現在放送中の日曜劇場『DCU』(TBS系/毎週日曜21時)では熱くまっすぐな若手隊員を、Netflixオリジナルシリーズ『新聞記者』では、最も視聴者に近い視点で政治を見つめる青年という難役を好演した横浜流星。作家性の強い作品で、丁寧な芝居を積み重ねてきた横浜が、最新作の映画『嘘喰い』では、漫画原作のややデフォルメされたキャラクターをエンターテインメントとして昇華させる芝居を見せた。

「僕にとってはあまり経験のなかったジャンル。とても学ぶことが多かった」と語った横浜の俳優としての流儀に迫る。

【写真】優しい笑み&鋭い視線も さまざまな表情を見せる横浜流星

原作ものは、リスペクトしつつ、物まねにならないように

 迫稔雄の人気コミックを実写映画化した『嘘喰い』。横浜は、国家をも凌(しの)ぐと言われている闇ギャンブル倶楽部“賭郎”の頂上決戦で敗れたものの、再起を図るために躍動する天才ギャンブラー・斑目貘を演じる。これまで横浜といえば、作家性の強い作品で、等身大のキャラクターを演じることが多かったが、自身にとってもエンターテインメントのど真ん中で、ややデフォルメされた役を演じるのは、これまでにない経験だった。

 「リアリティを出すために抑えると、作品の持ち味は損なわれてしまう危険性がある。一方で、やり過ぎると映像作品としてのテイストと違ってしまうかもしれない。正直、どこまで振り切ったらいいのかというさじ加減は難しかったです」。

 クランクイン前に迷いがあったからこそ、現場ではメガホンをとった中田秀夫監督と、かなりの時間をかけて綿密に意見を交わした。

 「この作品に限らず、台本を読んで感じたことは現場に入る前に持っていくようにしています。でも僕が持ってきたものが、必ず正しいとは思っていないので、現場では監督の意見をお聞きして、同じ方向を向けるように、しっかり話をすることを心掛けています。特に原作がある作品は、原作をリスペクトしつつ、でもそこにとらわれ過ぎてしまうとただの物まねになってしまうので、キャラクターの内面を大切に考えて、芯がブレないように意識しています」。


 こうした横浜の姿勢は「携わる作品を良いものにしたい」という強い思いからきている。特に本作のように主演として作品に臨む際には、より視野を広く持つ必要性を感じているという。

 「もちろん監督が作品の中心にいるという前提はあります。でも作品に参加するみんなが、良いものを作ろうと考えて提案することに対しては、やっぱり妥協せず納得するまで話し合った方がいい。もちろん誰に対しても失礼のないように…ということは大切にしています」。

『DCU』で共演の阿部寛は理想の座長像!

 こうした思いは、俳優を始めたころから意識していたという。しかしデビュー当時は、自分のことでいっぱいいっぱいで、なかなか実践はできなかったと言うが、少しずつ変化を感じることができているという。

 「いまでも全然余裕はないのですが、作品を重ねることで、少しずつですが思っていることを伝えて、みんなで作品を作っていければ…という気持ちは実践できているような気がします。でも、作品が変われば監督も変わり、やり方も変化する。まだまだ自分の中で引き出しが多くないので、もっといろいろな経験をしていかなければと思っています」。

 本作では、座長として作品の中心に立った。過去にも主演としての経験はあるが、意識の変化はあったのだろうか――。


 「僕は共演者の先頭に立って、みなさんとコミュニケーションをとれるタイプじゃないので、どちらかと言えば、自分ががむしゃらに作品に向き合うことで、それを見た方たちが、なにかを感じていただければいいなというスタンスです。まだまだ、現場を引っ張っていくような立ち居振る舞いは難しいです(笑)。ただ今回の作品では、佐野(勇斗)くんとバディを組むのですが、その関係性はとても大事だったので、普段からしっかりとコミュニケーションをとろうと心掛けていました」。

 それでも先輩の背中を見て、影響を受けることは多い。現在放送中の日曜劇場『DCU』でタッグを組む阿部寛の立ち居振る舞いには大いなる刺激を受けた。

 「阿部さんもご自分を追い込んで、誰よりも作品とご自身の役に向き合っている熱い方。それを背中で見せてくださるので、ついて行きたいと思える。でもだからと言って話しかけづらいわけでもなく、ちゃんと向き合って真っすぐ返してくださる。本当にすごく格好いい方です」。

作品を観ていただくことで僕らの仕事は成り立つ

 日曜劇場『DCU』、Netflixオリジナルシリーズ『新聞記者』、そして本作と出演作品が重なった。しかもそれぞれ、まったく違う顔の横浜を観ることができる。

 「いろいろな役柄を観ていただけるというのは、とてもありがたいです。
『DCU』では、いままで僕のことを知らなかった層の方にも観ていただけているようで、普段かけていただけない世代の方からのお声もいただけています。僕らは作品を観ていただくことで成り立つ仕事でもあるので、反響をいただけるということは、とてもやりがいにもなるしうれしいです」。

 そんな2作品に、まったく趣の違う『嘘喰い』が加わる。

 「いままでやったことがないようなエンターテインメント作品で、演じたキャラクターもインパクトがあるものなので、公開されてからどんなお声をいただくのか、とても楽しみです」。

 これまで自身の作品について、あまり客観的に観ることができなかった横浜が、本作は一つのエンターテインメントとして楽しく観賞できたという。原作に寄り添いリスペクトしながら、実写化する意味を自分なりに考えて臨んだことは、横浜の表現の幅をさらに大きく広げたように感じられる。(取材・文:磯部正和 写真・高野広美)

 映画『嘘喰い』は全国公開中。

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