初めて演技に挑む無名の子役を主役に抜擢した青春映画『サバカン SABAKAN』に、出演とナレーションで華を添える草なぎ剛。第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた『ミッドナイトスワン』に続く新たな愛の物語として生み出された本作は、80年代の長崎を舞台に、“イルカを見るため”に冒険に出る2人の少年の友情やそれぞれの家族との愛情の日々を描く。
草なぎが初演技に挑戦した際のことや少年時代の思い出、「いい遊び仲間」と称す盟友・香取慎吾との関係性や家族・友達など大切な人への想いを明かしてくれた。
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■演技初挑戦の子役2人を絶賛「映画史に残る名シーン」
ドラマ『半沢直樹(2020)』(TBS系)など、主にテレビ・舞台の脚本や演出を手掛けてきた金沢知樹が映画初監督を務める本作は、金沢監督と萩森淳の共同執筆による完全オリジナル作品。金沢監督が故郷の長崎県・長与町を題材にした物語を作りたいという思いから、10年以上前に自身の体験や創作を盛り込みmixiに書き込んでいた物語が、ラジオ小説を経て、オリジナル映画の制作へと繋がった。
草なぎがナレーションを務めたラジオ小説は表に出ることはなかったが、金沢監督によると、草なぎはナレーションの際に涙を浮かべてくれていたという。草なぎは「ちゃんと読んだのにボツになって悲しくて。映画化を聞いた時は、なんで俺のラジオドラマじゃなくて映画なんだよという気持ちでした(笑)」と笑いを誘いつつ、「ラジオドラマを読んでる時は、本当に涙が出てきて。監督が書かれたお話が素晴らしかったので、映像化できてよかったなと思います。監督が初メガホンをとり、演技をしたことのない少年2人がメイン。すごく挑戦してますよね」と感慨深い様子で明かす。
長崎でロケを敢行した本作は、80年代という時代を通して映し出される貧しさの中にある人の温かさと優しさに触れた、すべての大人たちの魂を揺さぶる“あの頃の僕たちに背中を押される”物語。主演の番家一路や原田琥之佑の子役に加え、尾野真千子、竹原ピストル、貫地谷しほりが2人の親役で出演。草なぎは、主人公の大人になった姿を演じている。
作品の感想を問うと、「最初に俺の出番少ないなと思ったね」とまたもやいたずらっ子な表情でぼやきつつも、「長崎の景色がキレイで、子役2人の思いや雰囲気を監督がうまくすくい取っていて、真千子ちゃんや竹原さんらが醸し出す両親の温かさもあって。僕も父ちゃんや母ちゃんにあんな風に抱きしめてもらったなぁと昔をすごく思い出しました。一番大事なことって、子供を抱きしめてあげることだなって。それだけやってれば、子供は育つんだと感じました」と優しい表情で目を細める。
子役の番家や原田は初めてとは思えないほどナチュラルな芝居を披露していたが、草なぎは「初めてだからこそできた演技かな。計算してなくて、純粋無垢でピュア。そこを画面に残すのは難しいと思うけど、金沢監督は自分で書いた本という強みや初メガホンでの情熱や熱意、長崎で合宿して撮ったことで、少年たちの感情を余すことなく収めていて。“ひと夏の思い出は永遠に続く”というメッセージがすごく伝わる作品を作りあげてる」と口に。「2人の子役が演じた別れからのくだりは、映画史に残る名シーン。ぜひとも日本中の皆さんに観ていただきたいです」と熱烈アピールする。
草なぎが初演技に挑んだのは、1988年に放送されたドラマ『あぶない少年III』(テレビ東京系)。「当時は早くアイスクリーム食べたい、早くファミコンしたいと思いながらやってましたね。
よく怒られていたので、怖い大人がいっぱいいるなと思ってました(笑)」と笑いつつも、「度胸があるというより、元気だけでやっていたんです。今考えたら、周りに温かい人がいっぱいいて、支えてくれて。右も左も分からずやってた僕らを指導してくださいました」と周りへの感謝の思いを言葉にする。
■出会って35年の盟友・香取慎吾は「普通の友達とは違って本当に不思議な関係」
『ブラタモリ』(NHK)をはじめ、ナレーションにも定評がある草なぎ。今作でもフラットだが温かみのあるナレーションで、観る人をより作品に没入させてくれる。「俺、ナレーションの才能があるみたいで、昔から褒められることが多くて。若い時は顔が見えないから俺じゃなくてもいいんじゃないかと思っていたけど、年を重ねると、どんな格好でもできるから良い仕事だなぁと思ってきて(笑)」とニヤリ。
意識していることを聞くと、「よく噛むから、鼻呼吸で噛まないようにしてるだけかな。口呼吸だとリップの音を拾っちゃう時があるので、鼻で静かに呼吸して、次のセリフに呼吸を溜める感じ。『ブラタモリ』に関しては、タモリさんと歩いている感じを思い描いてはいるけど、基本ナレーションの時は感情は何も入れないし、何も考えてないね」と明言する。
少年2人の夏の冒険を描いているが、草なぎはどんな幼少期を過ごしたのか――。「めちゃくちゃアクティブな少年だったね。
実家の春日部もそうだけど、母の実家の四国は自然が多くて。自転車で隣の町に行ってカブトムシを捕ったり、海に入ったり、山に行ったり、木登りしたり。泥だらけになって、怪我したり、危険な思いもいっぱいしたけど、スリリングなことを味わいながら、カマキリがイナゴ食べるのを見るなどして弱肉強食の世界を知ったりと、自然がいろいろ教えてくれた。自然の中で成長できたからこそ、心身ともに今の強い僕がいると思う」と感慨深い様子で当時を回顧する。
草なぎが幼い頃からの友人として公言しているのが、香取慎吾だ。香取とは出会って今年で35年経つが、「35年も経つんだね。家族ですら何ヵ月も会わないこともあるけど、定期的に35年必ず会ってる人って、そういないよね」と口にし、「慎吾ちゃんとは、お互い歳をとってるだけで、出会った時から何も変わってない気がするね」としみじみ。
「昔はお互いの家に泊まりに行ったりしていて。あと、仕事でハワイなど初めて行く場所に行った時のことはよく覚えてるね。どこ行くにしても一緒だったし」と当時を懐かしみ、香取との関係性を「家族であり家族でなくて、仕事のパートナーであり親友でもあって。仕事をしてるから、普通の友達とは違って本当に不思議な関係。僕らの仕事は役を演じたり、歌を歌ったりと、遊びの延長という部分もあり、その中で慎吾ちゃんとはずっと遊んできているという感覚があるから、いい遊び仲間でもあるかもしれないね。
遊びが仕事になってるのは、すごく幸せなことだよね」とほほ笑む。
本作で“サバ缶”は2人の少年の思い出をつなぐアイテムになるが、香取との思い出のアイテムを尋ねると、「ライカのカメラかな。2013年頃、彼が持っていたので『いいね』と伝えたら、同じ物をプレゼントしてくれて。最近、カメラに興味を持ち出してフィルムカメラを始めたこともあって、もらった時にちょっと使ってしまっていたそれを引き出しから出してきて使ってるよ」と笑顔で打ち明けてくれた。
金沢監督が「コロナ禍の中で思う人に会えないという状況で、家族や友達っていいと思ってほしい」というメッセージを込めた本作。草なぎは「家族や友達がいいなと思う瞬間は、寝る時」と答え、「毎日眠る5分くらい前から家族や友達のことを思い出すんだけど、そうしたら、ぐっすり寝られるんだよね。今日一日楽しかったなと、すごい幸せな気持ちになって、高揚感を感じるの」と告白。
さらに周りへの感謝の思いが自分の根本になっているとも言い、「感謝の心を持つことによって、自分自身が幸せになれるんですよね。すごくせわしなく働いていたり、遊んでたりしていても、人や物に感謝をすると、僕は時間が一瞬止まったような気持ちになる。そこで自分の思考などがいろいろ整理される気がして。僕にとって、それはすごく大事な時間。40歳くらいから、特に寝る前にいろんな物に感謝してるね。
自分が幸せに生きたいから、そうしてるんだと思う」と幸せそうな表情で教えてくれた。(取材・文:高山美穂 写真:高野広美)
映画『サバカン SABAKAN』は、8月19日より全国公開。
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