90年代、監督デビューからの2作品『バッド・ボーイズ』『ザ・ロック』で数多の車を実際に大破させ、その爆発をスローモーションで捉えるなどのアクの強い作風で異彩を放ち、観客を熱狂させたマイケル・ベイ。その後、『アルマゲドン』『パール・ハーバー』でメガ・ヒットを放ち、とうとう爆破させるだけでは飽き足らず、2000年代には車を変形(トランスフォーム)させた『トランスフォーマー』シリーズで巨匠スティーヴン・スピルバーグにも認められた男。
【写真】ほぼロケ撮影『アンビュランス』迫力のメイキング!
「爆発の中を走れ!」 19歳のドローン天才少年が生んだ驚がく映像
マイケル・ベイは、ただリアル・アクションにこだわるだけではない。毎作品、新しい撮影技術を生み出そうと試行錯誤している。そんな彼が最新作で新たに取り入れたのが、ドローンを用いた撮影だ。
「ドローン撮影は退屈な映像になることも多いから、今まではあまり使ってこなかった。でも今回の方法は画期的だよ」とベイが自信を見せる通り、本作での高速アクションには驚がくしきり。回転しながらビルのてっぺんに駆け上がったと思えば、地上に向けて高速で落下する。車の下を猛スピード駆け抜け、爆走する救急車を追走して並走する。ドローンが生んだ「FPV=ファースト・パーソン・ビュー(一人称視点)」ショットの数々は、観客に観たことのない映像体験をもたらしている。これらを実現したのは当時19歳のドローン・レーシングの世界チャンピオン、アレックス・バノーバー(Alex Vanover)をはじめとするドローンの天才少年たちだ。
「競技用のドローンをたくさん使った。おかげで素晴らしいショットが撮れたよ。ドローンを操っているのは19歳の少年たちなんだ。映画撮影は彼らにとって天国のようだったみたいだね。だから、僕は『ほら爆発の中を走れ!』『爆発を横切れ!』と言ったんだ」とご満悦の様子。新たな映像表現への挑戦に、確かな手ごたえを感じたようだ。
「僕がやっているのは“死にゆく芸術”だよ」
“ハリウッドの破壊王”の異名を持つベイ監督。だが今、ハリウッドではマーベルやDCを筆頭に、スーパーヒーロー映画が人気を博し、それはブルースクリーンを多用して制作されている。「僕がやっているのは“死にゆく芸術”だよ」とベイ監督は吐露する。
「アクションが撮れる監督は本当に少なくなってしまった。今はブルースクリーンばかりで、アクション演出の仕方を知らないんだ。すべて事後処理でなんとでもなるからね。
車の横転シーンやロサンゼルス川でのヘリと救急車のチェイス、どれもが本当に撮影され、ベイ監督の強いこだわりが詰まっている。「それが映画を面白くしていると思うし、スーパーヒーロー映画では味わえないものだ。スーパーヒーロー映画は楽しいよ。でも、非現実的だよね」と付け加えた。
ロケの許可取りは大得意!
『アンビュランス』の舞台は、監督の出生地であり、過去作品でも舞台となってきたロサンゼルス。実際に、すべての撮影をロサンゼルス市内とその周辺で行い、撮影許可を得ることが非常に難しいフリーウェイや、一般道での撮影も実施。ベイ監督が知り尽くしているL.A.の街を、生身の姿でカメラに収めた。ロケの許可取りは、困難を強いられないのだろうか?
「とても大変だよ! 特に僕が撮影したいと思うところはね」と明かすベイ監督。「僕は説得するのが得意なんだ。
「今回で言うと、撮影の初日にハイウェイパトロールの警官たちに言ったんだ『君たちも映画に出てほしんだ。ところで高速道路を封鎖できないかな?』ってね」。そうして、ちゃっかりめったに許可が下りない高速道路での撮影に成功したのだという。
『アンビュランス』は、最新技術による “ベイヘム”映像の新局面が見られるだけでなく、『バッド・ボーイズ』や『ザ・ロック』のような素晴らしいキャラクターたちによる人間ドラマの要素がふんだんに盛り込まれている点も見逃せない。「死にゆく芸術」を極めるマイケル・ベイは、まだまだ進化する。そんな期待に胸躍らせずにはいられない。(取材・文:編集部)
映画『アンビュランス』は公開中。