2020年に公開されたアニメ映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が、『金曜ロードショー』(日本テレビ系/毎週金曜21時)で、きょう25日に地上波初放送される。戦うための道具として生きてきた少女・ヴァイオレットが、上官・ギルベルト少佐から戦場で言われた「愛してる」の意味を、手紙の代筆業“自動手記人形サービス”を通じて知っていく。
【写真】京アニの映像美が圧巻 『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』場面写真
■言葉や表情だけでなく映像でも伝わる感情
本作の映像美は、キャラクターや小物などの作画の丁寧さとクオリティに、撮影技術を駆使した表現が加わることで完成していると言えるだろう。テレビシリーズでは「光」や「明るさ」の使い方が非常に印象的だった。
代表的なのが、娘が亡くなった悲しみでふさぎ込む劇作家・オスカーの代筆をヴァイオレットが行うことになったテレビシリーズ第7話。登場時のオスカーは娘の死をまだあまり受け入れられず、無精ひげも剃らずに、酒におぼれて執筆活動をしない・できない日々を送っていた。そんな冒頭での彼の家の中は薄暗く、まるで彼の心の内を表しているかのように何だかどんよりとした雰囲気。それとは対照的に、ヴァイオレットがオスカーの娘の形見であるパラソルを持って空をかけようとするシーンでは、湖畔に光が反射して、鮮やかな色を放つ。透き通るような空、ヴァイオレットの動きと共に飛び跳ねる水の表現、レンズの表面に光が反射することで起きる「レンズフレア」をイメージした演出などが、見ている者を惹(ひ)きつけて離さなかった。
美しいだけではない。このシーンの鮮やかさは、「この湖を渡ってみたい。
■背景の「暗さ」が人物の心の内を表す
『劇場版』での自然描写や映像表現も、テレビシリーズと同じく登場人物の心情とリンクしていると感じる場面がある。例えば、中盤と終盤における「明るさ」の違い。少佐が生きているかもしれないと聞いたヴァイオレットは、自身が務めるC.H郵便社の社長で元軍人のホッジンズと共に、遠く離れた島へ彼に会いに行こうとする。その道中の背景として描かれているのは、曇天と荒れた大地。こういった映像は、ヴァイオレットが少佐と何を話せばいいのか気持ちの整理がついていない様子や、少佐ではないかもしれないという彼女の不安、そしてこれから起きること出来事を予期しているようにも感じる。
また、戦争関連の回想シーンや中盤以降では、背景の「暗さ」が印象に残る。ときには登場人物の表情が見えないくらいの場面もあるが、これは「心の閉鎖」度合いや不安・悲しみを表しているのかもしれない。天候の変化を知らせるような雲の動きは、「物語の進行」と「嫌な予感」を演出しているようにも思えた。
こういった明るさや映像表現を踏まえたうえで終盤のシーンを見ると、セリフ以上の“何か”が伝わってくる。どういった暗さから誰にどんな光が照らされているのか。このシーンで、言葉だけではなく映像からも「愛してる」の感情が見えてきたのは、きっと私だけではないだろう。そして、クライマックスに上がる花火。これは、ヴァイオレットの軌跡を祝福しているようにも思えた。
本作では、全編を通して美しい映像が物語を彩っている。本コラムで紹介した天気の移り変わりや明るさだけでなく、人物を映す距離によって伝わってくる静寂、あえて表情を映さなかったり、人物ではなく美しい背景だけを映したりする演出などに注視してみると、登場人物たちの心情をさらに感じ取れるかもしれない。(文:M.TOKU)
アニメ映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)にて11月25日21時放送(放送枠40分拡大)。ボニーキャニオンよりBlu-ray&DVD発売中。