元宝塚歌劇団雪組トップスターで、退団後は女優として幅広い活躍を見せる音月桂。舞台出演が続く彼女が、この春挑むのは三宅健主演の舞台『陰陽師 生成り姫』の物語のカギを握る徳子姫。
【写真】周りを明るくする笑顔が印象的な音月桂 インタビューも笑顔あふれるものに
座長・三宅健の飾らない雰囲気に緊張がほどける
本作は、夢枕獏による同名小説をマキノノゾミ脚本、鈴木裕美演出で舞台化。平安時代を舞台に、陰陽師・安倍晴明(三宅)が、無二の友・源博雅(林翔太)と共に、心の奥底に潜む鬼にむしばまれてしまった徳子姫(音月)を救い出すために奮闘する姿を描く。
――本作への出演オファーをお聞きになり、まずどんな印象をお持ちになりましたか?
音月:国内に限らず、世界中で愛されている作品なので、うれしい気持ちももちろんありましたが、ちょっとプレッシャーもありました。皆さんがイメージされる世界観がきっとあるんだろうなって…。『陰陽師』という作品に携わるのも初めてですし、呪いをかけるといった怖いイメージもあったのですが、原作を読み始めてみると、面白くてどんどんのめりこんでしまって! 楽しそうだなってワクワクした気持ちが湧いてきました。
――演じられる徳子姫は、悲しい運命から鬼になりかけてしまうという女性です。
音月:原作を読み終わるころに、すーって涙が出てきました。届かない思いや誰かに裏切られた思いなど、ネガティブな気持ちが膨らみ溢れて復讐(ふくしゅう)の鬼と化してしまうところは、女性だけじゃなく男性でも、誰しもが持ち合わせている感情だと感じました。そういう負の部分や、悲しい、苦しい、つらいというものを思いっきり演じるのって、すごく大変なようですけど、原作を読んで共感したこともあって、役に寄り添うことが嫌じゃなく、全然違和感がないんですよね。徳子姫の中には、鬼になってしまう自分をどこかで引き留める自分もいて、葛藤がすごくあるので、演じがいがあります。
――音月さんは、ミュージカル『ナイツ・テイル―騎士物語―』のエミーリア姫、『華‐HANA‐』のおね(北政所)に続いて今回の徳子姫と、“姫女優”と言ってもいいほど“姫”続きですが…。
音月:あはは! 初めて“姫女優”と名付けていただきました(爆笑)。どのお姫様を演じていても“お姫様も人間なんだな”って感じます。みんなと同じように悩むし、みっともないところもみじめなところもいっぱいあって愛おしい。でも、今回はさらに鬼にならなくてはならない。とても新鮮です。
――安倍晴明を演じられる三宅健さんとは初共演とのことですが、どんな印象ですか?
音月:三宅さんが晴明に扮(ふん)したビジュアルを拝見して、「あ、美しい! 負けた…」って(笑)。妖艶で、美しくて、それこそ雅な感じで…。初めてお目にかかるときは緊張していたんですけど、三宅さんが誰に対してもフラットで、気さくに声を掛けてくださる方なので、いらぬ緊張がほどけていく感じでした。一緒にひとつの作品を作っていく仲間だよねという感じというか、スクラムを組むようなフレンドリーさがあって、皆さんが自然に笑顔になれるんです。やっぱり座長を務められるというのはすごく大変なことだと思うんですけど、座長の方がリラックスされていると、すごく和やかというか、のびのびと委縮せず、何事も怖がらずにチャレンジできる。そういう雰囲気づくりを三宅さんが無意識なのかもしれないですけどしてくださるので、公演を重ねるごとにどんな深まりを作っていけるか、とても楽しみです。
宝塚卒業から10年 表現する仕事を辞めたいと思ったことはない
――2012年12月に宝塚歌劇団を卒業してから今年で10年。
音月:どっちもあるかな…。宝塚を辞めた時には相当覚悟したんです。外の波は荒波だろうな、いろいろ大変なことあるだろうなって。どうしても宝塚は守っていただいていて、ホームグラウンドのような優しさもあったので。改めて振り返るとこの10年は、けっこう自分の中では激動で、いろいろありました。いいことも、壁にぶつかることもあったし。濃厚な10年だった気がします。早いっていう感覚が合っているのかな…。
――卒業する時に、思い描いた10年後にたどり着けている感じでしょうか?
音月:一番は、私は何かを表現するっていうお仕事を続けたいって思ってたんですね。自分がやっぱりやりたいなって思うことがある限りは、このお仕事はしたいなって思っていて、その気持ちは今も変わらないんです。いろんなことがあって、できないことがあって落ち込むことや、投げ出したくなることもあるけど、でもこの仕事を辞めたいと思ったことは一度もなくて。宝塚の時も、“もうやだ、舞台なんて!”って思ったことは一度もないんですよね。
でも、宝塚の時は与えられるものに対して100%でお返しするという感じの受け身の姿勢でいたのが、今はハングリーになりました。自分のやりたいことを自分の表現方法で、発言したり表現したりしていくことがやっと楽しくなってきたかもしれない。10代から宝塚にいたので、自分の個性だったり、内に秘めたものをそこまで全部出しちゃいけないと勝手に抑えていたのですが、なんとなく、少しずつ出てきて。10年経って、本名の自分に近くなってきている気がします。
――音月さんは、歌、ダンス、お芝居とすべて兼ね備えている印象ですが、本当にお芝居がお好きなんですね。
音月:好きな順番をつけるとしたら宝塚下級生時代は、踊り、歌、お芝居の順で、お芝居には苦手意識がずっとあったんです。一度、音楽も踊りもない日本物のお芝居に出たことがあって、そこでお芝居の楽しさを覚えて。そうなると、自然と踊りや歌にお芝居の気持ちが入るようになって味わいが出てくるような感覚がありました。表現することが好きなんだと思うんですけど、芸事にゴールはないし、そこがいいところだとも感じていて。いつも何かを追求して、どうにか自分の手に入れたいと思いながら探し回っている状態が私は好きなのかなって思います。
20代の頃は年を取るのが怖かった 充実の30代を経て新たな心境に
――この10年で大きなターニングポイントになった出会いはありましたか?
音月:どれも大きいですね。それこそ姫の役も、最初は娘役に連絡して“ドレスってどうやって持つの?”って聞くところから始まって(笑)。
『ナイツ・テイル-騎士物語-』との出会いも大きかったですね。(堂本)光一さん、(井上)芳雄さん、もちろんそれぞれお一人でも素晴らしい方たちですけど、そのお二人がタッグを組まれたというとても奇跡な公演だったので、お二人からたくさん吸収させていただきました。(上白石)萌音や、(島田)歌穂さん、皆さまそれぞれの世界観からたくさん勉強させていただいて。
そうそう、光一さんと三宅さんって同い年とお伺いして! 個性の異なるお二人ですが、お二人とも、作品に対する姿勢やカンパニーを引っ張っていく姿に、プロ意識をすごく感じるので、今回もたくさん勉強させてもらいます。
――今年で卒業から10年、来年は初舞台から25周年を迎えられます。
音月:まさか、こんな日がくるとは思わなかったです。20代の頃は年を取るのが嫌だったんですよね。これからどんどん役のふり幅が減っていくんじゃないかって、怖かったんですよ。それが30代になって心配していたようなこともなく、30代って楽しいなって。すごく充実した30代と、40代もそこに深みというか経験も載せられるようになってきたら、年を取ることも怖くなくなってきて。年相応に今の私が表現できる最大限のものをお見せできる、いろんな引き出しをもっともっと見つけたいなって思っています。
20代、30代ってダッシュでがむしゃらに走ってた気がするんです、なりふりかまわず。それが、少しペースダウンできて、周りを冷静に見られるようになってきたと思うので、頂いたものを受け止めて、しっかりお返しするように、1日1日を丁寧で誠実に過ごしていきたいなって思っています。
――お忙しい毎日だと思いますが、プライベートの充実はいかがですか?
音月:最近、BTSにハマってまして(笑)。ファンクラブに入って、“ARMY”(編集部注:BTSのファンの名称)になったんです(笑)。今、ファンの方の気持ちを実感しています、推しのいる生活ってこういうことなんだなって。誰かを好きになって、その人のYouTubeを見たり、音楽を聴いたりすることでこんなにテンションが上がるのかと思うと、私ももっと頑張らなきゃって、あらためて気が引き締まります。(取材・文:編集部 写真:高野広美)
舞台『陰陽師 生成り姫』は、東京公演が新橋演舞場にて2月22日~3月12日、京都公演が南座にて3月18~24日上演。