社会現象を巻き起こした映画『カメラを止めるな!』(2018)にどんぐりという芸名で出演し、一躍、個性派女優としてブレイクを果たした竹原芳子。その後も連続ドラマ出演や、2022年には自身初の著書『還暦のシンデレラガール』(サンマーク出版)を上梓するなど、精力的に活躍している。

そんな彼女が『カメ止め』をフランスでリメイクした映画『キャメラを止めるな!』に、オリジナル版キャストの中で唯一出演する。同作でカンヌ国際映画祭に参加するなど、50代からまさにシンデレラストーリーを歩む竹原に話を聞くと、チャレンジ精神おう盛な素顔が垣間見えた。

【写真】写真撮影でも「『キャメ止め』、見てや!」と元気いっぱいにアピールしてくれた竹原芳子

■『カメ止め』キャストから唯一の続投も「プレッシャーよりうれしかった」

 『キャメラを止めるな!』は、第84回アカデミー賞・作品賞やゴールデン・グローブ賞などを受賞した『アーティスト』のミシェル・アザナヴィシウスが監督、フランスNo.1の人気を誇るロマン・デュリスが主演を務めた作品。オリジナル版と同じ30分1カットで描くゾンビ映画を生中継という設定で、日本で大ヒットした映画のリメイクを依頼されたフランス人監督が、問題ばかりのスタッフたちと作品の完成を目指すさまが描かれる。

 竹原に本作のオファーを聞いた時の率直な気持ちを聞くと、「あ~リメイクされるんやと思いました。『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督からは『日本を背負って行ったなって感じがした』と言われましたが、プレッシャーよりもフランスに行けることがうれしかったです」とニッコリ。

 撮影は昨年5月、ロックダウン中のフランスで敢行されたが、事前に監督とリモート会議をしたそうで、「『とにかく元気でパリに来てください』とおしゃってくださったので、『元気だけが取り柄です』とお伝えしました」と明かし、「フランスは観光客が全然いなくて、ロックダウンのパリを見られたことは逆に貴重でした」と当時を回顧する。

 自身にとって初の海外作品で、通訳以外はフランス人という現場だが、「撮影は楽しくスムーズに進みました。うれしすぎて盛り上がっているので、つらい記憶が全くなくて(笑)。毎日喜んで現場に行ってましたね」と、満面の笑みで語る。作品については「面白いのはもちろん、愛情表現など、日本とまた違うフランスなりの味が加わっていて。オリジナル版に忠実ですけど、その後にビックリ展開がありますので、見てのお楽しみです」とはつらつとアピールする。


■失敗も嫌な出来事も「後になって考えたら必要だった」

 竹原は短大卒業後、金融機関店頭営業や裁判所勤務を経て、50代になった2010年に一念発起。約30年前に断念していたNSC大阪校に入学した、という異色の経歴の持ち主だ。「人生50年。大河ドラマで織田信長が50歳で亡くなるのを見て、“第2の人生”と思ったら何でもできると思って。30年前にNSCの看板を見て迷っていたので、後悔しないようにやり残したことをやってみようと、入所しました。まさに『人生のキャメラを止めるな!』ですね」とニヤリ。

 その後、ある落語大会に出場したのがきっかけで、女優に。さまざまな経験を重ねてきたこの12年を振り返ってみると「これで良かったんやと思います」と言い切る。「私はずっと自分を認められず、あれやこれやとやってもずっとあかんって思ってましたけど、ある時、平原綾香さんの『Jupiter』の『意味のないことなど起こりはしない』という歌詞に救われて。本当に意味のないことは起こらないんですよ。自分にとって失敗や嫌なことがあっても、後になって考えたらそれは必要な出来事なんです。例えばこっちに進もうと思ってあかんようになったら、『じゃあ今度はあっち』と方向転換するための出来事だと思えば納得できる。
傷つくことを言われて嫌な気持ちになっても、その言葉で新たな方向性が見えることもある。だから今は、すべての過去の出来事に感謝ができます」。

■失敗は恐れない「あかんかったら自分に向いてないと諦めがつき、納得できる」

 やりたいことがあってもなかなか行動に移せない人間も多いが、次々行動する竹原のバイタリティはどこからくるのか――。「それは自分の気持ちがどうしたいか、じゃないかと。私はどうしてもやりたいと思ったら実行します。勇気が出ないのは、結局そこまでやりたいと思ってないから。ほんまにやりたいなら、自分で動いていくと思うんです」。

 もともと好奇心おう盛な性格もあり、NSCに入る前もさまざまな講座に参加し、自分探しを行なっていた。「何か手に職をつけなければいけないと感じていたので、自分にはどんな仕事が向いているかを探すために、常にいろいろやってました。生け花を習いに行ったり、自分の内面と向き合う講座を受講したり。裁判所への応募も初めは自分と縁のない場所だから、という興味本位だったんです。『受けるのも経験』と思って応募したら通ったので、行きました。
とりあえずやってみよう精神ですね」と言いつつも、「三日坊主もありますよ。気持ちが乗らなくて、あかんと1回で辞めたりもします(笑)」と付け加えて笑う。

 失敗を恐れないのかを尋ねると、「やらないで後でやっとけば良かったと思うより、やってみてあかんかったら、自分に向いてないと諦めがつき、納得できる。やらないで後悔するより、やって後悔した方がいい」とズバリ。「失敗も全部が勉強になってるんです。『あれやっててよかった』と今役に立つことは多いです。なので、今は最高! 本当に楽しいです」と白い歯を見せる。

■まだまだ挑戦したいことばかり「100歳まで生きます。生きそうでしょ?(笑)」

 そんな竹原は現在フリーとしての活動に挑戦中だが、「営業経験や人と接するのが好きなので全然苦にならない」と明かす。「分かっていないことも多いので、お仕事相手の方にご迷惑をかけることもありますが、皆さん対応してくださる優しい方ばっかり。本当に助かってます」と感謝。学ぶことも多いようで「1人で試行錯誤するのは勉強になるんですよ。
移動1つとっても大変だけど楽しい。いろんな方とお話できるのでボケ防止にもなります(笑)。営業の時に得たコミュニケーション能力が役に立ってるんです」としみじみと明かす。

 現在62歳の竹原。挑戦したいことを聞くと「まずは歌を歌いたいです。こんな世の中だからみんなで盛り上がれる曲なら楽しそう。あと、旅行しながら暮らしたい。私は知らないに場所に行くと、スイッチが入ってテンション上がるんですよ」と次々飛び出す。「100歳まで生きます。生きそうでしょ?(笑)。100歳まで自分の好きなことをやり通せたら幸せですよね」と満点の笑顔を振りまく。これからも“人生のキャメラ”を止めずに走り続ける竹原のチャレンジから目が離せない。
(取材・文:高山美穂 写真:松林満美)

 映画『キャメラを止めるな!』は7月15日より全国公開。

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