大友啓史監督×古沢良太脚本の映画『レジェンド&バタフライ』で「魔王」とも呼ばれた戦国武将・織田信長を、人間味溢れる一人の男性として演じた木村拓哉。そんな信長が政略結婚する正室・濃姫を強く優しく気高く演じたのが、綾瀬はるかだ。

身体能力の高さを惜しげもなく披露し、美しさと強さで魅了した凛々しい濃姫は、まさにハマり役だが、取材に現れたご本人は、その場の空気を和らげ、緊張感をほぐしてくれる、この上なくナチュラルで愛らしい女性! 取材では、10年ぶりの共演で初の「夫婦役」を演じた木村の印象や、今回新たに発見したこと、撮影の裏話などを語ってくれた。

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■ハマり役の「濃姫」 共通点は「男勝りなところ」

 「濃姫はすごく賢く、男勝りで、愛情深く、 相手を思うがゆえに1歩引いている部分がある。頑固で不器用なところも魅力的な女性だなと思いました」。

 あて書きではないかと思うほどハマり役の「濃姫」だが、自身と共通点を感じるのは「男勝りなところ」と語る。乗馬や殺陣など、身体能力の高さを感じさせるシーンが実に多いが、実は練習はほとんどする時間がなかったそうだ。

 「アクションは、形が決まったものを撮影が終わった後などに木村さんと一緒に合わせたり、練習期間が基本的にほとんどなかったので、クランクインしてから、合間に弓道を少しやったりという感じでした。特に馬に乗るのは久しぶりだったので、緊張感はありましたよ。練習している馬と違って、鐙(あぶみ)と手綱だけでつかまる部分がなく、自分がバランスを崩すと本当に危ない状態だったので、心臓はバクバクしていました。木村さんとか、みんなすごいスピードでバンバン走らせるから、『とにかく吹っ飛ばされて頭打たないように気を付けて』と言われていました(笑)。現場でいきなり『できるでしょ』という感じで、そのままやってみること、多いんですよ」。

 どの現場でも「できるでしょ」と軽く要求されてしまう高いハードルは、高い身体能力への信頼あってのもの。そして、それを軽々こなしてしまうのが、綾瀬はるかの大きな強みだろう。


■「あけましておめでとう」でいきなり小屋でのラブシーン

 一方、木村が演じた信長については、印象がどんどん変わっていったことを明かす。

 「最初はちょっと威張ってばかりで、中身がない、うつけだと思っていましたし、初夜のシーンなんか濃姫の方が圧倒的に強いですから、ちょっと小バカにしつつも、『可愛らしい信長だな』と思っていたんですね。でも、背負うものがどんどん増えていく中で、かっこいい信長様だと思うようになっていきました。濃姫に対しては深い愛情を持っていて、頼もしいのに、どんどん違った方向に暴走していく木村さんの演技には奥深いものがありましたね。濃姫はある出来事から次第に『夫婦』を強く意識するようになり、一緒にいたいという思いが強まっていくのに、止められない信長がいて。最初に天下統一を目指すというのは、濃姫自身も言っていたことだけど、その目標の隣にいるのはもう自分じゃないということもわかっている。だったら自分はもうそばにいないほうが良いと考えた濃姫の選択は、私も共感できるところがあります」。

 コントのような初夜のシーンをはじめ、前半では息がピタリと合ったアクションシーンの数々を披露している。

 「初夜のシーンなども、動きはアクションチームが型を作ってくれるのですが、「実際に着物でやってみると、『そんなに足を広げられないよね』『だったらこういう動きに変えた方がいいんじゃないか』『もうちょっとこう動いてもらえるとやりやすい』といった意見をお互いに出しあいながら、作っていきました」。

 信長と濃姫の小屋でのラブシーンも印象的だったが、実はこんな撮影裏話も。

 「スケジュールの関係で、ラブシーンだけが年を越しちゃったんです。今回は撮影する場所も多岐にわたって、京都の撮影所でスタンバイして、車で何時間かかけて移動して撮影して、次は東京に戻るためにまた何時間か移動…とやっていたら、スケジュールを色々と調整しなければならなくなってしまって。
それで、ラブシーンだけは年が明けてから『あけましておめでとうございます』からいきなりといった感じで。恥ずかしさはありましたが、そんなことは言っていられないですから(笑)」。

■木村拓哉は熱意も集中力も常にMAX 自身は「スロースターターなのかな(笑)」

 何度も共演してきた木村だが、本作での再共演を通して改めて感じたこと、発見したことを聞くと、「とにかく体力がすごい!」と回答。「その日の撮影分を撮りきれるかどうかというとき、休憩時間も少ない中、木村さんは全く休憩せずに甲冑姿のままトイレにも行かず、ずっと待機していらっしゃったんですね。作品に懸ける熱意や集中力がすごくて、それをまた、長時間持続できるんです。しかも、いつもテンションがMAXで、いつも『やったるぜ!』みたいな。もちろんお疲れなのかと思うときもあるんですが、気持ちはMAXで『いくぜ!』みたいな気迫があって。入り時間も毎回30分とか早く入っていらっしゃるんですよ。『寝た?』と聞いても、『昨日のアクションのことずっと考えていて』とか『明日の撮影のこと寝る前に考えていたら、眠れなかった』とか言うこともあって、役や作品に対してずっと神経が張り詰めた状態なんですね。私だったら、もたないだろうなと思うほど、基本的に常にオンで、常に“木村拓哉さん”なんです。肩が凝らないかなと思うくらい、疲れも見せなければ手も抜かない、プロフェッショナルだなと思います」。

 ところどころ身振り手振りを交え、お茶目な表情を見せつつ、木村の噂通りの“完璧”ぶりを絶賛する綾瀬。


 では、自身が撮影前に役柄を自身の中に落とし込む方法や、ルーティーンとは?

 「特に決めているものはないですが、方言とかアクションとか、違う要素が加わると、よりイメージを膨らませやすいというところはあります。自分的には、考えるより動いてみたときに、『濃姫ってそうだよね、強いよね』『このくらいスキのない人だよね』ということがやりながらわかってくる感じというか。スロースターターなのかな(笑)」。

 あれこれ考え込むよりも、動いてみる中で理解できてしまう器用なイメージがあるが、仕事をするうえで大切にしていることを聞くと、真っすぐにこう語った。

 「経験値が増えていくと、無意識に、自然にできちゃうことがどうしても増えていくんですよね。でも、だからこそ、どの役柄・どの作品でも、必ず原点に立ち返って、心でセリフを発するようにしています」。(取材・文:田幸和歌子 写真:松林満美)

 映画『レジェンド&バタフライ』は公開中。

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