『あさってDANCE』『ファンシー』などで知られる山本直樹の原作を、廣木隆一監督が映画化した『夕方のおともだち』。SMクラブの女王様のもとに足しげく通う“本物のM”の主人公・ヨシダヨシオを、今年俳優デビュー30周年を迎えた村上淳が演じている。
「役者という職業はマゾヒスティックかもしれない」と語る村上。「オファーがなくなったくらいで役者を辞めるなら、その程度の志ということ」との持論も。さらに活躍中の息子・村上虹郎を含めた2世俳優たちへの思いも口にした。
【写真】俳優デビュー30周年の村上淳、渋さが増してさらにかっこよく
◆役者という職業はマゾヒスティック
俳優デビュー30周年というメモリアルイヤーに、『L'amant ラマン』をはじめ、多くの作品で組んで来た廣木隆一監督のもとで主演を飾ることになった村上。しかし、本人は「そこはまったく意識してないですね」とさらり。「僕は、そもそも毎日が記念日だと思っているタイプ。ただ、いわゆる一般的な区切りとしての30周年と、こういうことが重なったというのは感謝しかないです。徳とか善みたいなものって重なるじゃないですか。だから今回はスクリーンの女神のご褒美なのかな」と話す。
本作は激しいSM描写があることも話題だ。村上演じる主人公・ヨシダは、女王様にヒールで踏まれるどころではない激しいプレイに身を任せる、自他ともに認める“本物のM”。妄想シーンでは“SMオリンピック”で金メダルをかけている場面もある。
猿ぐつわ姿で海中に放置されているシーンは、極寒の海での撮影だったそうで、改めて役者という仕事のすさまじさを感じるが、「僕の持論ですよ」と前置きしながら「マゾヒスティックな要素が強くないと、役者は厳しいかもしれませんね」と明かした。
◆ニーズがないくらいで諦めるなら、その程度
さて、役者という仕事には、一般的に「求められてナンボ」「オファーがなければ始まらない」「観客に求められなければ成り立たない」といった言葉を耳にすることが多い。しかし村上は「オファーがなくなったくらいじゃ辞めない。諦めない。しがみつく」と力強く断言する。
「僕からすると、世の中から求められていない、ニーズがないからという理由で諦めるんだったら、所詮はその程度です。この考えは昔からずっと変わらないです。好き嫌いとか、世間のニーズには波があります。時には5年間ニーズがゼロという時もあるかもしれない。でもそこで辞めるなら、その程度の志ということなんです」と迷いなく話し、自身の強い志は、「二十歳で映画の現場に初めて入った、最初の時からです」と明かす。
「20代までは、僕にはファッションリーダーとしてのいわゆる“ムラジュン”としてのイメージが強かった。今だにファッションモデルと書かれますからね。
モデル時代の仕事にも自負はありますよ。でも、二十歳で初めて映画に参加して、20代のうちから、次の10年に残せる作品に参加してきました。だから、いつまで言うんだろうと思いますけど(笑)」と本音をチラリとこぼしながら胸の内を見せる。
「5年間ゼロだったとしても、20代、30代、40代と、1本か2本でも、次の10年まで残せる作品があれば、自分にたすきをかけられます。1本もなければキツイと思いますが、自分の30代には『ヘヴンズ ストーリー』『Playback』があった。そして40代では、滑り込みでこの映画が入ってきたので、50代へようやくたすきが渡せる。『夕方のおともだち』を残したから、50代の自分も頑張れよと」。
◆今の2世の俳優たちは、より頭を使っている
たすきといえば、父親と同じく俳優の仕事を選んだ息子・村上虹郎も、順調にキャリアを積んでいる。連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の岡山編での好演も話題になったばかりだ。村上は「うち、テレビがないので(息子の演技を)見てないんですよ」としながらも、「DNAってすげーとは思いますよ。離婚してから2~3年くらい会えていなかった時期があったんですが、久しぶりに会うのに駅まで迎えに行ったら、動きが僕そっくりだったんです」と一気に目尻を下げた。
「DNAが近い僕に抗(あらが)うわけでもなく、なぞるわけでもない。
虹郎に限らず、2世というのは、すごく頭を使っていると思います」と評価する。そして「今の20代半ばの子たちは、すごく頼もしいと思っています。キャスト、スタッフ含めて、彼らが今後のエンターテインメントを塗り替えていくわけです。コンプライアンスや常識を書き換えるとか」と、若い世代全体へ言葉をかけたうえで、世間ではポジティブな意見ばかりではない2世に関して「特に彼らはそれを意識してやっていると思います」と述べる。
「環境もあるんでしょうね。考えることが多かったんでしょう。例えば仲野太賀くんとか石橋静河ちゃんとか、もう少し上で言うと安藤サクラちゃんとか、柄本兄弟とかもそうですが、2世の子たちは、そうした意識が特にある、“わかってるな”と思います。それぞれにオリジナリティを出しているし、2世というのは、より頭を使っていると思います。本当に頼もしいですね」と言葉をかみしめた。
そしてもちろん、自身も邁進(まいしん)し続ける。「僕もね、たとえば60歳とか考えたとき、マスに落ちる玄人になっていないと、と思っています。いわゆる“バイプレーヤーズ”の方々のように、本当の意味での実力を持っているポジション。
今の僕はプロではあるかもしれないけど、玄人ではない。玄人でないと60代は生き延びられない。そのためには、今を楽しく、難しい顔をしないで仕事をしていければと思います」と言う村上。「難しい顔をしている人には仕事は来ないです。たとえ仕事が一流だとしても、人柄が二流ならその人は三流だと思います」。
己の軸をぶらすことなく、ひとつひとつの仕事を積み上げていく俳優・村上淳。50代も60代もかっこよく突き進む姿が目に浮かぶ。(取材・文:望月ふみ 写真:松林満美)
映画『夕方のおともだち』は公開中。
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