昨年、映画『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』などの演技で、第64回ブルーリボン賞新人賞や第95回キネマ旬報ベスト・テン 新人女優賞などを受賞し、一躍若手注目女優筆頭に名乗りを上げた河合優実。2022年も発表されているだけで8本の映画に出演するなどその勢いは止まらない。
【写真】21歳とは思えない、大人びた表情が印象的な河合優実
大人計画のメンバーとの共演は「全てに衝撃」
映画での活躍が続く河合だが、作・演出の松尾スズキと2度目のタッグで、自身3度目の舞台出演作となる『ドライブイン カリフォルニア』が間もなく幕を開ける。1996年の初演、2004年の再演からキャストを一新し、18年ぶりの再々演となる本作。裏手に古い竹林が広がるとある田舎町のドライブインを舞台に、経営者である兄・アキオや、その妹で14年ぶりに故郷に戻ってくるマリエら登場人物が織りなす切なくもいとおしい人間模様を描き出す。阿部サダヲ、皆川猿時、猫背椿ら松尾作品には欠かせない俳優陣に加え、麻生久美子、谷原章介ら個性豊かなキャストが顔をそろえる。
――河合さんにとっては2020年に上演された松尾さん作・演出のミュージカル『フリムンシスターズ』以来の舞台出演となります。前回の作品で印象に残っていることはありますか?
河合:学生の頃から、宮藤(官九郎)さんのドラマや、星野源さんが身近なカルチャーでしたし、好きだったので、デビュー前から大人計画の存在は知っていて。自分がその舞台に立てるというのが信じられない、夢のような仕事でした。稽古場で皆さんが舞台を作っていくところを目の当たりにして、1人1人モンスター級の俳優さんが毎日本気で、しかも楽しそうに、苦しそうに、取り組まれている日々の全てに衝撃を受けました。
とにかくずっと楽しかったです。立場的には圧倒的に年下で、プレッシャーや緊張ももちろん大きかったですけど、舞台に立つことが楽しくて。ダンスをやっていて、そこからお芝居に興味を持ったので、毎日舞台に立てることがとにかくうれしくて。
――演出の松尾さんや、阿部さん、皆川さんとは前回に続いてのご共演です。
河合:(お芝居では)あんなにふざけてる姿しか見れないのに、普段はこんなに静かなんだって戸惑いました(笑)。皆川さんは、ずっとセリフの練習を裏でしていて、稽古場で自分のシーンになったら爆発するというところが辛うじて見えるんですけど、阿部さんに関してはいつ何をやってここでこうやっているのかがまったく分からないというか…。それでこんなに面白いっていうのがちょっと分からなすぎる生物です(笑)。(今回の共演でも)理解できないと思う。天才なんだなと思います。
松尾さんも、作品から受ける印象から怖い人なのかなというイメージがあって、ギャップがありました。昔はもっと怖かったんでしょうけど、すごく優しい方です。でも、目の奥は厳しい(笑)。特に、面白くないことに対して、目が肥えすぎているので怖いです。
――松尾さんが作り出される作品の魅力はどんなところにあると感じていますか?
河合:松尾さんが描かれる作品は、形としてはカオスというか、いろんな人がいろんなものを1個の場所に持ってきてしまって、激しく絡まりながらひとつの世界に収束していくような物語が多いですよね。今回の作品はもっと過激な作品と比べると、観終わった後の後味としてはあったかい感じがしました。比較的普通の人間が多いように感じてしまいました、冷静に考えたら全然そんなことないんですけど(笑)。松尾さんの作品に共通して流れている哀しさと優しさは、やはりご本人の中に感じます。この世の残酷や孤独に対してある種の諦念みたいなものがあるから、優しくなれるし、笑い飛ばせるんじゃないかなと勝手に思っています。
――演じられるエミコはどんなキャラクターでしょうか?
河合:一見普通に明るい気立てのいいバイトの女の子ですが、実はやることやってるみたいな感じです(笑)。本人はそれほど自覚してないけど重い業を負っている。とはいえ、いろいろ抱えている登場人物が多い中で、トーンとしては“ぽーん”と明るくいられたらいいのかなと思ってます。
――2004年の再演では小池栄子さんが演じられた役を引き継ぐ形になります。
河合:そうなんです。映像を拝見して、その後、台本を読んでいても、小池栄子さんの声で再生されてしまうようなところがあって…。
ブレイクしてその時だけで消費されて終わるみたいなことは嫌
――2019年のデビューから丸3年が経ち、昨年は多くの映画賞に輝くなど大活躍となりました。今年も出演作の『PLAN 75』がカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品されるなど、さらに注目度が増しそうです。
河合:デビューして3年が経って、バラバラの時期に撮っていたものがまとめて公開されているみたいなところもあるので、ずっと働いているという感覚はないんです。『サマーフィルムにのって』とか『由宇子の天秤』とかが公開されて、“あ、こういう風にお客さんの反応が役者側に返ってくるんだ”という経験を初めてしたばかりで…。
(『サマーフィルムにのって』への反響は)予想外でしたね。撮ってるときには、こんなに多くの方に観ていただけるとは思ってなかったですし、大人の方が結構「昨年で一番好きでした」って言ってくださったり、年代の広さも印象的でした。
――この3年を振り返ってみるといかがでしょう?
河合:始めて1年くらいは、入院と自殺する役が多くて(笑)。なぜ、こんなにひどい目にばかり遭わなきゃいけないのかっていうくらい、暗いというか、内に向かっていく役が多かったです。不幸を請け負うことが多くて、ショックではないですけど、「あ、また風俗で働いているんだ…」とか思ったりしてました(笑)。
(自分自身は)保てています。
オンとオフのバランスを崩すようなこともあんまりないです。そもそも仕事とプライベートという分け方はあまりしない気がしますね。全てが地続きな感じです。
――デビュー前に描いていた女優活動と現在のご自分の状況は違いましたか?
河合:何を思い描いて女優になったんだっけ?という感じもあるんですけど(笑)。嘘じゃなく、大人計画の舞台に出ることは思い描いていたような気がします。立ち返るとそもそもの憧れは舞台でした。映画をこんなにやるとは思っていなかったし、それがいろんな映画祭に入ったり、新人賞を頂けたり、そういうことはまったく予想するまでもないというか、頭のまったく外にあった感じはあります。
――ドラマ『17才の帝国』(NHK総合/毎週土曜22時)もスタート、話題作への出演も相次ぎ、ついつい私たちは「2022年ブレイク期待女優」などと気安く言ってしまうのですが…。
河合:ブレイクしてその時だけで消費されて終わるみたいなことはもちろん嫌だし、きっとそういう方向に行かない気はしています。(女優という仕事を)ずっと続けていければいいなと思っているので、注目していただけるというか、“一緒にやりたいです”と言っていただける方が増えることは素直にうれしいです。
――長く続けていたら、『ドライブイン カリフォルニア』がまた上演されるときには、再登場することもあるかもしれませんよね。
河合:えー!(笑) 実は私、松尾さん演出の舞台『キレイ~神様と待ち合わせした女~』のカスミ役(編集部注:これまでに秋山菜津子、田畑智子、鈴木杏らが演じた難役)をやってみたくて、憧れなんです…。
――それは、大人計画の方に聞こえるように大きな声で言っておきましょう(笑)。現在21歳の河合さんですが、この先どんな女優さんになっていきたいですか?
河合:そのときそのときで変わったりするので、あんまり決めてはいないんですけど…。これからたぶん“これ一緒にやりませんか?”みたいなお誘いも増えると思うし、いろいろな出会いがこの先ずっと続くと思うので、その中で何をやったらいいのかちゃんと選べるように、普段から物を見ることを楽しめるようにいたいですし、選べる物差しを成長させていきたいと思っています。(取材・文:編集部 写真:小川遼)
日本総合悲劇協会VOL.7『ドライブイン カリフォルニア』は、東京・本多劇場にて5月27日~6月26日、大阪・サンケイホールブリーゼにて6月29日~7月10日上演。