『七つの大罪』の鈴木央が、1998年から2002年にかけて、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載していたゴルフ漫画『ライジングインパクト』。小学三年生の主人公・七海ガウェインが、女子プロゴルファー、西野霧亜にゴルフの才能を見出されたことをきっかけに、世界一のプロゴルファーを目指す姿が描かれている。

そんな本作が、25年の時を超えてNetflixでアニメ化され、シーズン1が独占配信中、そして8月6日(火)からはシーズン2が独占配信される。今回は原作者である鈴木央とガウェインを演じた久野美咲にインタビューを実施し、作品・キャラクターの魅力だけでなく、『七つの大罪』からの付き合いになる鈴木と久野の関係性に迫った。 (取材・文=ふくだりょうこ/写真=小川遼)

■鈴木「僕よりもうまいじゃないか!」と驚き

――まずはアニメ化が決まった時の思いをお聞かせください。

鈴木:『ライジングインパクト』は25年前の作品で、僕の中の中二病がくすぶっている漫画だったので、アニメ化が決まった時は恥ずかしさもありつつ…(笑)。素晴らしいキャストとクオリティで作られたアニメが完成して、安心して見ることができました。

――久野さんは、出演が決まった時のお気持ちはいかがでしたか?

久野:オーディションの時から、ガウェインの魅力や作品の面白さを感じていたので、決まった時は心からうれしかったです。受かったと聞いた時は「本当に良いんですか!?」って信じられませんでした(笑)。

――原作の魅力はどういったところに感じていらっしゃいますか?

久野:ゴルフは正直、詳しくなかったのですが、知らなくてもすごく分かりやすいし、物語にもすぐひき込まれましたね。登場するキャラクター全員が胸に熱いものを持っていて、その気持ちと気持ちがぶつかり合う人間ドラマが描かれているんです。試合のシーンだったり、その中にある友情だったり、お互いへの信頼感だったり、負けたくない強い思いだったり…。いろいろな気持ちがあふれていますし、読んでいてドキドキワクワクして心が揺さぶられる作品だなって思いました。

――鈴木先生は、連載時に印象に残っていることはありますか?

鈴木:初めて連載を取った漫画だったので、そういう意味でもすごく印象に残っています。
全くゴルフを知らないまま描き始めた作品なのですが、ゴルフの起源であるスコットランドの風景だったり、アイアンやドライバー、パターのように少年誌的にわかりやすい「俺の武器」があったりと、ファンタジーな要素を生かしつつ漫画化できそうだなと思った記憶がありますね。ただ、ゴルフに関しては、本当に素人だったので、主人公はとりあえず「すごく飛ばせるけど、真っすぐにしか飛ばせないやつにしよう」と思って描きました。そうしたら、しばらくしてから、「真っすぐ飛ばすことが難しいんだけどね」と言われて(笑)。とんでもないやつを描いちゃいましたね。

――ゴルフを知らないからこそ生まれたヒーローだったのですね。

鈴木:そうかもしれませんね。だからこそ、ほか雑誌のゴルフ漫画とは違う毛色の作品になったし、何よりゴルフを知らない僕が描いたので、知らない人でも読める内容になったと思います。確か、連載1話目のあおりが「ゴルフって親父くさい? いやそんなことない!」とかだったかな。昔はどうしてもサラリーマンのお父さんがゴルフをやるイメージがあったのでハードルはちょっと高かったんです。まず、ゴルフ漫画を読んでくれるかという不安もあったので、主人公はゴルフを知らない少年がゴルフと出会って、ゴルフを始めて、魅力に気付いていく…という作りにしました。当時はいろいろ考えて描いていたなと思いますね。

――アニメ化するにあたって何かリクエストされたことはありますか?

鈴木:それこそ連載から25年も経っているので、「キャラクターを今の絵に直しますか」というお話をしたのですが、当時から読んでくれていたスタッフの方々に、原作の絵を基盤として作りたいと言っていただいて。
なので、例えば、カラーがないキャラクターについては、色味などチェックはしますが、基本的にはなるべく口出しをしませんでした。作りやすいように作っていただけたほうがいいというスタンスでしたね。

――実際に映像を見られた時はいかがでしたか?

鈴木:「原作に忠実に」って言ったのに、僕よりもうまいじゃないか! って驚きました。原作がひどかったですね(笑)。

久野:そんなことないですよ!

鈴木:(笑)。でも原作者からしても本当に素晴らしい映像でした。やっぱり声が入ると違いますね。当時はアニメ化をするなんて想像もしていないので、「この声でやってほしい」というのもありませんでしたが、実際に声が入るとガウェインたちが本当に生きているようで感動しました。

――ガウェインのかわいさも印象的ですが、久野さんは演じられる際はどういった点にこだわられたのでしょう?

久野:ガウェインの真っすぐな心を何より大事にしました。(ガウェインは)誰に対しても、正面から相手と向き合うんです。もちろん、自分の心とも。どんな感情からもガウェインは逃げないんですよね。
その分、苦しむこともあるけれど、だからこそ成長もできて。ゴルフが大好きだからこそ、心から楽しむことができて、全力で打ち込めるんです。それってかけがえのないことだと思いますし、ゴルフを通して出会った人たちの存在も大切で、ゴルフをしている一瞬一瞬が、ガウェインにとっては宝物なんだろうなって。そういう、彼の目を通して映っているキラキラしたものを表現できたらいいなぁと思っていました。

――久野さんが演じられたガウェインについて、鈴木先生はどういった印象を受けられましたか。

鈴木:僕はオーディションの時に、久野さんがいいなと思って推していました。ほかの方の声も全部聞いて、皆さん本当に上手なのですが、久野さんが演じたガウェインは、東北の田舎で育った天然の、いわゆるプニッとしたところも表現されていて、全てが合うなと思いましたね。試合だとか、後半の激しいシーンはもうお任せです(笑)。

久野:えーっ! そんなそんな!

――鈴木先生からこういったお話を聞かれるのは初めて?

久野:こんなにたくさん自分のお芝居について央先生から伺うことはなかったです。恥ずかしいですけど…うれしいです! ありがとうございます!

鈴木:いえいえ(笑)。

■久野、まさかのど忘れ!?

――そんなお二人は『七つの大罪』からのご縁で、関わりは長いんですよね。

久野:実は『七つの大罪』の時もほとんどお話をしたことがなくって…。


――そうなんですね!

久野:私、本当に人見知りで。央先生がお忙しい中、よくアフレコ現場に来てくださっていたんですけど、キャストのみんな、央先生と話したくってわーって囲むんです。でも、私はそれをスタジオの隅から見ていました。

鈴木:『七つの大罪』の打ち上げで酔った時には話しかけてくれていましたけどね。

久野:え! そうなんですか? 全然覚えていないです…。

鈴木:覚えていないだろうなと思って、その時も話していました(笑)。でも『ライジングインパクト』からはよく声をかけてくださったんです。僕もアフレコの現場に行った時は、キャストさんたちと話をしたいけれど、どんな風に声をかけていいか分からないんですよね。結局「お疲れさまでした」しか言えない。

久野:主人公だから頑張ってコミュニケーションを取らなくちゃって思って(笑)。今回、『ライジングインパクト』の最終話のアフレコのあと、音響打ち上げで隣の席に座って初めてがっつりお話したんですよね。

鈴木:いや、でも僕は話したことあるから(笑)。


久野:あははは!

鈴木:久野さんが酔っているから忘れているだけだよ。

久野:私の記憶に残っているのは『ライジングインパクト』の打ち上げが初めてで…(笑)。やっと央先生と一対一で話せた! って感動していました。

鈴木:(笑)。でも、本当に人見知りじゃなくなったなと思ったよ。

――お付き合いが長いからこそ、変化も見ていらっしゃるんですよね。

久野: 10年前ですもんね、初めてお会いしたの。

鈴木:本当に昔の久野さんはシラフだと一切話しません。

久野:そうなんです、シラフだと(笑)

鈴木:誰かの影に隠れていた感じがありましたね。話はするけども、か細い声で一言かけてくださるみたいな。本当に大人になられたと思います。素晴らしいですね。


久野:なんだか恥ずかしくなってきちゃいました(笑)。

――では改めて本作の見どころを最後に教えていただければと思います。

鈴木:ガウェインは、僕の中では普通の小学生の男の子です。格好いいけれど、かわいさもあって、かつプニプニしたところがある。『七つの大罪』で久野さんがホークという豚を演じた時に足音を口で「トントコトントコ」と演じてくださったんですけど、今回も「プニプニ」も口で演じてくださって。また新しいガウェインという生物を作ってくださったなと思っています。その上で、ほかのキャラクターがいい化学反応を起こしていて、いい作品になっているなと思うので、そこを見ていただきたいですね。音は大事です。

久野:この作品には、ガウェインを始め、いわゆるギフトという才能を持ったキャラクターたちが出てきます。一見すると、あまり身近に感じられないキャラクターだと思ってしまうかもしれませんが、実はみんなものすごく努力をしているんですよね。どんなにすごいって思う人でも、誰にも見えないところでそれぞれ頑張っているんだなって。どんな時でも諦めずに、ライバルにも、そして自分にも負けないように努力している姿を見ていると、私たちも頑張ろうと勇気をもらえます。ギフトにおごり高ぶることなく、心から楽しむ気持ちを忘れずに、強くなるために努力を重ねていく…そんなガウェインを演じれば演じるほど、どんどんガウェインのことを大好きになっていきました。この作品をご覧になる方たちの胸にも、何か届くものがあったらいいなぁと心から願っています。

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