異例のホラー映画公開ラッシュを迎えた7月に続き、まだまだ激アツな「夏ホラーまつり」は継続中! 新世代ホラーを代表する異才、ジョーダン・ピール監督の話題作から、新感覚のお留守番スリラー、凶暴なはぐれライオンが牙をむく地獄のサファリツアーに、暗い湖底の封印心霊スポット探検まで、ユニークかつ背筋も凍るホラーアクティビティが勢揃い。去りゆく猛暑を惜しみつつ、刺激的で趣向を凝らした恐怖体験で胸騒ぎの夏気分を思う存分堪能しよう!

【写真】空で何かが起きている『NOPE/ノープ』場面写真

■『NOPE/ノープ』(2022年/アメリカ)8月26日公開

 人種差別を風刺した『ゲット・アウト』、格差社会のデフォルメに挑んだ『アス』と、現代ハリウッドホラーの最先端を突っ走る異才、ジョーダン・ピール監督が3年ぶりに放つ話題作。



 ロサンゼルス近郊で、代々ハリウッドの映画馬を育ててきた牧場主のOJ。半年前、馬上の老父が空から降って来たコインに撃たれ、異様な事故死を遂げてから、ここでは不可解な現象が続いていた。エンタメ業界で成功を夢見る妹のエメラルドは、事故の際にOJが一瞬目撃した「飛行物体」を撮影し、バズり動画で有名になろうと提案する。家電量販店で撮影機材を買い込んだ兄妹は早速、昼夜問わず大空の監視を始めるが…。

 全編、思わず「ノープ(ウソだろ、有り得ない)!」とつぶやきたくなる衝撃展開の連続。未知なる存在への畏怖と好奇心、映画黎明期からハリウッドに関わって来た黒人馬主一家の意地と誇り。陰謀論まで絡むミステリアスな物語は、重層的なテーマに彩られ、噛み応え満点。無口で不器用なOJ役に『ゲット・アウト』でアカデミー賞候補となったダニエル・カルーヤ、陽気で奔放な妹エメラルドにシンガーとしても活躍するキキ・パーマー。そして、近隣の西部劇テーマパークで「怪しいショー」を催す経営者に『ミナリ』のスティーヴン・ユァンと、旬な顔ぶれの演者も充実。今年の晩夏ホラーの大本命だ。

■『シーフォーミー』(2021年/カナダ)8月26日公開

 病気で視力を失った10代の元オリンピック・スキーヤーのソフィは、過干渉な母の元を離れ、猫シッターのアルバイトを引き受ける。家主が旅行中、人里離れた超リッチな豪邸を預かる留守番役だ。
防犯システムは万全。トラブル時にはビデオ通話でヘルパーと接続できる携帯アプリ「シーフォーミー」もダウンロードした。だが、その夜遅く、邸内に数名の武装強盗団が侵入。物音で異変を察したソフィは慌てて「シーフォーミー」を起動。イラク戦争の元軍人でオンラインゲームの達人であるケリーのサポートを受け、絶体絶命のピンチに立ち向かう。

 冬枯れた森の一軒家、盲目の少女と謎の侵入者たち。サスペンス映画の王道設定に、アプリで結ばれた女性2人の連携プレイの新要素を導入。次々に発生する予期せぬトラブル、減ってゆくバッテリー。しかも、自立心旺盛だが頑固なソフィは、実はバイト先で高価な品物を狙う窃盗常習犯の問題児。やさぐれた彼女の行動が招くまさかの事態は、まず先読み不可能! また、本作が初主演となるスカイラー・ダベンポートは実際に視覚障がい者で、ノンバイナリーのパフォーマー。ソフィのひとクセある役柄とスカイラーの体当たりの熱演に注目を。

■『ビースト』(2022年/アメリカ)9月9日公開

 末期がんで妻を失った医師ネイトは2人の娘を連れ、妻と初めて出会った思い出の地、南アフリカのサバンナを訪れた。
狩猟禁止保護区を管理する旧友マーティン(『第9地区』のシャールト・コプリーが好演!)の案内で、広大なサバンナ見学に出かけたネイト一家だが、そこには密猟者の銃弾で愛する群れを奪われ、人間に憎悪の牙をむく凶暴なはぐれ雄ライオンが待ち受けていた。

 弱肉強食の大自然、小さな車の中で孤立無援となった家族に、四方から容赦なく襲いかかる巨大な猛獣。息つく間もないスリルの連続、知恵と体力と運を駆使したサバイバル。まさに「シンプル・イズ・ベスト」な設定で押し切る、体験型アクションホラー快作だ。家族を奪われた百獣の王 VS 妻に先立たれ、多感な娘たちの信頼を失いつつある父親。残忍な魔獣と崖っぷち男の満身創痍な全力バトルをノンストップで描くのは、臨場感溢れるサスペンスに定評のある『エベレスト 3D』のバルタザール・コルマウクル。

■『ザ・ディープ・ハウス』(2021年/フランス=ベルギー)9月16日公開

 『ビースト』と同じ探検モノでも、舞台設定をひとヒネリしたのが本作。動画サイトで欧州各地の心霊廃墟探訪を続ける美男美女カップルが、登録者数アップを狙い、伝説の封印物件へのアタックを決意。そこは南フランスの寂しい村にある湖の深い水底に眠る幽霊屋敷。現地で知り合った初老の男に案内され、森の奥に広がる静かな湖に到着した2人は、ソナーつきの4Kドローンカメラを携え、仄暗い水中にダイブする。鎖で厳重に閉ざされた屋敷の扉、水苔だらけの霊廟、なぜか十字架とキリスト像で封印された台所の小部屋。そこに隠されていたのは…。


 監督はフレンチホラーの過激作『屋敷女』のジュリアン・モーリーとアレクサンドル・バスティロのコンビ。『ワイルド・スピード』シリーズの最新作『Fast X(原題)』で監督を務めるルイ・レテリエを製作に迎え、主演にミック・ジャガーの息子ジェームズ・ジャガーと、トップモデルのカミーユ・ロウを大抜擢。水中にセットを組んで撮影された、重力無視の不思議な異空間に展開する未体験のパラノーマルショックは酸欠必至。体にまとわりつくような水圧の呪縛、狭い視界に漂ってくる恐怖に身構え、無意識に浅くなる呼吸。これまた体験型心霊ホラーの新境地、深呼吸してトライ!

(文・山崎圭司)

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