胸がいっぱいになるラストを迎えた韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(Netflix)。今も余韻から抜け出せずにいる人もいるのではないだろか。

自閉スペクトラム症でIQ164の頭脳を持つ新人弁護士ウ・ヨンウ(パク・ウンビン)が法廷や私生活で壁にぶつかりながら成長していく物語は、多くの人を魅了させた。今回は、Netflixのテレビ部門(非英語)グローバルトップ10で、7月の第5週から8月の第4週まで5週連続1位を獲得するほどヒットしている本作が愛されている理由を探る。(文=ヨシン) ※本記事はネタバレを含みます。ご注意ください

■大ヒットした理由は?

 本作が大ヒットした理由は、俳優と役柄との相性の良さや、メッセージ性のある脚本、細やかな演出はもちろんのこと、障がい者や性に対する差別、相続問題、大規模道路工事による訴訟、学歴社会などの身近な問題が取り扱われた点も大きい。ほとんどの人が社会で生きる窮屈さを感じた経験があるだろう。それ以上に、その先に温かい社会があってほしいと願う人もいるはずだ。エピソードごとに奮闘するヨンウは、時にはその気持ちを背負ってくれて、時には想像したことがなかった痛みを伝えてくれた。

 また、ドラマの中に登場する、ヨンウの親友トン・グラミ(チュ・ヒョニョン)とヨンウがお互いの名前を呼びながらポーズを決めるキャッチーなあいさつも話題に。BTSをはじめ多くの芸能人がマネをした映像がSNSに流れ、さらなる人気を呼ぶ現象も起きた。

 その上、広大な海や窓の外でクジラやイルカたちが泳ぐ映像演出は、ヨンウの世界観にどっぷりと引き込む。ヨンウが突破口を見つける瞬間に決まって流れるBGMは神秘的なのに爽快感があり、この効果音まで韓国のアカペラグループMayTreeが担当した。そして、ヨンウが見ている世界が楽しめるイントロから淡いタッチで彩られた優しさがあふれるエンディングまで、スキップボタンを押さずに作品の隅々まで堪能したくなる演出が施されている。


■ウ・ヨンウ演じたパク・ウンビンの力

 加えて、パク・ウンビンが演じたからこそ、ヨンウが視聴者から愛されるキャラクターになったのは言うまでもない。子役から活躍し、キャリアと実力のある彼女でも、自閉スペクトラム症の弁護士を演じることにより誰かを傷つけてしまうかもしれないという理由で引き受けるまでに1年を要した。

 ドラマの放送を終え、本人のInstagramには「怖いけど勇気を出してやってみること、ヨンウが歩もうとした道であり、ヨンウを通して学んだ道です。その道をパク・ウンビンも共にした旅路でした(一部抜粋)」とつづられている。覚悟を持って挑み、役柄と真摯(しんし)に向き合ったパク・ウンビンの人としての魅力がウ・ヨンウという人物をより輝かせたのだろう。

■ハンバダのメンバーも魅力的

 それから、主人公ヨンウだけでなく、ヨンウが働く大手弁護士事務所ハンバダの人々が、人間らしさのあるキャラクターだったのも良かった。

 上司のチョン・ミョンソク(カン・ギヨン)は、SNSで“理想の上司”として名が挙げられるほど好感度が上昇。だけど彼もはじめはヨンウに偏見を持っていた。

 また、同じロースクール卒業で同期のチェ・スヨン(ハ・ユンギョン)は絶対に敵わないヨンウに複雑な心情を抱えながらも、困っているヨンウを持ち前の正義感で守っている。ヨンウにとって“春の日差し”の彼女は、「弱者は強者だ」とヨンウをハンバダから追い出そうと企むもう一人の同期で“腹黒策士”のあだ名がついたクォン・ミヌ(チュ・ジョンヒョク)にあろうことか好意を寄せてしまう。しかしスヨンはミヌの“太陽”となり更生させていくまさかの展開に。

 そしてヨンウに恋をしたイ・ジュノは、とにかく心の優しい青年である。
ジュノの言葉はヨンウ(と視聴者)をドキドキさせるが、一つひとつの表情からは愛があふれて止まらない。ヨンウに向けた眼差しや笑顔まで繊細に演じたカン・テオの表現力には驚かされるばかりだった。そんなジュノでも、家族にヨンウを会わせたい気持ちを優先してしまいヨンウに無理をさせてしまうことも。キャラクターたちの良い面だけを描いていないからこそ、人間らしさを感じ、視聴者の深い共感を生み出したのだろう。

 身近な問題が扱われたストーリーに、世界観に引き込む演出、そして愛すべきキャラクターたちなど、それらの要素がうまく混ざり合い、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は愛されるドラマになっていったのではないだろうか。社会から偏見がなくなることはないかもしれない。けれど多様な種類の生物が共存している海で、あんなにも巨大なクジラは優雅で自由に泳いでいる。まるでその姿は「変わっていても自分には価値がある」と伝えてくれたヨンウのようだ。

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