小栗旬が主演を務める大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合ほか/毎週日曜20時)が、いよいよ明日18日に最終回を迎える。1年間の放送の中で、死や引退、流罪などさまざまな形で実に60人以上のキャラクターが物語から“退場”した本作。

最終回を前に、印象的だった7人の退場シーンを振り返ってみたい。

【写真】1年間の放送の中で“忘れられない退場者”を演じた俳優たち

■北条宗時(片岡愛之助)第5回・善児により暗殺

 物語序盤で印象深いのは、主人公・北条義時(小栗)の兄、北条宗時の“早すぎる退場”だ。坂東武者の世を作ることを夢見て、打倒平家を強く訴えた宗時。しかしその実、なんでも安請け合いしては義時に「任せた!」と無茶振りするちょっと迷惑な兄だった。

 明るい笑顔と野望に燃える熱い性格で視聴者からも愛された宗時だったが、伊東祐親(浅野和之)の下人だった善児(梶原善)によって暗殺されてしまう。序盤で無念の退場となったが、その志半ばでの死は最終回を目前に控えた現在も、弟・義時を突き動かす原動力となっている。


■上総広常(佐藤浩市)第15回・見せしめとして討死

 御家人たちのまとめ役であり、源氏の棟梁たる源頼朝にもその力を認められていた上総広常。時には義時に温かい言葉をかけるなど、鎌倉の“兄貴”的な立ち位置だった。

 その退場は、御家人たちの謀反を収めるために見せしめとして背中を切られ討たれるという屈辱的なもの。死に際、「なぜ俺が殺されるのか」という疑問に満ちた表情から、義時と目が合いすべてを悟ったように一瞬だけ笑顔を見せた上総介。頼朝の絶大な権力と恐ろしさが顕在化した重要な出来事であったと同時に、のちに鎌倉で上り詰めた義時の“政の教科書”となった1件でもある。彼の死は視聴者にも大きな衝撃を与え、ツイッターでは「#上総介を偲ぶ会」といったワードがトレンド入り。
頼朝が完全に世間から嫌われた日でもあった。

■源頼朝(大泉洋)第26回・落馬のち病死

 もともと流人として伊豆にやってきた頼朝は、強い運とカリスマ性で徐々に力を強め、源氏の棟梁として武家の頂点に立った。しかし自らの力が大きくなるにつれ、周囲への疑心も大きくなっていく。上総介を切り捨ててからというもの、同じ源氏の血が流れる木曾義仲(青木崇高)・源義高(市川染五郎)親子を「いずれ敵になる」と討ち、平家討伐の立役者である異母弟の源義経(菅田将暉)も信じることができなくなって討ち…視聴者からは『鎌倉殿』で悲劇が起きるたびに「全部大泉(頼朝)のせいだ」と叫ばれるように。

 そんな頼朝の最期ははかないもので、「落馬」という武士にとっては恥ずべき出来事を引き金に病に臥(ふ)せり、そのまま帰らぬ人となる。頼朝を突如失った鎌倉はさらに混沌を極め、主人公・義時はそんな鎌倉を守ろうと奔走するうち、どんどん“闇落ち”していくことになった。


■阿野全成(新納慎也)第30回・処刑

 頼朝の異母弟で、「私の占いは半分しか当たらない」という頼りない人物、全成。殺伐とした鎌倉の中で、クスっと笑わせてくれる存在だった。しかしその最期は壮絶なもの。頼朝の後を継いだ頼家(金子大地)に対し呪詛を行ったとして詮議を受け、比企能員(佐藤二朗)の策略にはまり、ついには処刑されてしまう。

 処刑の間際に全成が呪文を唱え始めると、たちまち大に。最後の最後に「人知を超えた力」を発揮したのだった。
また全成と妻・実衣(宮澤エマ)との関係も美しい。日ごろから「君は赤が似合うね」と実衣に言ってきた全成は、絶命直前に自らの赤い血を見て愛しい妻の名を叫ぶ。そんな実衣は夫が最期に起こした奇跡を聞くと、「当たり前でしょ。私には分かってた」と得意げな表情で、涙を流したのだった。

■頼朝なき鎌倉からはさらに退場者が続出

■善児(梶原善)第33回・自ら育てたトウにより暗殺

 『鎌倉殿の13人』オリジナルキャラクターであるアサシン・善児。頼朝の第1子・幼い千鶴丸を暗殺したのを皮切りに、歴史の裏で多くの人物を淡々と始末してきた。
ネット上では、次週予告で善児がチラリと映るだけで「地獄確定」とされるほどにその存在感は大きかった。

 しかし善児に、徐々に“人の心”が。善児を慕う頼家の息子・一幡には、刃を向けられなかったのだ。そんな善児は、自身が殺したある夫婦の娘・トウ(山本千尋)を「2代目」として育てていた。そして最後にはトウに、“両親の仇”として刺殺される。「この時を待っていた」と言うトウに刺されながら、小さくうなずいたように見えた善児。
成長した弟子の実力を認めたのか、自身の呪われた役目が終わることに安堵(ど)したのか…その本心は分からない。

■畠山重忠(中川大志)第36回・「畠山重忠の乱」にて討死

 真面目で賢く勇敢、そして何より見目麗しい。そんな“武士の鑑”と謳われた、畠山重忠。義時とは同世代で、常に高め合ってきた。武士として完璧な重忠だったが、義時の父で執権だった北条時政(坂東彌十郎)にとってはトップに上り詰めるにあたって邪魔な存在に。時政が娘婿である重忠に謀反の汚名を着せたことで、「畠山重忠の乱」がぼっ発してしまう。

 共に鎌倉を守ってきた義時と泥臭いタイマン勝負で殴り合い組み伏せるも、あえて義時にとどめを刺さなかった重忠は、フッとゆるく微笑みその場を後にする。“完璧”だった重忠が最後に見せた人間臭い表情は、黒い思惑のうごめく鎌倉に愛想をつかしたようにも、自らの人生を生き抜いた満足感がにじんだようにも見てとれた。

■和田義盛(横田栄司)第41回・「和田義盛の乱」にて討死

 立派な髭と人懐っこい笑顔、おおらかかつまっすぐな性格で、“『鎌倉殿』の癒やし”と視聴者から愛された和田義盛。頼朝の挙兵時から源氏に仕え、とくに3代目・実朝(柿澤勇人)には猪汁を振る舞ったり占いに連れて行ったりと、義盛は主君である実朝を弟のように愛している様子だった。

 “鎌倉一の忠臣”とまで言われ御家人たちの信頼も厚かった義盛だが、その人望の厚さを義時は危険視。一度は実朝により収められるも、やはり和田と北条はぶつかることになってしまった。最期には投降するよう求めてきた実朝の目の前で、体中に矢を受け絶命。義盛の壮絶な死の間際、一緒に鎌倉を作ってきた盟友であり彼を死に追いやった本人である義時が、一瞬だけ苦悶の表情を見せたのが印象的だった。

 今回紹介した“退場者”以外にも、強い印象を残してドラマの世界を去っていったキャラクターがまだまだいる『鎌倉殿の13人』。いよいよ明日最終回を迎えるが、さらなる退場者はでるのだろうか。また、主人公・義時の行く末は? テレビの前で“その時”を待ちたい。

 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』はNHK総合にて毎週20時放送。BSプレミアム、BS4Kにて18時放送。(文:小島萌寧)