大ヒットシリーズ第3弾『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』で、闇深い魔法使いゲラート・グリンデルバルドを圧倒的存在感で演じた俳優のマッツ・ミケルセン。前2作で怪演を見せたジョニー・デップから役を引き継ぎ、本シリーズ初参戦となったマッツがリモートインタビューに応じ、「私も娘もこのシリーズの大ファン、撮影中は目にするもの全てが感動的だった!」と声を弾ませた。



【写真】キャスト記者会見の様子 『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』

撮影が始まっても“ファン”という帽子を取れなかった

 “北欧の至宝”の異名をとるマッツが、本作に参戦するというニュースを聞いた時は、「グリンデルバルドという異色のダークヒーローにきっと興味を持ったのだろう」と勝手に推測していたが(もちろんそれも大きな理由だと思うが)、実はマッツ、愛娘とともに『ハリー・ポッター』『ファンタビ』シリーズの大ファンで、その世界に仲間入りするのが大きな夢だったのだとか。

 「僕は、自分の子どもに自慢ができる、あるいは誇れるような役柄がなかなか回って来ない俳優だと自覚していたんだ(笑)。だから、この話が来た時は、まさか出られると思っていなかった」と笑顔を見せるマッツ。「それが悪者側であれ、正義側であれ、娘に“あの『ファンタビ』にパパが出るんだよ!”と伝えれば大喜びで飛びついてくる。そんな奇跡が私にも起こったんだ」。いつものクールなマッツはどこへやら、目尻が下がりっぱなしだ。

 撮影に入っても、最初はなかなかファン心理が抜けなかったのだと言う。「映画の撮影に入ったら、ファンという “帽子”を取って、俳優として物語に入っていくつもりだったが、なかなか帽子を取ることができなかった。なぜなら、衣装や小道具、セットなど、目にするもの全てが感動的だったから。特に魔法の杖を持った瞬間、みんな少年に戻るんだ。“どの魔法の杖が一番強いか決めようぜ!”みたいな(笑)。みんなで真剣に話し合ううちに、ついついムキになってしまうこともあったね。
小道具だって分かっていても、なんだか子供心に火が着くんだよ」。

グリンデルバルドはゴッホのような存在

 だが、フタを開けてみれば、さすがの存在感で闇深きグリンデルバルド像をスクリーンにしっかりと焼き付けている。若き日に、ともに学んだダンブルドアと友情を超えたパートナーとなるが、歯車が狂い始め、やがて袂(たもと)を分かつことになった彼の複雑な心情を、マッツはどう捉え、演じたのか。

 「画家のゴッホのように、生きている間は理解されず、天才だと呼ばれるのは死んでから…グリンデルバルドは自分のことをそう捉えていたと私は思っている。“悪者”を演じる時、明らかにしなければいけないのは、その悪者がどんなゴールを目指しているのか、どんな任務を遂行しようとしているのかを知ること。グリンデルバルドは、この世界を少しでも良い場所にしたいと考え、そして彼は自分がそれを実践していると固く信じていた。ただ、多くの人が彼に同意せず、異を唱えた。もう少し時間が与えられれば、その解釈は変わっていたかもしれない」と持論を述べる。

 ダンブルドアとの関係についても、「お互いの目指すところはもともと同じだったが、邪魔が入り、障害が生まれた。愛と後悔の気持ちが入り混じっているこの2人は、心の奥底から戦うことはできない。もしもグリンデルバルドがダンブルドアを殺してしまったら、全ては消え去り、彼はそれをもう取り戻すことはできない。そういう思いが心根にあるから、(お互いに戦わないという)血の誓いペンダントがあってもなくても関係ないんだ。
特別な魔法の杖で対峙するシーンには、そんな思いがあふれている」と述懐する。

 ただ、「グリンデルバルドは、自分自身のことを楽しんでいたね」とマッツは続ける。「信頼できる者をあえて周りに置かず、常に用心深くしていることを彼は面白がっているんだ。それが他の人から見ると、“痛い人”に映ってしまうけれど、実はそれを彼自身は楽しんでいる…。グリンデルバルドはそれほどまでには惨めな役じゃなかった。本当に複雑で、特異なキャラクターだったから、僕も楽しみながら演じていたよ」。

 ダンブルドアへの未練をもうかがわせる妖艶な佇まい。闇深くつかみどころのない魔法使いだが、どこか人間味を匂わせる哀愁に満ちている。マッツだからこそ醸し出せる新たなグリンデルバルド像も本作の大きな大きな見どころであることは、間違いない。(取材・文:坂田正樹)

 映画『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』は、4月8日より全国公開。

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