3月30日に開催された世界最大級のアニメイベント「AnimeJapan 2026」(東京ビッグサイト)。そのプログラムの一環として、「新興市場から戦略的パートナーへ ―アニメの未来を担う中東」と題したビジネスセミナーが行われた。


セミナーには、サウジアラビアのコンテンツ制作大手「マンガプロダクションズ」のCEO、ブカーリ・イサム氏らが登壇。イサム氏は「コンテンツは日本の石油である」と語り、アニメやマンガが持つ大きな可能性を広く訴えた。

○「コンテンツが日本の石油である」と断言する理由

プレゼン冒頭、イサム氏は家族のエピソードを紹介。中学3年生の娘が『ハイキュー!!』の影響でバレーボールを始め、成績も向上して奨学金を得たこと、2歳の息子が『アンパンマン』を歌い、小学3年生の息子が『スーパーマリオ』に夢中であることにも触れ、「私の家庭は日本のGDPにしっかり貢献しています」と会場の笑いを誘った。

そのうえで、イサム氏は「コンテンツは日本の石油だ」と断言する。

「日本のコンテンツ産業は2023年までに5.8兆円規模に伸び、もはやサブカルチャーではなく、メインカルチャーになりました。2033年には自動車産業を超える可能性もあります。しかし、潜在力だけでは競争に勝てません。どうマネジメントし、世界展開するかが重要なんです」

さらにイサム氏は長期視点を持つことの重要性も強調。日本のアニメ市場が年4%の成長にとどまるなか、中東は年14%の伸長が見込まれ、サウジアラビアでは「ドラゴンボールテーマパーク」、eスポーツワールドカップなどの大型プロジェクトも進行している。

「これまで我々はコンテンツを消費する側でしたが、これからは輸出する側になります。日本のコンテンツをサウジアラビアでエンターテインメントビジネス化し、世界へ届ける。
かつてサウジアラビアの石油が日本で製品となり、世界に輸出されたのと同じ流れを目指しています」

話題は制作現場におけるAI活用にも及んだ。イサム氏は、ジブリ作品のデータ不正使用問題に触れ、国際的なルール整備の必要性を指摘する。一方で、AIを排除するのではなく、“使いこなせる人材への投資”が重要であるとも語る。

実際に、マンガプロダクションズではAIを活用した制作実験を実施。通常は制作に1年かかる映像を、著作権的にクリーンな独自データベースを用いたAIによって、わずか3日で完成させたこともあると明かす。

「コストは100分の1。もちろん完成度は異なりますが、市場に出す分には十分でした。当初はアーティストから批判もありましたが、『これは我々のアーティストがAIを使って作ったものだ』『これからも我々にとって、最も大切な財産はアーティストであり、彼らを最もAIが使えるような人材にしていく』とコメントし、3カ月後には批判も収まりました」

また、イサム氏が経営するマンガアラビアのアプリでは、海賊版サイトを上回る読者数を獲得。適切なローカライズと技術活用が、ビジネスチャンスだけでなく不正防止対策にもつながっていることを示した。
○「メイド・イン・サウジ」ではなく、「ウィズ・ジャパン」

その後のパネルディスカッションでは、日本側のパートナーらも登壇。テレビ東京メディアネットの大信田氏は、マンガプロダクションズや東映アニメーションと共同制作した『アサティール 未来の昔ばなし』を例に挙げて語る。

「これまで日本発祥の作品を海外に届けるのが主流でしたが、サウジアラビアの物語を日本で制作し、日本で放送、世界へ配信するという、今までにない経験をしました。
今はコンテンツの輸出先ではなく、開発やイベントなどを共に行うポテンシャルがある国として注目が集まっています」(大信田氏)

Production I.Gの和田氏は、イサム氏との長期的な関係性に言及する。

「彼らは10年、20年、30年というスパンで物事を考えている。日本から見る世界の景色と、サウジアラビアから見る世界の景色はまったく違います。互いの文化を尊重しながら、一緒に日本のアニメを盛り上げていける戦略的パートナーとして、マンガプロダクションズのチームをとても信頼しています」(和田氏)

サウジアラビアのイベント・エンタメ大手「Sela」のMohideen Nazer氏は、ファンとの接点となる“ライブイベント”の重要性を強調。サウジアラビアで開催された「アニメビレッジ」「アニメタウン」「アニメシティ」といったイベントでは、最大で1万枚ものチケットが完売したという。

「いかに市場がライブイベントを求めているかがよくわかるかと思います。ライブイベントを充実させることでロイヤリティが高まり、ファンとの関係もより深まり、より強く繋がれると思っています」(Nazer氏)

最後にイサム氏は、「メイド・イン・サウジ」ではなく「メイド・イン・サウジ・ウィズ・ジャパン」という考え方にこだわる姿勢を示し、共同制作の意義を訴えた。

「アニメというのはプラットフォームです。世界で多くのアニメスタジオが出ていますが、それはみんなが日本に対するインスピレーションと尊重の気持ちがあったからこそ。我々はこれからも日本が1番大切なパートナーであると同時に、世界の動きもしっかり見ておきたいと思います」(イサム氏)
編集部おすすめ