かつて東海地方で、「特別な日に行く高級レストラン」として親しまれていた老舗ステーキチェーン「あさくま」(7678)。しかし、牛肉の輸入自由化や低価格業態の台頭を背景に、その存在感は次第に薄れ、長く経営の苦戦が続いてきた。


そんな老舗の再建を後押ししたのが、親会社であるテンポスグループ(2751)による現場主義の経営だった。競合の強みもためらわず取り入れる実務的な改革が奏功し、足元では既存店売上高が前年比120%超となるなど、業績は大きく持ち直している。

一方で、業績が好調な現在も、同社は無配を続けている。株主還元より成長投資を優先する背景には、どのような考えがあるのか。

今回は、名古屋在住の長期投資家・なごちょう氏(@Nagoya_Tyouki)に、堅実路線で知られる競合・ブロンコビリー(3091)との比較も交えながら、あさくまの現状と今後の展望について伺った。
○一時代を築いた名店は、なぜ苦境に沈んだのか

東海地方の出身者にとって、「あさくま」は思い出深い店のひとつかもしれない。なごちょう氏によれば、1980年代の同店は、現在のロイヤルホストをしのぐほどの重厚感と高級感を備え、確かなブランド力を持っていたという。

だが、時代の変化とともに、その立ち位置は揺らぎ始める。牛肉の輸入自由化によって価格競争が激しくなり、さらに低価格業態も台頭。老舗という看板だけでは戦えない局面に入っていった。

そうした迷走を経て、2006年に中古厨房機器を手がけるテンポスグループと資本業務提携を結んだことで、再建への道筋が見え始めた。

「私が物心ついた頃から食べに行っていましたが、昔のあさくまは本当に高くて、庶民にとってはちょっとしたぜいたくでした。
それが牛肉自由化で安いアメリカ産牛肉が広がり、ファミレスでも気軽にステーキが食べられるようになると、一気に競争が厳しくなったんです。『地中海』のような、当時、木曽路(8160)が展開していたファミリーレストラン系の競合にも押され、店舗数もだいぶ減りました。そこからテンポスグループの傘下に入り、2019年に上場できるところまで立て直されたんです」(なごちょう氏、以下同)

○主役は肉じゃない?「あさくま」が次に賭ける一手

あさくまの大きな強みは、ステーキそのものだけではない。ファンの間で高い支持を集める「コーンスープ」や「カレー」も、同社を語るうえで欠かせない存在だ。

実際、2025年7月には新業態「カレーのあさくま」の出店もあり、自社の強みを別業態へ広げようとする動きが見えている。もっとも、課題がなくなったわけではない。店舗の老朽化や設備面のばらつきなど、チェーン店としての統一感にはなお改善の余地がある。

「『あさくま』のカレーとコーンスープは根強い人気があって、『ステーキよりこっちが目当て』と言う人もいるくらいです。新業態の『カレーのあさくま』も、牛すじカレーが700円台と手ごろですし、店舗デザインもおしゃれなので、個人的にはかなり期待しています。ただ、古い店舗はリニューアルが遅れていて、昔の機械をそのまま使っているところもあります。ブロンコビリーのように、どの店に行っても設備がきれいに整っているという感じではなく、店舗ごとの差はまだ気になりますね」

○老舗のプライドを捨て、業績は復活した

東海地方のステーキチェーンを語るうえで、ブロンコビリー(3091)との比較は欠かせない。両社の戦略は対照的だ。


ブロンコビリーが、店舗の統一感や定期的な改装にしっかり資金を投じる堅実な経営を続けてきたのに対し、「あさくま」を抱えるテンポスグループは、よいと思ったものを柔軟に取り入れる現場重視の色合いが強い。独自性にこだわるのではなく、競合の長所も素直に採り入れる姿勢が、結果として業績改善につながっている。

「ブロンコビリーの強みは、やはりあの充実したサラダバーです。『あさくま』はそこをかなり素直に取り入れて、サラダバーを導入しました。最初の頃はテンポスグループから持ってきた古い機械を使っていて、店舗ごとに内容もばらばらでしたが、最近は設備がそろってきて、かなり良くなってきました。老舗としての変なこだわりを捨てて、ライバルの良いところを取り入れたことが、今の業績につながっているのだと思います」

この改革は数字にも表れている。2025年11月から2026年1月にかけて、既存店売上高は123.7%、120.1%、126.9%と3カ月連続で前年同月を大きく上回り、回復の勢いは明らかだ。

過去の決算説明資料では、自社の子会社を「補助金で生き延びるゾンビ」と表現したこともある。こうした率直すぎるほど率直な経営姿勢は、洗練されたブランド戦略を前面に出す企業が多い外食業界の中では異色ともいえる。

「外食企業同士で、良いところを真似するのは珍しくありませんが、『あさくま』のやり方はかなり徹底しています。コロナ禍で閉店した飲食店から厨房機器を安く仕入れるようなテンポスグループの現場感覚が、同社の経営にも表れていると思います。以前は肉の質や従業員教育に不満を感じることもありましたが、テンポスグループ傘下に入ってからはかなり改善しました。
親会社のシビアな利益意識が、結果的に『あさくま』の再建につながったと言えるでしょう」

○「あさくま」が、無借金でも配当しない理由

業績の回復にあわせて、あさくまの株価は2025年後半から大きく上昇している。財務面を見ても、自己資本比率は70%に達し、実質無借金といえる水準にある。それでも、同社は無配を続けている。株主還元よりも、事業拡大や出店への投資を優先する方針だ。

「自己資本比率がこれだけ高くて、ほぼ無借金なのに無配というのは、いかにもテンポスグループらしいですね。投資家としては配当もほしいところですが、稼いだ現金は配るより、次の出店や事業拡大に回したいという創業者や経営陣の考えが強いのだと思います。既存店も全店も売上はかなり好調なので、今後も強気の出店計画が出てくる可能性は高いです」

今後については、両社とも国内での出店余地はまだ残されている。慎重に立地を選び、確実に利益を見込める場所に絞って出店するブロンコビリーに対し、あさくまは都市型店舗や新業態も含め、より積極的な拡大を進めていく構えだ。

この戦略の違いが、今後の成長スピードにどう表れるかが注目される。

「ブロンコビリーは、赤字になりにくい場所を厳選して出店する保守的なタイプですが、あさくまは出店計画でもかなり前向きです。この差が、これからの業績にどう出るのかはすごく興味があります。実は3月26日のブロンコビリーの株主総会に参加する予定なので、あさくまのサラダバー強化などの動きについて、どう見ているのか直接聞いてみようと思っています。
その回答次第では、また違った景色が見えてくるかもしれません」

再建を果たした老舗が、この先どこまで成長を加速できるのか。あさくまの次の一手は、外食株を追う投資家にとっても見逃せないテーマになりそうだ。

西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら
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