過去に2本の短編映画がカンヌ国際映画祭から正式招待を受けた監督集団「5月」が、俳優の香川照之を主演に迎えて制作した初の長編映画『宮松と山下』。第70回サンセバスチャン国際映画祭で正式招待され好評を博した本作に出演する津田寛治のインタビューが到着した。
日本では珍しい、オムニバスではない共同監督(佐藤雅彦、関友太郎、平瀬謙太朗の3人からなる)作品に出演した感想や、主人公のエキストラ役者・宮松を演じた香川との現場でのエピソードなどについて語った。
【写真】香川照之がエキストラ役者に 『宮松と山下』フォトギャラリー
■「5月」の監督たちは「視点が違う」 初日から驚き
――本作の脚本を初めて読んだときの印象や感想を教えてください。
最初に台本を読んだ段階で、ストーリーを追いかけるタイプの作品でないこともあり、既に行間に変わった空気が流れていました。なので、完成形が想像しづらかったんです。でもそれは逆に楽しみでもありましたね。
この『宮松と山下』はお芝居の世界と現実世界をあえてごっちゃにしてあるので、台本を読みながら「ああ、ここはこっちなんだな」と(芝居のシーンなのか現実のシーンなのかを)考えながら読んでいました。
――津田さんが演じられた「健一郎」という役柄を、どのような人物だと思いましたか?
台本を読んだ時と、現場に入って監督に演出していただいた時とでは全然印象は異ったものになりましたね。最初に台本を読んだ時は、ものすごく妻想いで、優しく、素直でまっすぐな感じの、ちょっと青年っぽいおじさんかな、と捉えていました。
――「5月」の作品に参加してみていかがでしたか?
面白かったですね。2人の監督体制はこれまでもよくあったんですけれども、3人は初めての経験でした。話し合う時間とかすごいことになっちゃうんじゃないかな、と最初はちょっと不安なところもありました。でも現場ではそんなことなく、スムーズに進んでいました。
エキストラの撮影風景は相当リアルです。僕も京都へ行くことが多く、いろいろな撮影風景を見てるわけですよ。でも、やっぱり「5月」の監督たちは視点が違うんですよね。はったい粉を吹いた後の手元の寄りの映像とか、すごいなって思いました。素直に現場であれを見てビビッと来たんだなって、自分の興味を持ったものをそのまま本編の中に出しているところも本当に素晴らしいなと思いました。
――「5月」の監督たちと演技や演出について、何かお話したことがあれば教えてください。
役柄について、1番最初に僕が思っていたものと、監督の中のイメージが結構違っていたので、初日は本当にたくさんご説明いただきました。
僕は北野武監督の『ソナチネ』(1993)でデビューしたので削いでいくやり方が自分の中でベースにあるんです。最初に「何もするな」っていうところから始まっているんです。それが、今回の現場ではちょっと芝居を足していくような方向に感じたので、ちょっと意外だったんです。無機質にいくものと思っていたら、監督たちのおっしゃることが「足してほしい」という意味合いの聞こえ方をしたんですね。でも出来上がった作品をみると自分の勘違いだったというか。
芝居を足すのではなく、実際は芝居の空気感を作られていたんですよね。一人一人のキャラクターを作るってよりは、人と人の間の空気感をすごく大事にされていたんだと思いました。
例えば立ち姿一つでも「もう少しつま先を内側にしてください」というご指摘をいただいたことがあって、「こうですか?」と試してみると、監督が「いや、それだと内側すぎます」「あ、そのぐらいそのぐらいがちょうどいい! それがあなたのキャラクターなんです」とご指摘いただいたこともありました。初日でしたけど、あれはびっくりしましたね。
■主演の香川照之との共演「背中を見ていて、勉強なりました」
――主演の香川照之さんとの共演はいかがでしたか? 津田さん、香川さん、尾美としのりさん、みなさん同じ1965年生まれですね。
1965年生まれ、僕らの世代はある意味独特なのかもしれないですね。空白の30年っていうのをどっぷり経験しているわけでもないし、子供がたくさん生まれる時代でもあったり、高度経済成長期も経験していて、いろんなもの経験しすぎて、すごくべたっとした透明な感じになっている世代だと思うんですけれども、だからこそ、みんな肩の力抜いて個性が出ているのかもしれないです。
特に香川さんは昔、黒沢清監督の撮ったVシネとかにもよく出られてて、「この役者さん良い現場たくさん踏んでいるな」と思っていて。特に衝撃を受けたのは、中国映画の『鬼が来た!』(2000)だったかな。
香川さんに「『鬼が来た!』の現場どうでした?」って色々聞いたら、「やっぱ中国の人たちはバイタリティがすごいんだよ」と言っていて、中国の方々の撮影現場のエピソードをいくつかお聞きしたんですけど、どれも大変な経験で。なのにものすごくポジティブに受け止めるんですよね。「あ、そうか、そういうところからもいろんなこと学んでいる方なんだな」と思いました。
『宮松と山下』の撮影現場でも監督の演出に文句ひとつ言わずに、全部ポジティブに捉えて、それを一生懸命やられている。その姿は、ほんとに背中を見ていて、勉強なりましたよね。
――香川さんと何か撮影現場で演技や演出についてお話したことはありましたか?
メイクルームで僕が香川さんに「台本ではこうなってるんだけれども、実は僕こういう風にやりたいんですよね」って、香川さんにちょっと言ってみたら、「わかるわかる。わかるんだけど、まずは台本通りにやってみよう。多分この3人(監督)ね、今チャレンジしてるんだよね。俺もやりたいこと色々あるんだけど、ただこの3人のチャンジをまず優先したいからさ、とりあえずいっぺんこの通りやってみようよ!」って仰ったんですよね。それがやっぱり本当に懐も深いし、人間的にも素晴らしい方なんだなっていう気はしましたね。
――これから本作をご覧になる皆様へメッセージをお願いします。
他の映画とは明らかに毛色の違う映画なので、映画が始まってから終わるまで、今まで経験したことのない時間を体験できると思います。
そのトリップ感をすごく楽しんでいただきたいですし、あと、香川さんはじめ尾美さん、中越典子さんたちのお芝居が本当に素晴らしいので、その空気感と、お芝居のコラボレーションを存分に楽しんでいただきたいと思います。
映画『宮松と山下』は、11月18日より全国公開。
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