「奥会津」と聞いてどのようなイメージを浮かべるだろうか。奥会津とは福島県南西部の只見川流域にある柳津町、三島町、金山町、昭和村、只見町、南会津町、檜枝岐村の5町2村を総称する広域地域だ。
その周囲は1000mを超える山々に囲まれ、雪を抱く山岳地帯から森林、湖沼、渓谷、そして農村集落の里山まで多彩な自然と景観、そして日本の原風景を味わえる“壮大な田舎”だ。

そこには古くから暮らしの中で育まれた伝統文化が息づき、独特の祭りや工芸の姿も見られ、都会の人たちがホッとできる場としても近年注目されているが、一方で高齢化と人口減少が進み、深刻な課題となっている。

そうした中、この奥会津7町村で構成される広域振興協議会「只見川電源流域振興協議会」では、各自治体や地元住民、地域外からやってくる人たちの力を合わせ、さらにはNTT東日本とも協定を締結して、持続可能なまちづくりに向けた取り組みを加速させている。

「人口は減る」前提で地域はどう生き残るのか

只見川電源流域振興協議会は、前出の7町村において文化伝統の継承や観光、交通などの観点から地域振興を手掛ける組織。事務局が設置された奥会津振興センターに、県及び地元自治体から職員が派遣される形で活動している。

事務局長を務める齋藤理史氏は、奥会津地域の課題について次のように語る。
「人口減少と高齢化が速度を増して進行している地域で、やはりそれが最大の課題です。ただ、人口減少を食い止めるのはもはや現実的に難しいため、人口が減っていくことを前提に人材育成・発掘や地域のシステムづくりを行っていこうと考えています」

とはいえ、言うまでもなく簡単なことではない。事務局次長の齋藤誠氏が、その難しさをこう話す。

「奥会津は端から端まで移動すると2時間以上かかるとても広い地域で、7町村それぞれに良さや文化も異なります。加えて、移住者も、地元で生まれ育って一度外に出てからUターンしてくる人も、そして地元で暮らし続ける人も、地域の未来についてはそれぞれに意識が高く、多様な取り組みを行っているのですが、一体となって力を発揮させるために、つながりをどう作っていくかが難しい点ですね」

そうした課題に悩まされてきた中で、NTT東日本との「奥会津地域における価値の創造と地域活性化に関する協定」の締結はちょっとした偶然が契機となった。NTT東日本 福島支店で県内地域のまちづくりに関する仕事を担い、奥会津については3年前から担当している阿部有希氏が、その経緯を振り返る。


「きっかけは、2023年3月に奥会津振興センターから電話更改に関する相談をいただき、私が訪問したことでした。NTT東日本は地域課題解決に向けた取り組みをサポートしていると話したところ、まずは二次交通施策としてのカーシェアリングに関する実証実験からお付き合いが始まり、その年の8月には協定を結ぶことになったのです」

カギは“奥会津が好きな人”交流人口という発想

そこから2年半強、すでにさまざまな施策を共に進めている。まずは2023年秋、奥会津の課題を明らかにするため2泊3日で7町村のフィールドワークを実施。福島支店の支店長・担当者ら総勢30人に及ぶ大所帯で各地を巡り、産品を食べ、地元の人々の話も聞いて、「奥会津の課題感を同じ目線で共有する土台になりました」と阿部氏。

2年目以降もNTT東日本およびグループ会社との取り組みは進み、2025年度には奥会津の将来を見据えた同協議会の10年計画「第4期只見川電源流域振興計画」(2020~2029年)の第3期(2026~2029年)事業実施計画作りにNTT東日本も加わり、一緒になって策定を進めた。

「第4期只見川電源流域振興計画は、“100年先”を見据えた10年の長期計画。その最後4年の中期計画となる第3期事業実施計画では、地域の人口減に対応するため、地元の人だけでなく地域に入ってくる交流人口も加えた『奥会津人口』という概念を打ち出しました。人口減少が避けられない中、交流人口を合わせて考えることで地域を維持できるのではないかと、これは阿部さんに出してもらった発想です」(事務局次長)

では、どのような形で交流人口を増やし、「奥会津人口」を形作っていくのか。考えたのが、奥会津を愛するコアな“ファン”を集めたファンクラブを組織することだ。ファンクラブについて、阿部氏が次のように説明する。

「第4期のこれまでの6年間(2020~2025年)を振り返るため地元関係者にヒアリングしたところ、本当にみなさん奥会津愛にあふれていることがわかりました。その共通理解の上で次の4年間の取り組みとして、今後の奥会津づくりのベースとなる人的リソースを『奥会津人口』と定義し、まずは奥会津のことが大好きで『奥会津人口』になり得る人がどのような人で、どれくらいいるのかを知るため、ファンクラブを作ろうというアイデアを考えました」

そして、その“奥会津が大好き”な人たちに向けて関心を呼べる発信を行い、「また来たい」と思ってもらえる仕組みをつくるという視点で、第3期事業実施計画策定を進めていったという。


では、「奥会津人口」をどの程度にするのか。目標としては、現在の「2万人」という地域人口の減少を交流人口で補い、維持していくことを目指していると事務局次長。「ただ、単純に数だけ増やしても中身がなければ意味がありません。ですので、やはり奥会津が本当に好きな人に入っていただき、結果として『奥会津人口』が維持されていく状況が理想です」と思いを表す。

計画ではこのほか、地元と外からきた人のアイデアを掛け合わせたオープンイノベーションで新しい産物を作り出すため、コンペ形式のコンテンツづくり推進も盛り込まれた。「本当に消費されるコンテンツを、奥会津のいいところを取り入れながら生み出していこうということで取り組んでいきます」(阿部氏)

人を呼び込む仕組みはどう作る?データと発信の再設計

2025年度はこの新たな計画づくりに加えて、公式ホームページ「奥会津 歳時記の郷」リニューアル、音楽フェス・物産展、データ活用に向けた人流分析などの取り組みを、同協議会とNTT東日本の協働で実施した。
公式ホームページをリニューアル

まずホームページについてはNTT東日本のグループ会社に委託し、2025年10月から新ページの運用がスタート。意識したのは「地域情報の集約と一元的な発信基盤の整備、そして事務局員がより運用しやすいようにする操作性の向上です」と事務局長。

いわゆる“映える”ページデザインを目指したことに加えて、以前のホームページではどこに何があるのかわかりづらいとの指摘があったため、「奥会津のことを調べたい地域外の人はもちろん、地域内の住民や事業者が情報を探したいときにもすぐ見つけられる構成を心がけました」とポイントを語る。そのほか、近年は只見線からの景色を撮影したいというインバウンドが増えていることから、英語/中国語(台湾)のページも用意するなど多言語化を図った。

肝心の出来栄えはというと、「トップ画面から奥会津の美しい景色が目に飛び込んできますし、7町村の一体感も表現できました。情報発信の基盤としてはもちろん、地域内外の人たちがつながる場・インターフェースとして活用し、今後はファンクラブとの連携も想定して、さらに意見を伺いながら改良を進めていきます」と阿部氏。


“秘境フェス”の挑戦と反省

2つ目の取り組みは「奥会津フェス」と物産展だ。これは三島町の美坂高原という風光明媚な場で、NTT東日本のグループ会社への委託で開催された。「来場者の評価はとても高く、みなさん素晴らしい体験をしていただけました」と事務局次長は話すが、実は来場者数が少なかったのが大きな反省点だと明かす。阿部氏がこう振り返る。

「せっかく開催するからにはもっとたくさんの人にきてほしかったですし、もっと泥臭く周知すればよかったですね。また、“日本一秘境なフェス”と銘打ったこともあり、来場者の好みや年齢層に合わせたアーティスト選定もできたかなと反省しています。ただ、それらを実現するには奥会津に関わる人がどのような趣味嗜好を持っているのかを知る必要もあるので、今後はファンクラブを土台にデータを分析し、フェスに限らずさまざまな事業を自信を持って行えるようにしたいと思いました」
人はどこから来てどこへ行くのか?人流データの反響

そのデータ集めの点で、ファンクラブ以外にも奥会津域内の実際の動きを知るため、人流分析を実施した。これは各町村の観光スポットやイベントにやってくる人がどのルートで訪れ、どこへ向かったのかを、匿名化された統計データをもとに分析する取り組みである。

「奥会津を行き来する人流を過去のデータも交えて可視化できるので、地域の傾向や年ごとの推移を基に今後の事業を考えていければ」と事務局長。この分析結果を各町村の責任者が集まる会議で提示したところ、施策の根拠をデータに求められることから関心は非常に高かったとのこと。「もともとは二次交通対策の観点で行った事業でしたが、各町村は観光など他の点でも利用できると喜び、“瓢箪から駒”の思いでした」と回顧する。

この人流分析について阿部氏は「各自治体単独でなく地域全体の人流を可視化できたうえ、往来が活発な町村間もあればほとんど行き来のない町村間も見えたため、分析からの示唆をより説得力のあるものとして提示できたと考えています」と評価する。

“好き”でつながる地域は続くのか

ここまでのさまざまな協働施策を通じ、事務局長は次のように語る。

「奥会津は“わかっている人にはわかる地域”でいいと思っています。今後は、奥会津が大好きだから訪れる、あるいは移住は難しくても力になれることがあれば協力したいと思ってくれる人たちが、気が向けば顔を出し、地元の人たちと一緒に幸せを感じられる地域になっていけばと願っています。そこに向けた施策を考えていく中、当協議会や行政だけでは目線が固まってしまうので、外から見るNTT東日本の視点で新たな気づきをもたらしてほしいですね」

また事務局次長も「地域内外の奥会津が好きな人たちを橋渡しする役割を、今後も力を合わせて担っていきたいと思っています」と、NTT東日本への期待を明らかにした。

これを受けて阿部氏は「センターの職員として出向した時期も含めて3年間、地域に入って活動を続けてきました。奥会津は私にとって“人間らしさ”を見つけられる大好きな地域。同じように、奥会津が好きなみなさんが大事にしたいものを長く大事にし続けるにはどうすればいいのか、それを引き続き考えながら、一緒に奥会津の未来をつくっていきたいと思っています」と話す。両者のこれからのチャレンジを注目していきたい。
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