前作から36年の時を経てついに公開された続編『トップガン マーヴェリック』。長い時を経て、かつてのライバル、マーヴェリックとアイスマンが、再びスクリーンで相まみえる姿に涙した人も少なくないはず。

この実現には、映画にも負けない熱いドラマがあったようだ。トム、ヴァル、監督など、本作に関わった関係者の証言から紹介しよう。

【写真】『トップガン』(1986)から振り返る、トム・クルーズとヴァル・キルマー36年の友情に涙

■強烈なライバルで戦友

 海軍のパイロット養成学校で学ぶエリートたちの栄光と挫折を描いたスカイアクション映画の金字塔『トップガン』(1986)。スリリングなアクションとともに、心に残るのが、若きパイロットたちの友情だ。破天荒で天才肌のマーヴェリックと、冷静沈着なアイスマンは、強烈なライバル心でお互いを敵視し、機上で、ロッカールームで、幾度となく火花を散らしたが、厳しい訓練や、仲間を失うという試練を経て、まさに戦友と呼ぶにふさわしい友情を育んでいく。

 そもそも、前作にヴァルの起用を望んだのはトムだった。「1作目に彼が出演するよう強く望んだのは僕なんだ。凄い才能だからね。アイスマンを演じてほしかった。(1作目の監督)トニー・スコットに『体当たりして捕まえてくれ!』と頼み、ヴァルにも『この映画を作ろう。絶対良いものになる』と言った。彼はそんな才能の持ち主だ」とインタビューで答えている。


 続編に関しても、トムは「ヴァルなしでは制作しない」と断言。「我々みんながそうでした。でもトムは、続編を作るならヴァルが必要だとかたくなでした」と製作総指揮のジェリー・ブラッカイマーが証言しているところからも、トムがいかにヴァルの出演にこだわったのかが窺(うかが)える。

■実現には課題が…

 しかし実現には課題があった。2014年に喉頭がんと診断されたヴァルは、度重なる治療のため、声を喪失していたのだ。このことが公になったのは2017年のことで、すでにヴァルの口から出演が公表されていたものの、彼の出演を心配する声は後を絶たなかった。

 それでも、トムの熱意を受けてチームは動いた。「トムとジェリー(ブラッカイマー)、そして僕からの必要条件だった。アイスマンを登場させるために方法を考える必要があった。ヴァルに会ったよ。そして彼には、忠実に実現するアイディアがあったんだ」とコシンスキー監督が振り返る。

 またヴァルも、インスタグラムにアイスマンのTシャツを着たショットを公開し、「トム、オレは準備出来てるぜ。
まだ出来るぞ!」とアピール。これはトムにもしっかり届いたようで、本作をマーヴェリックとアイスマンの関係性を発展させるものにしたかったと語っている。

■共演シーンの実現に監督も涙

 そしてついに実現したシーンは、かつて若く尖っていたマーヴェリックとアイスマンが、キャリアもプライベートも全く異なる人生を歩みながらも、お互いを意識し、気にかけてきたことが窺える、胸の熱くなるものだった。ヴァルの闘病を反映し、タイピングで会話をつなげながら、テクノロジーを駆使して作られたヴァルの“肉声”(※最新AI技術を使い、ヴァルの声を元に音声が作成された)も登場した。

 それは、共に本作でブレイクした二人が、紆余曲折を経て再び同じ画面に顔を揃えた瞬間でもあり、オリジナルのファンには、自分が歩んできた長い年月を重ねる瞬間でもあったのではないか。

 ブラッカイマーは「撮影は感動的でした。彼が若手だった頃から知っています。そして今でも彼が働き、いきいきと演技をしている姿には、助けられたし、シーンに深みを与えてくれました」と振り返る。

 メガホンをとったコシンスキー監督も、「2人が俳優としてお互いにリスペクトし合い、36年を経て築き上げた友情を目撃しました…それはスクリーンに反映されています」「2人のトップ俳優がこの映画のためにとても重要なシーンを美しく演じてくれました。とても感動的な日でした」と語っている。

■「36年経ってもお前のウィングマンだ」

 その感動はヴァルの家族にも広がり、撮影に立ち会ったヴァルの娘メルセデスも「特別でした」とコメント。「作品を誇りにしている父にとって、すごく意味のある事でした。
これこそ父が大好きな事です。父が、私と同じ年頃に撮影を共にした友人たちに囲まれて、セットに立っているのを見たのは、最高にクールでスペシャルでした」と話している。

 メルセデスは先日、セットで撮影した写真をインスタグラムで公開。アビエーターサングラスをかけた弟のジャックと一緒に、パイロット帽を被ってポーズする楽しそうな姿や、父ヴァルとの心温まる2ショットを披露した。

 映画の公開後、ヴァルはSNSにアイスマンとマーヴェリックのツーショットを公開し、前作の最後のセリフを引用して「36年経ってもお前のウィングマンだ」とコメントした。2人の再会に胸を熱くしたファンが、再び涙したことは想像に難くない。

(文:寺井多恵)

 映画『トップガン マーヴェリック』は公開中。

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