声優としてはもちろん、近年は俳優としての活動もますます勢いに乗っている津田健次郎。フジテレビ系列月曜9時枠で放送された連続ドラマの劇場版である映画『イチケイのカラス』では、物語の発端となる事故に関わる役どころとして、気迫に満ちた演技を披露している。

もともとは舞台俳優としてキャリアをスタートさせ、1995年に声優デビューした彼だが、俳優と声優の演技の違いについてどのような考えを持っているのだろうか。俳優としての転機や、「また今、初心に立ち返っている」と改めて噛み締めている芝居の難しさ、醍醐味について語った。

【写真】津田健次郎、大人の男の色気があふれる撮り下ろしショット!

■人気ドラマの劇場版に参加! 物語の鍵を握る人物の“死に様”を体現

 本作は、型破りな裁判官のみちお(竹野内豊)と、上昇志向が強いエリート裁判官の坂間(黒木華)によるバディが奮闘する姿を描いたドラマの劇場版。みちおがイチケイを去って2年。主婦が史上最年少の防衛大臣に包丁を突きつけた事件と、その背景にあったイージス艦と貨物船の衝突事故。2つの事件に隠された真実に辿り着くべく、みちおと坂間が奔走する。津田は「豪華なキャストの方々と一緒に、コメディとして楽しめる上に、同調圧力や過疎の問題などいろいろなテーマが浮かび上がってくる作品に出演できた。本当に光栄です」と本作の魅力と共に、参加できた喜びを語る。

 津田が演じたのは、イージス艦との衝突事故で非業の死を遂げる、貨物船の船長・島谷役。津田は島谷について「船長という職務への責任感と、家族への想い。この2つが彼の人生を支えている」と分析。島谷の“死に様”にも彼らしさが表れているといい、田中亮監督からは「最後まで船の舵を離さないでほしい」という演出があったと振り返る。


 「崩れ落ちそうになったとしても、島谷は最後まで船や船員を守ろうとする。田中監督とは、“それこそが彼のアイデンティティであり、守りたいという思いの強い人なんだ”というお話をしていました。台本を読んでいた段階では、“死に際の島谷は意識がもうろうとしていたのかな”と思ったのですが、現場では田中監督から“凝視するように、ずっと前を見つめていてください”という指示をいただき、島谷を演じる上では“諦めない強さ”も大事なんだなと思いました」と田中監督と共に島谷を作り上げた。

 島谷の死に様を見事に体現し、物語が大きく動き出すきっかけとなる劇的なシーンを演じ切った津田は、「台本に書いてあるもの以上に、現場でいろいろなものが生まれていく感覚がありました。とても楽しかったです」と充実感もたっぷり。島谷の死後にみちおや坂間が事件の調査に乗り出すとあって、竹野内や黒木と共演シーンはなかったものの「竹野内さん演じるみちおは、本当にキュートで。自由人でふわふわとしているみちおは、シリアスな場面でもそのトーンが崩れないにも関わらず、彼の怒りや真剣度がこちらにも伝わってくる。黒木さん演じる坂間は堅物なのに、こちらもとてもキュート。お二人のお芝居もとても魅力的でした」と大いに刺激を受けた様子だ。

■俳優、声優の演技の違いとは? 俳優としての転機は『最愛』

 大学で演劇を学び、1995年のテレビアニメ『H2』の野田敦役で声優デビューした津田。艶やかな低音ボイスも魅力で、『遊☆戯☆王』の海馬や『呪術廻戦』の七海など、代表作を挙げればキリがない人気声優として活躍している。一方、近年は吉高由里子主演のドラマ『最愛』(TBS系)や、山田涼介主演のドラマ『俺の可愛いはもうすぐ消費期限!?』(テレビ朝日系)、今月よりスタートした門脇麦主演の『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系)など次々と実写ドラマに出演を果たし、俳優としての存在感もぐんぐん高めている。


 俳優として求められる喜びについて聞いてみると、津田は「とてもうれしいです。全身を使って演技をする面白さを、ものすごく感じています」と笑顔を見せながら、「アニメや映画の吹き替え、ナレーションなどの声のお仕事も、より丁寧にやっていきたい。声優と俳優、どちらのお仕事もやっていけるといいなと思っています」と希望する。

 俳優としての転機に挙げた作品が、津田が劇中で巻き起こる事件捜査の指揮をとる警視庁捜査第1係長の山尾役を演じた『最愛』。津田は「『最愛』でがっつりとレギュラーとしてテレビドラマに出させていただいて、映像の現場のものづくりの醍醐味を感じ、改めて実写でのお芝居って面白いなと実感することもできました。『最愛』からもらったものは、とても大きなものだと思っています」とにっこり。

 ちなみに映画『イチケイのカラス』の島谷の妻を演じているのは、『最愛』にも出演していた田中みな実。津田は「『最愛』では、ごあいさつだけさせていただいて。『イチケイのカラス』でも家族写真を撮影する日だけご一緒させていただいて。『お久しぶりです』とお声がけしました」と両作共に近いところにいながらもなかなか本格的な共演はできなかったそうで、「完成作を観て、奥さんが大変な状況になってしまったなと思って…。本当にかわいそうでした」と島谷の死後、孤軍奮闘する妻の心情に寄り添っていた。

 俳優、声優としての活動を行き来している今、それぞれの演技の違いについてどのように感じているのだろうか。
すると津田は「個人的には、そんなに違いを感じることはなくて。演じるという意味では同じだと思っています」と口火を切り、「アニメや映画の吹き替え、実写のお芝居など、そういったジャンルに関わらず、いずれも“その作品ごとに役に対するアプローチが変わってくる”という考え方です」と持論を展開する。

 とはいえ舞台俳優としてキャリアをスタートさせた後、声優の世界に飛び込んだ際には勝手の違いに戸惑いもあったそうで、「声優業の場合、お芝居のリズムを自分で作ることはせずに、絵のほうにリズムがあるんですね。最初はそこがとても難しかった」と告白。「もちろんセリフを体の中に入れて全身を使って演じるのか、台本を片手に持って声を使って演じていくのかという違いや、アニメと実写では距離感の捉え方が違ったりと、声優業には独自の技術が必要な部分もありますが、根幹にある“演技をする”ということは同じ。俳優も声優も、芝居をするという枠の中にいるものだと思っています」と技術的な違いはあれど、全身全霊を注ぎその役として生きることにおいては同じだという。

■「とにかくいっぱい芝居がしたい」

 芝居の世界に魅了されている津田だが、「相手の役者さんとやり取りを重ねたことや、監督などに演出をいただいたことがカチッとハマった瞬間が、めちゃめちゃ楽しい」と熱っぽく語り、「とにかく、いっぱい芝居がしたい」と続ける。

 「芝居って、やっぱりものすごく難しいなと思うんです。でもだからこそ、楽しい。10年ずつくらいで“分かってきたかな?”と一周したところで、“いや、まだまだ分かっていないな”とまた初心に立ち返って…ということをずっと繰り返していて。やってもやっても、常にその先があるような世界。今改めて、芝居の奥深さを感じているところです。
諦めずに掘り下げて、できたつもりにならず、麻痺しないように心がけながら、芝居に向き合っていきたい」と力強く決意表明。

 「誰かを目指すのではなく、自分の中に納得や発見が増えていくといいなと感じています。芝居って、自分との戦いみたいな部分も大きいですから。これからも実写でもアニメでも面白い役を演じられたらいいなと思いますし、映画もまたできたらとてもうれしいです」。清々しく情熱的に、津田健次郎は走り続ける。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)

 映画『イチケイのカラス』は、全国公開中。

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