50代に突入した今も透明感と包容力あふれるオーラを放ち、俳優としてはもちろん、バラエティ番組出演など幅広く活躍している水野真紀。映画『今夜、世界からこの恋が消えても』では、「東宝シンデレラ」の後輩である福本莉子と親子役で共演を果たしている。
ひょんなことをきっかけにオーディションに応募したという水野が、もがき悩んだこともあるというこれまでの道のりを明かすと共に、今の仕事&美容論について「一緒に年齢を重ねている方々ががっかりしないような、“元・きれいなおねえさん”でありたい」と一世を風靡したCMにかけて語った。
【写真】50代に突入した水野真紀、変わらぬ美しさで魅了
■『今夜、世界からこの恋が消えても』で目撃した、福本莉子の“今”の輝き
『今夜、世界からこの恋が消えても』は、電撃小説大賞の2019年受賞作品となった一条岬の小説を映画化したラブストーリー。眠りにつくと記憶を失ってしまう難病を患った日野真織(福本莉子)と、そんな彼女を支えつつも、自らも大きな秘密を隠し持っている神谷透(道枝駿佑)による、せつなくも優しい愛の物語だ。水野は、真織のことを常に気に掛け、寄り添う母、敬子を演じている。
台本を読んだ水野は「ものすごく入り込んでしまって」と物語に魅了されたそうで、完成作を観た感想としても「これは、私たち世代にとってもものすごく必要な映画」と50代となった彼女にとっても、「キュンキュンしました。2人が花火大会に行くシーンなんて最高。“かつて自分にもこういう青春があっただろう!”と思い出を一生懸命探したりして(笑)。若い2人から活力をもらいました」と恋に落ちていく透と真織の姿に大いに刺激された様子。
娘役の福本とは、「東宝シンデレラ」オーディション出身の先輩・後輩に当たる。水野は「莉子ちゃんはとても透明感あふれる女優さん」と印象を明かし、さらに「今、この瞬間の莉子ちゃんにしか出せない輝きを、三木(孝浩)監督がしっかりと切り取っている映画だと思います。羽ばたいていく瞬間を捉えてもらえることって、とても大切なこと。莉子ちゃんの輝きを見ていて、私はなんて幸せな現場に立ち合わせていただけたんだろうと、とても喜ばしく思いました」と母心をのぞかせる。
■意外な「東宝シンデレラ」応募の動機! 悩みもがいた20代
水野は16歳だった1987年に、第2回「東宝シンデレラ」で審査員特別賞を受賞して芸能界入りを果たした。オーディションに応募したきっかけは、「好きだった男の子に冷たくされた悔しさで、応募した」というから、驚きだ。
「同じ塾に通っていた男の子だったんですが、その子に冷たくされたことがあって。そんな時に、そういえば、姉が“東宝のオーディションがある”と言っていたなと、思い出したんです」と、もともと俳優志望ではなかったものの「すると賞を頂いて、どうやらレールの上を走り始めているぞ、これは降りるわけにはいかないかも…と感じて。私は変に真面目なところがあるので、(東宝シンデレラの先輩)沢口靖子さんが切り拓いてくださった道があり、マネージャーさんが取ってきてくださった仕事があるんだと思うと、一生懸命にやらなくちゃいけない、迷惑をかけちゃいけない、とりあえず走ります!という感じ」と無我夢中でスタートを切った。
仕事としての自覚が芽生えてきたのは、20代前半のこと。「当時、気になる方はいましたが、その時は“デートよりも仕事”と思うくらい、仕事人間になっていたようです」とやる気にあふれると同時に、俳優業の難しさにもがいていた時期でもあると話す。
「私はどちらかというと、“ここで泣いたら人に気を遣わせてしまう。泣くことは我慢しなくてはいけない”と、感情をむき出しにしないようにして育ってきたタイプで。お芝居の中でどうやって感情を表出させていったらいいのかと、悩むことも多かったですね。また次第に自分に求められることも増えてきて、高度なものを要求されているんだと分かり始めてきた時は、“私にお願いしてよかったと思ってもらえるような仕事をしなければいけない”と張り詰めていくようで、とてもつらかった」と述懐。「どうしたらいいんだろう、でも現場に行かなくちゃの繰り返し」と責任感の強い性格ゆえ、プレッシャーを感じることも多かったという。
「この年齢になっても、“うまくできるかな、大丈夫かな”と不安になることはたくさんあります」と吐露した水野。そんな時にいつも思い出すのが、「高橋英樹さんからもらった言葉」だと打ち明ける。「時代劇で高橋さんとご一緒した時に、“僕たちの仕事に代わりはいないんだよ。その自信だけは失っちゃいけないよ”と言ってくださった。舞台の公演中でも、舞台袖から飛び出していくのが不安で仕方なくなる時もあります。でも“自信を失ってしまったら、すべてが崩れてしまうんだ”と、いつも心の中でグッと高橋さんの言葉を思うようにしています」と、先輩の金言が彼女を支えている。
■需要がなくなった時どうする? “きれいなおねえさん”の称号は「財産」
52歳となった今、どのように仕事に向き合っているのだろうか。水野は「企業戦士だった父に、“私はいつまで仕事を続けるんだろう”と相談した時に、“需要があるまでだろう”と明快な答えをもらったことがあって」と笑いながら、「やっぱり俳優って、“今”が勝負なもので。仕事を頂く機会が減ったとしても、常に前を向いて、きちんと自分の世界を持って生きていれば、“あの味わいが欲しいな”と声がかかるかもしれない。打ち上げ花火ではなかったとしても、今の自分だからこそ出せる、線香花火のようなチロチロとした味わい、佇まいを必要としてもらえるかもしれない。佇まいには、日々何を吸収して、どんな会話、思考をして生きているかが、にじみ出てくるものだと思うんです。そうやって自分を諦めずに、日々をきちんと過ごす。
今はその繰り返しです」としみじみ。
続けて「たとえば俳優としての需要がなくなったとしても、両親と同居していたら娘としての需要があったりする。家庭の中での需要もあれば、老いていく中でボランティアとして働く需要もあるかもしれない。人間って、望めば、どこかしら自分を必要としてくれる場所が見つけられるのかなと思っていて」と語るように、昨年は大学を卒業すると共に、幼稚園教諭第一種免許を取得するなど、自分の可能性をグングンと広げている。
インタビュー中も自身の真摯な思いを明かしながら、飾らない素顔で周囲を大笑いさせるなど、取材班も水野の美オーラと人柄に魅了されっぱなしだったこの日。かつてパナソニック電工のCMの初代“きれいなおねえさん”としても人気を博した彼女だが、今の“きれい”の秘訣を聞いてみると、「排泄!」と笑顔で即答。「朝にきちんとお通じがあるということが、とても大事。そのためには食物繊維や野菜をしっかり摂って、腸が動くための運動も必要。私は家の周りをジョギングしています。そうすればタダですから」とお茶目にほほ笑む。
そして、「“きれいなおねえさん”というフレーズを頂いたことは、俳優人生の扉もどんどん開いていくきっかけになった」とも。「俳優人生として、大きな財産だなと感じています。
私たちは時代と共に流れていくので、一緒に年齢を重ねている方々ががっかりしないような、“元・きれいなおねえさん”でありたいなと思っています。シワも増えるし、ほうれい線もできるんだけれど、“なんだか今、いい感じだね”と言われるような自分でありたいです」と心を込め、「この映画はいいですよ。キュンとして活性化されるから! 映画館という特別な空間で映像と大音量に触れれば、美活になります!」と熱くアピールしていた。(取材・文:成田おり枝 写真:松林満美)
映画『今夜、世界からこの恋が消えても』は、7月29日より公開。
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