落や原油価格の高騰など、マクロ的な悪材料で相場全体が冷え込む局面は今後も訪れるだろう。しかし、企業のファンダメンタルズが盤石であれば、株価の下落は“別の意味”を持ってくる。

「独占的で独自性のあるビジネスモデルが揺らいでいないのであれば、外的要因による一時的な下落は、むしろ絶好の買い場になり得ると私は分析しています」

一時的なブームではなく、深夜ロードサイド戦略、中毒性のある味、来店ゲーム化、全直営モデルという盤石な仕組みに裏打ちされたビジネス。競合他社との比較や外部環境への耐性を総合的に見れば、独走状態には十分な裏付けがある。

市場の動向に一喜一憂せず、山岡家のような構造的に強い企業を見極める視点が、これからのポートフォリオ構築には欠かせないのではないだろうか。

西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。
三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら
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