1977年に放送されたアニメ『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』に登場するキュートでセクシーな人気キャラクター・ドロンジョの過去を、まったく新しい解釈で実写ドラマ化した『WOWOWオリジナルドラマ DORONJO/ドロンジョ』。本作でのちにドロンジョとなる主人公・泥川七音(どろかわなお)を演じているのが女優・池田エライザだ。
【写真】池田エライザ、全身ブラックのクールな撮り下ろしフォト
■「ほぼすっぴんで演じました」
父親から“勝つこと”以外の選択肢を与えられなかった七音にとって、自分の存在価値を唯一見出せるのが、肉体のぶつかり合うボクシングという真剣勝負の場。そこのリアリティは七音を演じる池田にとっても譲れない部分だ。
「とにかく基礎的なことは徹底的に練習しました。シャドーボクシングをするにも、鏡の前で自分のフォームを見ながら、どう見えるかも研究しました。でも撮影中は全然ダメなところも多くて、カットごとにボクシングの先生と意見交換して臨みました」。
さらに池田は「振り返ると体を酷使した日々でしたね」と笑うと「芝居をするうえで、七音がやりたいことはなるべくやろうという思いのなか、特に最初の方は、自分の限界を把握していなかったので、無理してしまうことは多かった。芝居が終わったあと、思いのほか体を痛めていることに気がついたりすることも多々ありました」と撮影を振り返る。
七音の精神的な面では「七音に降りかかっている不幸は、あまりにも辛いものなので、彼女の環境を想像したり、客観視するのは不可能だと思った」と語ると「あれこれ考えるのではなく、七音に体を貸すつもりで、七音がやりたいと思ったことを止めないというスタンスで臨みました」とアプローチ方法を明かしていた。
そんな思いを具現化するためには、池田はいろいろな提案を行ったという。「七音はお金がない。
■「勝ちにこだわり過ぎると大切なものに気づけない」
七音にとって唯一アイデンティティを保てるのが闘うことであり、勝利すること。池田は「それが親の教えであり、現実の厳しい生活から抜け出すためには、勝つしかないという。ある意味で洗脳ですよね」と七音の置かれている立場を慮るが「選手は勝ち負けで大きく人生が変わっていくという意味では、勝ちにこだわることは必要だと思いますが、観ている側は、たとえ負けた選手でも、闘い方や闘う姿勢に共感できれば、それで満足することもできますよね」とボクシングの世界でも、決して勝ち負けだけでは判断できないものがあるという。
池田自身、明確な正解がない俳優という仕事のなか“勝ち負け”という判断基準に対してどんな考えを持っているのだろうか――。
「どこに価値を見出すかで大きく変わってきそうですが、勝っても孤独であるよりは、負けたとき『また次があるから』と言ってくれる人間関係を築けた方が、豊かだと思うんです。もちろん一概には言えませんが、振り返ってみても、負けて悔しかったことは覚えているのですが、勝ってうれしかったことってそんなに覚えていないんです」。
続けて池田は「悔しい思いや、失敗して挫折したときに感じた気持ちって、きっと次につながる」と語ると「その思いを経験として誰かに伝えることで、自身の糧にもなるし、負けていた時代があるからこそ、勝つことの重みも出てくる。くじけることって自分を豊かにしてくれると思うんです。勝ちにこだわって進んでいくと、本当に大切なものに気づけない気がします」と思いを述べる。
■令和の時代にはびこる問題を脚本に
本作は企画の段階から、脚本が大きく変わっていったという。
「今の時代、みんなどこか不穏な空気を感じながらも、それを見ないように生きていくことで、心が歪んでいってしまう人って多いと思うんです。そんななか、何か変わることに期待している人も多い。この作品では、その変わる前夜から始まることで、希望を感じてもらえるのかなと。それこそが令和の時代にドロンジョが生まれた理由なのかなと思っています」。
これまで多くの人に愛されてきたドロンジョの魅力について「セクシーな見た目や、コミカルな雰囲気など、人それぞれ好きなポイントはいろいろあると思います」と前置きしつつ「私はあきらめない、くじけない、物事を深刻に考えすぎないという部分が好き。ドロンジョをはじめ、ボヤッキー、トンズラーと、彼らなりの正義に従って行動しているのが、何とも言えないですよね」と語る。
そんなドロンジョ誕生の前日譚とも言える本作が、アイコニックな存在として愛され続けているオリジナルなキャラクターにどうつながっていくのか――非常に楽しみだ。(取材・文:磯部正和 写真:松林満美)
『WOWOWオリジナルドラマ DORONJO/ドロンジョ』は、WOWOWにて10月7日より放送・配信。また、WOWOW公式YouTubeチャンネルにて第1話全編を無料先行配信中。