富山県魚津市に実在する心霊スポット・坪野鉱泉をご存知だろうか。「幽霊が出る」とのウワサが絶えない廃ホテルだが、“最強の霊能力者”と言われメディアで活躍した宜保愛子さんも入ることを拒否した場所だというから、“北陸最凶の心霊スポット”という称号も決して大袈裟なものではない。
そんな坪野鉱泉を舞台に、現地ロケまで敢行してしまった映画が清水崇監督最新作『牛首村』だ。地域の人々に話を聞くと、坪野鉱泉は本当に“ヤバい場所”として認知されている様子。魚津市を訪れて恐怖体験談を集めるとともに、いち早く映画を観た地元の人々の率直な感想を聞いた。
【写真】落書き、剥がれた天井 心霊スポット「坪野鉱泉」内部に潜入(20枚)
■本物の心霊スポットをロケ地に…地元の人が証言する恐怖体験談とは
坪野鉱泉は、1970年頃に「ホテル坪野」として開業されたが、1982年、ある事件を機に廃業。経営者が失踪し誰も手をつけなくなってしまった…と言われているいわくつきの廃ホテルだ。かつては観光客を迎え入れていた場所ながら、今や立ち入り禁止となってひっそりと小高い丘の上に佇んでいる。『犬鳴村』『樹海村』に続く「恐怖の村」シリーズ第3弾となる本作では、制作にあたってロケハンをする中で坪野鉱泉に辿り着いたという。
紀伊プロデューサーは「『犬鳴村』は九州、『樹海村』は東海地方が舞台となっています。せっかくなら日本制覇していきたい! という思いもあり、北陸を選びました。地元の人に取材したところ、口々に“あそこはヤバい!”とのウワサが取り沙汰されていることが分かって、初の“本物の心霊スポットをロケ地にできる”という切り口が可能になるので、坪野鉱泉に決定しました」と明かす。
一体どれほどヤバいのか…。実際のところ、地元民にとって坪野鉱泉はどんな場所として捉えられているのか。
魚津市商工観光課の加藤さんに話を聞くと「『牛首村』で取り上げられる前からもいろいろなウワサが絶えませんでした。確かに恐怖の場所であったことは間違いないと思います」と回答。
地元の人に行ったアンケート調査では、「かつてのオーナーの息子は、幼馴染みで家族ぐるみでお付き合いをしていました。温泉の泉質が良くて弟のできものなどもきれいに治ったことを思い出します。構内にはご先祖様を祀る小さなお寺がありました。甲冑なども先祖伝来のものが展示されていました」(60代)、「小学生の頃に遊びに行き、プールやネッシーランドでトランポリンをして楽しかった記憶があります」(50代)、「小さな頃に児童会などで坪野鉱泉のネッシーランドに行きました」(60代)などにぎやかな観光地としての記憶を懐かしむ人も多く見受けられたが、廃墟となってからのウワサは恐ろしいものばかり。
「約40年前、短大生だった頃に肝試しに真夜中に訪れた記憶があります」(60代)、「免許を取得したらよく肝試しに行く場所であることは知っていました(僕は怖くて行けませんでした)」(50代)と肝試しスポットとして大変有名で、「兄が坪野鉱泉まで肝試しドライブしたあと、車が故障したそうです」(40代)、「20代の頃に建物の近くでパンクした。何かあるなと思いました」(50代)、「女の人の霊が出るという噂を聞いた」(10代)、「高校生の時に、その場所で自殺した人がいるという話を聞きました。その無念がまだ残っているのかなと感じながら映画を観ていました」(60代)と証言する人も。その他、「友人が肝試しに行ったら、2階から飛び降りる人影を見て、急いで車に乗ったら後ろからドン! と押された」「一番怖いと話題になった地下で肝試し中に、友達がいなくなった」という地元出身者の声も聞こえてくる。
■地元の人は『牛首村』をどう観たか?
『牛首村』は、坪野鉱泉の廃ホテルに行ったまま行方不明となった女子高生を探すことから始まるホラー映画。Koki,が女優デビューを果たし、不可解な出来事に翻弄される女子高生姉妹の一人二役を熱演していることでも話題だが、劇中には現在の荒れ果てた坪野鉱泉が登場し、不思議な世界への入り口として異様な存在感を放っている。
本物の心霊スポットで撮影が実現したことで、より一層恐怖感の漂う映画となったが、魚津市商工観光課の加藤さんによると「心配だったのは地元住民の感情、撮影への同意が得られるかという点」だったそうで、「地元の方々と何回も会合を行い、東映や制作会社、県の方々にも何度も足を運んでいただきました。また、地権者への交渉も難航いたしましたが、最終的には何とか地元関係者や地権者の皆様から合意をいただき撮影に入ることができました」と感謝を口にした。
そして富山凱旋試写会として、地元の人々にいち早く映画を鑑賞してもらうと、「エレベーターシーンが怖くて次から乗れないかも!」(50代)、「坪野鉱泉でのエレベーター墜落は最初から迫力があり、音楽効果が恐怖感を増幅させました」(70代)、「終始鳥肌が止まらなかった」(20代)、「たくさんの村人たちの霊が怖かった」(30代)、「高速バスで後ろのシートから目がのぞいているシーン。とても怖かった」(40代)と身の毛もよだつ思いをした人が続出。
もちろん恐ろしい映画であることには間違いないが、物語が進むごとに“牛首村”と呼ばれる村の秘密や、人間の狂気、浮き彫りになる姉妹愛など、ドラマチックな広がりを見せる作品として完成していることもあって、加藤さんは「地元の方々からの“本当に素晴らしい坪野地区からの景観を、映画を通してたくさんの人にみせてほしい”という期待の声に応えていただいた」と喜びをかみ締めつつ、「ドローン撮影によって坪野の穏やかな田園風景、富山湾まで一望ができるその景色を見事に表現していただけたことに非常に感謝しております。またホラー映画としてだけではなく、姉妹愛や親子愛が表現されている点も良かったです」と語っている。
アンケートにも「村シリーズはストーリー性があって本当に面白いです!ただ怖いだけではないのが面白いポイントですね」(10代)、「時空を超えて話が繋がっていくところが面白く、単に恐怖をあおるだけではない映画でした。全体的にゾクリとした怖さがありました」(40代)、「村の昔の風習とホラー要素がうまくマッチしていた」(40代)、「悲しさで何度か泣いた」(40代)などドラマ性に触れた感想が多く集まっていたことも印象的だ。
いわくつきの場所として人々の関心を集める心霊スポット。今では廃墟となり、恐ろしいうわさも絶えない坪野鉱泉だが、今回入手した地元民の声からも、かつて利用していた人々の楽しい思い出が眠っていることも事実だ。そんな坪野鉱泉で実際に撮影が行われた『牛首村』には何が映っているのか、 “恐怖の現場”を目撃してほしい。
(取材協力・文:成田おり枝)
映画『牛首村』は2月18日より全国公開。
※Koki,のoの正式表記はマクロン付き
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