Production I.Gが手掛ける『銀河英雄伝説 Die Neue These』の4thシーズン「策謀」(全三章)の第一章が、いよいよ9月30日より上映される。本作で自由惑星同盟の大将ヤン・ウェンリーの声を演じている鈴村健一が「役者が出そろってきた」と表現する本シーズンの魅力、今後の展望、自身が提唱する「好きを謳歌する」という生き方について語った。



【写真】「やりたいと思ったことはやらないと損」笑顔で語る鈴村健一、インタビューカット

■「ちょうど僕も親になった」ヤンの成長に共感

 1988年にアニメ化され人気を博した作家・田中芳樹のSF小説を、アニメスタジオProduction I.Gが新たな解釈で映像化した本作。鈴村は「今回のシーズンは、いよいよ役者が出そろってきたなというのが大きなポイントだと思います」と語ると「フェザーン自治領のルビンスキーなども登場してきて、銀河帝国、自由惑星同盟と、いろいろな人間が入り組んできます。前シーズンはどちらかと言うと各国の内政的なゴタゴタが描かれていましたが、力が外に向き出す。ついに始まったか、という感じですね」と、大きく物語が動き出すことをほのめかす。

 そんななか、ヤンを演じるうえで鈴村が意識したのは“ユリアン・ミンツとの関係性”だという。「ヤンは成長するキャラではなく、出来上がった人間として存在する。そんな彼が、いろいろなことが起きるなかで(物事に)どう対処していくのかを脚本で突き付けられていると感じていたんです。常に『ヤンならどうするのか』を考えながら演じてきたつもりです」。

 今作では、ユリアンの旅立ちも描かれる。鈴村は「(これまでのヤンは)成長するキャラではないと言いましたが、今回は人の親としての成長が脚本に描かれているんです」とも語る。「いろいろな葛藤を抱えながらも、子どもに大切なことを伝えている。ちょうど僕も親になったタイミングだったので、『そうだよな』と共感しながら『こうありたいな』と思いを重ねてヤンを見ていました」と、作品に触れながら感情移入することが多かったという。


 さらに鈴村は「先ほどもお話しした通り、3rdシーズンはどちらかというと各国の内政がメインだったのですが、今回は前作でしっかりと種まきをしていたものが非常に効いているんです。こんなにしっかり種まきする作品というのは、最近では珍しいと思います」と長期シリーズならではの丁寧な作りに舌を巻く。

■ラインハルトのようなライバルと切磋琢磨「つらい存在として見ていた」

 鈴村は「僕は、好きなキャラクターはヒルダ(ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ)って言っているんですよね」と笑う。「おい、フレデリカ(・グリーンヒル)はどうしたと怒られそうなのですが、これからラインハルト(・フォン・ローエングラム)がどんどんつらい状況になっていくなか、ヒルダがいることで少しでも彼が救われるような気がして。やっぱりいいキャラクターだなと思うんです」と理由を説明。

 鈴村が気にかけるラインハルトは、ヤンにとっては敵であるが実力を認め合える関係性だ。鈴村にとっても、ライバルとして切磋琢磨してきた存在はいるのだろうか――。

 「いまはそれなりの年齢になって、昔よりはだいぶ丸くなってきています」と語り出すと「でも20代は、みんな同期の連中にはライバル意識みたいなものは強くありました」と当時を振り返る。

 なかでも、現在同じ事務所に所属する櫻井孝宏には特別な感情があったという。「昔ラジオを一緒にやったりしていたのですが、とてもしゃべりが面白かったし、メジャー感もあったんです。実際に彼の方が先に売れていて、毎回ラジオの収録が終わるたびにへこんでいました。今の僕はラジオが大好きなのですが、当時は『ラジオ辞めたいな』って思っていたぐらい(笑)。
リスペクトしつつも、つらい存在として見ていた時期はありました」。

 それでも妬みではなく、奮起して実力を磨くことに気持ちを持っていったという鈴村。「背伸びすることなく、自分らしくできることをやっていくことで道が開けたというか…。自分にしかできないものが見つかると、居場所ができる。そうすると誰より上とか下とかいう考えがなくなります。お互いが自分の場所で切磋琢磨する。ヤンとラインハルトもそういう関係なのではないかと思いますね」。

■今後の展望は若手の育成「やってきたことを惜しみなく伝えたい」

 ヤンは自由惑星同盟軍の大将としてその才能を発揮するが、戦いを望む人物ではなかった。同じように、「やりたいこと」と「できること」のはざまで悩む人間は多い。

 鈴村は「その意味で言うと、僕は本当にラッキーだったんです」とつぶやくと、「やりたいことをやれている。本当に奇跡であって、幸せなことなんだと思います」としみじみ語る。一方で「やりたいこと」にたどり着かないという現実に直面したとしても「それは恥じることでもないし、ドラマチックに考える必要もない」と持論を展開。


 さらに「自分がやりたいことって、何かのきっかけで変わっていくものだと思う」と語る。「自分のなりたいわけではないものになってしまったと思いがちなのですが、それもいろんな要因があってたどり着いたもので、自分の決断だと思う。それが本当に自分にしかできないものになる可能性もある。どちらにしても決断は自分ですること。そこだけはブレないようにした方がいいと思います」。

 “何かのきっかけでやりたいことが変わる”ということは、鈴村自身が身をもって体験していることのようだ。声優として活躍する一方、歌手や俳優業、さらにはワークショップで若手の育成にも携わる。「僕は変化こそ人生だと思っているタイプなんです」と笑い、「自分がやりたいと思ったことはやらないと損だと思うので、とにかく行動するようにしています」と自身の特性を明かす。

 いま鈴村が力を注ぎたいと思っているのは、これまで経験してきたことを若い人たちに伝えること。「僕が大好きなこの業界に入りたいという人たちがいるなら、これまでやってきたことを惜しみなく伝えたいという思いがあるんです」。

 続けて「やっぱり夢や思いを動機のトップに持ってきてしまいがちなんですよね。もちろんそれは自分を支えてくれる大きな部分だと思うのですが、 働く、生きていくというところが意外と置いていかれがちなんです」という。
「やっぱり仕事としてやっていくには生活ができなくては成り立たない。そういうことをひっくるめて教える人は必要だと思うんです」。

 「演技って心だよ。とよく言いますけど、それは具体的にどういう構造をしているのか。その教えに早めにたどり着けた方が、より演技に集中できるようになります。僕は若い頃にメンターに出会えたのですが…なかなか出会えない人も多いと思います。何を学ぶべきかにたどり着くまでの労力より、学ぶものに気づいてからの時間が長い方がいいと思っています」と、自身の経験を踏まえた胸の内を述べる。

■「好きを謳歌」ツイッターで提唱する“生きる原動力”

 そういったことを全てひっくるめて、鈴村は「好きを謳歌する」ことを推奨する。「熱中すると時間を忘れてしまうことってあるじゃないですか。僕はそれが好きの正体だと思うんです」と語ると「それを仕事にできるのかはひとつの大きな勝負。ちゃんと好きを仕事に変えられるか。僕も何度も自分に『本当にこの仕事が好きなのか』と問いただしてきました」。


 一方で、好きと仕事が結びつかない人も多い。だからこそ、生きる原動力として公私問わず「好きを謳歌する」ことを勧めたいという。これは自身が“すごく面白い”と感じているツイッターでもよくつぶやいている言葉だ。

 「最近ツイッターを始めたのですが、そこには“好き”がいっぱい詰まっているんですよね。『このアニメが好き』『この考え方が好き』とか…みんなすごく生き生きしている」と楽しそうに話すと、「その力というのは、絶対的に自分の心や体を前に推し進めるものだと思う」と“好き”のパワーの尊さを語っていた。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

 『銀河英雄伝説 Die Neue These 策謀』は、第一章が9月30日、第二章が10月28日、第三章が11月25日公開。

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