デビュー18年を迎え、音楽活動、テレビ、舞台と精力的な活躍を続ける関ジャニ∞・安田章大。7年ぶりの映画出演となる『嘘八百 なにわ夢の陣』では、“カリスマ波動アーティスト”というハマリ役とも言えるキャラクターを好演する。

2017年に脳腫瘍を患い、後遺症から映像作品への出演には抵抗感もあったという安田に、意識が変わったという本作出演を経ての今の率直な気持ちを聞いた。

【写真】カリスマ波動アーティストとして劇中では自ら絵を描くシーンにも挑んだ安田章大

◆ハマリ役に思える“カリスマ波動アーティスト”役も本人に自覚なし

 中井貴一&佐々木蔵之介ダブル主演、武正晴監督で贈る『嘘八百』シリーズの第3弾となる本作。大阪を舞台に、“骨董コンビ”が豊臣秀吉のお宝の中でも所在不明の幻の品を狙い、カリスマアーティストと財団、謎の美女とだまし合いを繰り広げる。安田が演じるのは、中井と佐々木をほんろうするカリスマ波動アーティスト・TAIKOH。神秘の舞のような動きで大きなキャンパスに絵を描き、それらの絵とともに自身もカリスマ的な人気を誇る謎の人物だ。

 演技の仕事は舞台で主演を務めるなど継続していたが、映画やドラマなど映像作品への出演は『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』(2016年)以来、7年ぶり。オファーを聞いた時には「シリーズの1、2を観ていたので、こんな面白い作品に出られるなんて、『良かったな!安田君』って思いました」と笑う。

 自身が演じるTAIKOHの“カリスマ波動アーティスト”という肩書には、「皆様、第一印象で“?”と思ったと思いますが、僕自身も『“カリスマ波動アーティスト”ってなんぞや?』」と思ったそう。しかし、台本を読み、「謎めいた人なんだけど、純粋で真っすぐな人なんだっていうところがTAIKOHの魅力だと感じました。善か悪かも分からないような空気をまとっているキャラクターというのも面白かったですし、台本にキャラクターがしっかり描かれているから、僕自身は(演じるうえで)楽しいだけで悩ましい感じはなかったんですよね」と振り返る。

「セリフに描かれているキャラクターを自分の中にイメージして入れたら、あの感じになったんですよ。なんとも言えん多面的な人物に仕上がって、それはたぶん監督が導いてくれたものなので、“VIVA、武さん!”みたいな」と手ごたえを感じているようだ。


 劇中では、TAIKOHが大きなキャンバスに絵を描くシーンも多いが、ほとんどの場面で実際に安田自身が描いているという。「なんの不安もなかったですね。そんなんやらせてもらえるんや!っていう贅沢な思いでした。こんな有名な映画を使って、自分自身が絵を描いて参加させてもらえるなんて、38年生きてきた自分の人生の中でも思ってもなかったプレゼントです」。

 現場では舞うように描くことを意識したそうで「踊るように舞うようにアクション付きで、自分なりにやったんです。監督からも大きく動いてくれと言われたので、大胆にやってました」と語る通り、安田の動きに自然と見入ってしまうような印象的なシーンに仕上がった。

 TAIKOHのファッションやビジュアルについてのこだわりを聞くと、「髪型はアリーナツアーを回っている最中だったので、とりあえず伸ばしたままで、色も青にしていたのが抜けて勝手にこの色になったんですよ。監督に聞いたら、切らなくてもいいし、このままの色でいいって言ってくれたので」とそのまま臨んだ。

 「サングラスも今着けているやつなんですよ。用意しますって言ってくださったんですけど、このレンズは特殊なので、映像になった時にこのレンズのほうがありがたいんで、TAIKOHに合うフレームがあるんで持っていきます」と自前のものだと明かす。「(役について)『めちゃくちゃ合ってるやん!』って周りから言われても、僕自身は『・・・』って分からないんです。“カリスマ波動アーティスト”に合う人生なんて、これまで生きてきて思ったことないですもん(笑)」。


◆関西人に囲まれた現場で感じた楽しさと発見

 中井、佐々木をはじめ、友近、笹野高史、升毅ら芸達者なベテランがそろう現場も満喫したようだ。「貴一さんも蔵之介さんもみんな優しくて。貴一さんは、サクランボの差し入れをしてくださったんですが、僕がいっぱい食べていたら、『また取り寄せたから』って紙コップに“安田君”って書いて取り分けておいてくれたりしました」と感謝。「現場はみんな明るいから、移動中の車なんて小学校の修学旅行みたいでした。(山田)雅人さんと松尾(諭)さんと(桂)雀々さん、笹野さんと一緒の車で移動することが多かったんですが、みんなずっとしゃべってました。救急車が通りすがったら、“なんかあったんかな?”って、1個1個街で起きていることに反応して。お芝居の話は全然しなかったです」と楽しそう。

 現場ではうれしい再会もあった。「中川浩三さんっていう大阪の俳優さんがいらっしゃるんです。僕が19歳の時に出た昼ドラ(『ショコラ』)で共演して、浩三にいやんって呼んでたくらいの方なんです。久しぶりにお会いして『ヤスと久しぶりに会っても、なんも変わらずこうやって会話ができることを幸せに思う』って言ってくれて…。浩三にいやんのお芝居を観に小劇場とかに行ってたんで、その時のお話とかしました。
しょっぺさん(高田聖子)とは、本読みの時に2人で“うわぁぁ”ってなってあいさつしました」。

 『嘘八百』シリーズは、関西出身のキャストが多い作品だが、「現場での音符の飛び方がテンポよかったですね」と表現。「武監督が、『関西人が多かったからか、言葉の後に余韻として“はぁ”とか、しゃべる前のブレスの音が多かった』と言ってました。それはすごく芝居の躍動感を出すと。なるほどな、関西人はそういうリズムが大事なんだな、勝手に無意識で起こっているリズムなんだなって思いました」と発見もあったそうだ。

 監督から掛けられた印象的だった言葉を尋ねると、しばし逡巡したのちに「もったいないから言いたくないな。自分のものにしておきたいからこぼしたくないかも。いい言葉でしたけど…大切にしときます」とほほ笑んだ。

◆大病の後遺症から生まれた映像作品への抵抗感も払拭

 ここ数年、毎年のように舞台で主演を務め、“役者・安田章大”としての進化は続けてきた。「舞台が好きな理由は、観に来てくれた人の心に種を植え付けるというか、人間の五感とかを使って、共鳴しあうことができるから最高なんだって思ってたんです。その中で、映像をやってこなかったのは、自分の病気が大きくて」と明かす。2017年に脳腫瘍を患い、その後遺症のためサングラスが手放せなくなり、「サングラスを着けないといけないっていうのが、自分にとって映像に対する抵抗感になった」という。


 「サングラスかけないといけない役なんてすごく絞られるので。かつ照明を浴びると(レンズが)照るので、スタッフさんに迷惑かけるっていうのもあったし…。照明浴びたらセリフが飛ぶっていうのもあったり、左前頭葉に腫瘍があったので、セリフ覚えが遅くなったんですよ。短期的、瞬発的に芝居をする場に向いてないなってはっきりと自分で理解できたから、映像ものは断ってくださいって、当時、マネージャーさんに話してたんです」。

 しかし、今回の出演で思いに変化が生まれた。「その中でもこうやってお話を頂けて、今回出させていただいて、自分の恐怖心とか抵抗感を全部ぬぐいさってくれたといいますか。すごく感謝している状態です」ときっぱり。「映像ものってやっぱり楽しいなーって思いましたし。映画にしかないお芝居の楽しさを教えてもらった作品です」と感謝する。

 「またオファーをもらえたらいいなって思うほど、映像に恐怖心がなくなったので、体調が良くなっているわけじゃないんだけど、うまいこと体調をコントロールして向きあいながら映像に出ていくということも誰かの力づけになるのかなーっ思うんで」とファンならずとも期待が高まる言葉が出た。「この業界に残っている理由はたったひとつ、誰かのために残っているので。自分のためであれば、もうこの業界には残っていないです。
誰かのためにって思えたから、映像ものにもまた。みんなの期待に応えられる、たった1人の僕でいられたらなって思いますね」。

 最後に、本作のタイトルにちなみ、自身は嘘や騙しは得意なほうか聞くと「すごいヘタクソ」と即答。「すぐ騙される。フィッシング詐欺も何度クリックしたことか」と衝撃の告白が。「疑わないですね。疑うって楽しくないじゃないですか。エイプリルフールも毎回騙されて。騙されたことも忘れて、次の年にまた騙されてるんです」。(取材・文:編集部)

 映画『嘘八百 なにわ夢の陣』は、1月6日公開。

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