名古屋市で2026年2月13日、新たな路面公共交通システム「SRT(Smart Roadway Transit)」の運行が開始された。

同市が進めるまちづくりの一環として実施されている交通施策であり、都心部における回遊性の向上や賑わいの拡大を目的としている。


本稿では、名古屋市とNTT西日本の担当者への取材をもとに、SRTの取り組みを紹介する。

○新たな路面公共交通システム「SRT」の特徴

SRTは「Smart Roadway Transit」の略称で、連節バスをベースとした新たな交通システムだ。現在は名古屋駅~栄間で運行されている。

車両は全長18メートルを超える連節構造となっており、3つの扉から乗り降りが可能。ICカードに加え、クレジットカードによるタッチ決済にも対応している点が特徴で、スムーズな乗降を実現している。さらに、名古屋鉄道が提供するエリア版MaaSアプリ「CentX」とも連携し、アプリ上でのデジタルチケット利用にも対応する。

車両の外観は、有識者の意見を取り入れながら検討が重ねられてきた。デザインやITなど、さまざまな分野の専門家による懇談会を複数回実施し、街に調和しながらもインパクトのあるデザインを目指したという。タイヤカバーの採用などもその一環で、機能性とデザイン性の両立が図られている。

一方、車内には移動そのものを楽しめる工夫が施されている。前方にはカウンターテーブル、後方にはテーブル席を配置し、外の景色をゆったりと楽しめる空間となっている。窓には透明ディスプレイを設置し、走行位置に応じて周辺情報を紹介する仕組みを採用。
ディスプレイの先に外の景色を見られる設計とすることで、街に目を向けてもらうことを意図している。

「透明ディスプレイでは、例えば栄エリアであれば中部電力 MIRAI TOWERの紹介などを行っています。納屋橋や広小路本町といった停留所は地下鉄の駅から少し離れた場所にありますが、魅力的なスポットがあるにもかかわらず、これまで訪れる機会が少なかったエリアでもあります。そういった場所を知ってもらうきっかけになるよう、情報発信を行っています」(名古屋市 桃田氏)

また、停留所にはテラス型の乗降・待機空間を採用。車道側に張り出す形で設計することで、バスの正着性を高めるとともに、乗り降りのしやすさを向上させ、広くなった歩道空間の活用を目指していく。
○SRTの導入背景と狙い

SRTの大きな特徴は、「まちづくり」と一体で進められている点にある。

名古屋市は、政令指定都市の中でも道路率が高く、車利用が多い都市として知られる。車社会の利便性を支える一方で、都心部への車の流入が多いといった課題もあった。こうした背景のもと、同市は2011年9月に「なごや新交通戦略推進プラン」を策定。道路空間を活用しながら、“人が主役となる空間”へと転換していく方針を打ち出した。

SRTは2019年に構想が策定され、段階的な社会実験を重ねてきた。2022年には名古屋駅~栄間で連節バスを走行させ、一般モニターによる体験乗車を実施。
翌2023年には、広小路通のバス停をテラス型の乗降空間として仮説整備し、乗降のしやすさや交通への影響、回遊拠点としての機能などを検証している。

こうした取り組みを経て、2026年2月にSRTの運行が開始された。

「まちづくりという観点で、SRTは移動手段の一つだけではなく、新しい移動価値を提供することを念頭に置いています。目線を外に向けていただき、回遊性の向上につながったり、街の賑わいが生まれたり、さらに街の変化につながっていくことを狙っています」(名古屋市 中西氏)

○SRTを支える、NTT西日本のデジタル技術

この取り組みを支えているのが、NTT西日本のデジタル技術だ。SRTでは、車両の位置情報や混雑状況の可視化や、人の流れや利用状況を捉えるデータ分析の取り組みが行われている。

具体的には、車両に搭載されたGPSで走行位置を取得し、車内カメラにより乗車人数を把握。それらの情報を停留所に設置されたデジタルサイネージやWebサイトとリアルタイムで連携することで、利用者が現在の運行状況や車両の混み具合を把握しやすい環境を整えている。デジタルサイネージでは、他にもルート案内や乗車方法、運賃などが案内される。

「どこに車両があるかを視覚的にわかりやすくした点が特徴です。サイネージだけでなくWebサイトなどでもリアルタイムで確認できるようにし、どこからなら乗れるかなど利用者さんがわかりやすいシステムとなるよう工夫しました」(川口氏)

一方で、Wi-FiデータやスマートフォンのGPSデータなどを活用し、街全体における人の流れや滞在傾向の分析も行われている。どのエリアに人が集まり、どのように移動しているのかを把握することで、SRTが街に与える影響の検証につなげている。NTT西日本はこれまで、自治体と連携した人流分析やイベント時のデータ活用などの実績を持ち、今回のSRTでもその知見が活かされている。


「SRTを通じて、どのくらいの人がどの場所で、どのように滞在しているのかといった人の動きを分析しています。SRTを単に走らせるだけでなく、その後の効果測定を行いながら、まちづくりにどうつなげていくかが重要だと考えています。継続的にデータを蓄積し、改善を重ねていくことで、SRT事業をまちづくりに融合させていく、いわゆるPDCAのサイクルを回した取り組みを進めています」(早田氏)
○名古屋市のまちづくりを変えるSRT、次なる展開へ

SRTは現在、名古屋駅~栄間で運行されているが、今後は名古屋城方面へのルート拡大や、大須を含めた拠点を結ぶ形での展開が構想されている。名古屋市とNTT西日本は、今後の展開を見据え、引き続き連携しながら取り組みを進めていく。

「アジア競技大会が開催される9月に向けて、名古屋駅と名古屋城をつなぐルート開通の構想がある中で、今後のまちづくりにより一層貢献していけるよう、名古屋市との連携を深めていきたいと考えています」(原田氏)

また、人流データや利用状況をもとに、どのエリアに人の流れが生まれているのかを検証し、次の展開へとつなげていく。

利用者からの評価も高く、アンケートでは8割を超える人が満足と回答。「乗り降りがスムーズで使いやすい」「車両のデザインが魅力的」「新しい乗り物として楽しめる」といった声が寄せられている。また、有識者からも、都市の中で存在感を持つ新たな交通手段として評価されているという。

SRTは単なる移動手段にとどまらず、まちづくりを起点とした人の動き方や過ごし方に変化をもたらすことを目指している。今後も名古屋市とNTT西日本が連携しながら、その実現に向けた検討や取り組みを進めていく構えだ。
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