『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)『共演NG』(テレビ東京系)など女優としてさまざまな作品で存在感を発揮する若月佑美。6月には、人気アニメの初舞台化作品『薔薇王の葬列』で男女二つの性を持つ主人公という難役に挑む。
【写真】デビュー10年 凛(りん)とした美しさに磨きがかかる若月佑美
人気キャラクター“リチャード”は「過去の自分を見ているよう」
本作は2013年から「月刊プリンセス」(秋田書店)にて連載され、今年1月に本編完結を迎えた菅野文によるダークファンタジー漫画『薔薇王の葬列』を基にした現在放送中のテレビアニメが原作。シェイクスピアが描いたずる賢く残忍なピカレスクというイメージで知られるリチャード三世を、男女二つの性を持って生まれたことを秘密に抱える存在として翻案。薔薇戦争を背景に、全く新しいリチャード三世の物語を生み出した。舞台ではアニメ版をベースとし、リチャードがたどる数奇で残酷な運命を、壮麗で美しくドラマティックな世界観で描き上げる。若月は主人公・リチャードを有馬爽人とダブルキャストで演じる。
――『薔薇王の葬列』で主人公・リチャードを…とお聞きになった時はどんなお気持ちでしたか?
若月:コミックスはもともと知っていました。私は基本的に曲がったことが嫌いで、翻る人や裏切る人が大嫌いなので、そういう人が出てきたらすぐ読むのをやめちゃったりするんですけど(笑)、この作品は、物語にぐっと引き込まれて、読んでいたんです。
オファーを伺って、コミックスを読んでいる身としてはうれしさ半分、役の大変さも分かっていたので、不安というか、どうなるんだろうっていう心配もありました。でも、とっても光栄なことですし、男女のダブルキャストというのも新しい試みで、面白い作品になるんじゃないかとワクワクしました。
――演じられるリチャードについてはどんな人物と捉えていますか?
若月:いろいろな思いを抱えるリチャードは、過去の自分を見ているような感じがしています。年齢を重ねて、若いころの悩み、たとえば容姿の悩みやコンプレックスとかも、今ではもう乗り越えられるようになったんですけど、私も過去には、他人からどう見られるかとか、どういう自分でありたいかっていうことにすごくこだわっていたりしたので…。
あと、周りには良心の塊のようなケイツビーだったり、ヘンリーだったりと支えてくれる人はいるんですけど、リチャード自身は自分は孤独だっていう思いをずっと抱えている。そういうところが、助けてあげたい気持ちになりますね。ただ、孤独に逃げているほうが楽だったりすることもありますし、気持ちも分かります。友人関係でも、信頼するから裏切られて、信頼しなかったら裏切られない、そう思ってすべてに踏み出しにくいってところは、現実世界でも誰にでもあることだと思うので、私たちと遠からず近からずみたいな人なんだと感じています。
「サッパリしている」「サバサバしている」評も自覚なし
――今回演じられるリチャードは男女二つの性を持つキャラクターということもあり、男性役を演じるのとはまた違った難しさがあると思います。
若月:日頃女性として生きているので、やっぱりどこかで限界は出ると思うんですよね。過去に少年の役を演じたことはあるんですが、後で映像を見ると自分は男性っぽくアクションをやったつもりでも、膝の曲げ方や足が内股だったりと女性らしくて…。リチャードは基本男性として暮らしているので、どこまで女性を出してどこまで男性を出すかというのは難しいところですが、お客様が女性っぽくいてほしいと思われる時にはちゃんと女性らしく、男性らしく力強くいてほしいってところはちゃんと男性らしくいられるようにしたいなって思ってます。
――若月さんご自身の中に“男性っぽさ”を感じる部分はありますか?
若月:どこの現場に行っても、“サッパリしてますね”“サバサバしてますね”とか、男性っぽいって言われるんです。自分ではあんまり思ってないんですけど…。家族の中でも、お兄ちゃん子で、性格もお兄ちゃんやお父さんに似ていて、家族内では“男組”にいる立場なので、それが(リチャード役に)生きたらいいなと思います(笑)。
――今回の『薔薇王の葬列』もそうですが、これまでに『ヴァンパイア騎士』や『犬夜叉』など熱いファンの多い人気コミックの舞台化作品に出演されてきましたが、やはりプレッシャーはありますか?
若月:めちゃめちゃありますし、めちゃめちゃ後悔するというか、“うわ~、私大丈夫だったかな~”といつまでも思っちゃうんです。
「“あの人、何をしてる人なの?”っていう存在になりたい」
――昨年デビュー10周年を迎えられましたが、振り返ってみるとどんな10年だったでしょう?
若月:あっという間ではありますけど、ただ思い出せないことも多いというか、密すぎて、あれとこれをやりましただけじゃない、いろんな思いがあるなぁと思うと長かったんだなとも思います。ただ、そもそもがこんな長く続けられるとは思わなかったというか…。
私、責任が生まれないとやれないタイプで。習い事とか、部活動もそうですけど、自分のためだけにあるようなものだと、あまりやる気が起きなくて。仕事としてこういう場に立たせていただいて、しかも芸能活動をしていると、私が頑張ったら現場の人も作品が届いた先の人も笑顔になる人がたくさんいる。こんな私でも頑張れば、誰かが救われるんだっていうのを知ることができたんです。今までは、習い事も部活も、なかなか長続きしなかったんですけど、10年立てているってことは自分には合っているんだと思いますし、もっともっと、5年後も10年後も続けて、たくさんの人に何かを与えられたらいいなって。
――この10年でターニングポイントになった作品や出会いはありましたか?
若月:お芝居の世界に自分が切り替えた瞬間は、グループにいる時に舞台を初めて全員でやるっていう作品があったんです(編集部注:2013年上演の「16人のプリンシパル deux」)。
設定的にもけっこう過酷で、最初は全員が出るんですけど、途中で審査があって、その後は選ばれた何人かしか出られないんです。もちろん自分が落ちてしまう日もあったんですが、その時に、落ちてしまった人の役として舞台に立ってみようかなって思う日が来たんですよ。ずっとそれまでは自分が落ちたことに対して、自分が至らなかった、必要とされてないと思っていたんですけど、ある日、これは落ちる人の役でキャスティングされて、このステージに立ってるんだって思ったら、どんどん逆に意欲が湧いてきて。落ちたとしてもプラスになることをしたくなってきたんですよね。
その時に、一生懸命頑張って落ちた人の気持ちってどういう気持ちだろうとか、どういうしぐさをするだろう、どうやって帰るだろうとか、いろいろ考えている時に、自分に対しての劣等感みたいなのを忘れることができて楽しさに変わっていったんです。あ、お芝居って、人に届けるだけじゃなくて、自分の気持ちすら救えるんだなって思えるようになったら、本当に面白くなってきて。舞台も映像のお仕事も頑張ってみようと思えるようになりました。
――デビュー間もなくで、そんな発想の転換をご自身でできるなんてすごいです。デビュー10年が経ち、今回の作品の後には28歳の誕生日を迎えられます。来るべき30歳に向けて、どんな女優さん、女性になっていきたいという思いはありますか?
若月: 30歳に向けて役の幅を広げたいのはもちろんですけど、逆戻りもしたくて。今も30代の役や子持ちの役も頂いていて、それもうれしいことなのですけど、自分の本当の年齢にこだわらずに見た目で判断してもらって、学生役もそうですし、なんでもやらせてもらいたいなと思っています。
女性としては、マルチにいろいろやれる人になりたい。趣味で絵を描いたりとか、雑誌でコラムの連載を書かせてもらったりしていますが、自分で限界を決めずに伸ばしていって、“あの人、何をしてる人なの?”っていう存在になれるように頑張りたいです。(取材・文:編集部 写真:松林満美)
舞台『薔薇王の葬列』は、東京・日本青年館ホールにて6月10~19日上演。
テレビアニメ『薔薇王の葬列』はTOKYO MX他にて放送&配信中。Blu‐rayシリーズ発売中。