世界中に多くのファンを持つ車田正美の漫画『聖闘士星矢』をハリウッドで実写映画化した『聖闘士星矢 The Beginning』。本作で主人公・星矢を演じたのが、俳優の新田真剣佑だ。

これまでも、幼少期から励んでいた空手を元に『るろうに剣心 最終章 The Final』や、『鋼の錬金術師』シリーズで規格外のアクションを披露し、アメリカで生まれ育った堪能な語学力を活かし、『パシフィック・リム:アップライジング』などの海外作品へも精力的に出演してきた新田。そんな彼をしても、本作で主演として臨んだハリウッド映画の現場で「役者としての考え方が大きく変わった」と衝撃を受けることが多かったという――。

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■立場関係なく、いいものを作ろうと意見をぶつけ合うハリウッドの現場

 全世界で5000万部を突破している車田正美の人気漫画が原作、監督は世界中のNetflixで視聴数ナンバー1を叩き出している『ウィッチャー』の製作総指揮および演出を務めたトメック・バギンスキー。そしてスタント・コーディネイターを『シャン・チー/テン・リングスの伝説』やジャッキー・チェンのスタントで有名なアンディ・チャンが担当するなど、まさに世界最高峰のスタッフが集結した本作。

 「一番強く感じたのが、スタッフ一人一人が命を懸けて参加しているという気概。例えば聖衣(クロス)を纏うシーンなども、みんなめちゃくちゃ楽しそうに撮影に取り組んでいるなかで、良いものを作ろうという熱意がすごい。本当に立場関係なく、いいものを作るためにみんな意見をぶつけ合うんです。普段僕は、誰よりも気合を入れて現場に臨んでいるということに自信を持っているのですが、そんな僕が押されるぐらい。いい意味で殺気立っているんです。僕も遠慮なく思ったことはどんどんぶつけていきました。どんなポジションの人間でも、作品を良くするために言い合えるチームだからこそ、いい作品が作れるんだということは身に染みて感じました」。

 劇中、圧倒的なスピードを駆使したアクションを見せる星矢。
身にまとう聖衣は10キロ近い重さがあったというが、新田は軽々と星矢らしい舞うような動きを見せる。

 「アンディ・チャンのアクションチームは、とにかく豊富な選択肢を与えてくれるんです。その中から、話し合って星矢にあったアクションはどんなものだろうと試行錯誤して作っていきました。星矢の対戦相手はみんなゴツイ。その中でスピードとテクニックで上回らなければいけない。その説得力を出すことは命題でした」。

 スピードとキレ、華麗に舞うような動きを作るために、徹底的に体を作った。

 「アクションに関しては、撮影の1ヵ月前ぐらいにブダペストに入って、そこから週5でいろいろなトレーニングをしました。体を見せるシーンがあったので、ジムは週7で通い、魅せる部分と、スピードを出すところを意識して作り上げていきました。ベストは尽くせたと思っています。とにかく必死でやっていました。毎日筋肉痛でしたね(笑)」。


■冗談抜きで、不安で吐きそうだった撮影前

 アクションシーンへのこだわりもハリウッド作品ならではだという。

 「仕組みの違いはあると思いますが、日本だとどうしても他の作品と掛け持ちになってしまうことがありますが、この作品では当然、1本に集中しているので、ディスカッションする時間も圧倒的に長い。正直アクションシーンも日本の何百倍もかけていたと思います。納得するまでとことん議論をするので、作品に対する理解も深まっていきますよね」。

 そんな現場だからこそ、しっかり意志をもって臨まなければ、対等にスタッフや共演者と向き合うことができない。「やる気だけは負けない」という自信を持っていた新田が「もしかしたら負けるかもしれない」と思った現場だった。

 「正直、撮影前は気合だけは負けないようにと思っていても、冗談抜きで不安でした。吐きそうでした。それだけプロフェッショナルな現場なんです。実力がなければ絶対に太刀打ちできない。そんな現場に入らせてもらえた。しかも主演でというのは、本当に恵まれているなと思います。
このヒリヒリとした感じは、絶対に日本にいたら味わえなかった。もちろん自分の未熟さも痛感しました。4ヵ月間という短い期間でしたが、俳優という仕事の本質を噛みしめました。この経験を活かして、より大きな俳優になっていかなければいけない。役者という考え方を大きく変えてもらえる時間でした」。

■世界で人気の日本コンテンツ 俳優としてチャンスは広がるも、語学は「非常に大切」

 新田と言えば、アメリカで生まれ青春時代を過ごした。『聖闘士星矢』はもちろん、日本発のアニメコンテンツはアメリカでも大人気だったようだ。

 「アメリカにいたときは、僕なんかより断然アニメに詳しい人がたくさんいました。僕の方が疎かった(笑)。『聖闘士星矢』はもちろん、『ONE PIECE』、『ドラゴンボール』、『BLEACH』、『HUNTER×HUNTER』などのファンは多かったです」。

 以前は『聖闘士星矢』をはじめ、少年誌で連載されている壮大な世界観の物語は“実写化不可能”と言われていたが、新田がロロノア・ゾロ役で出演する『ONE PIECE』など、ハリウッドで実写化される流れがある。

 「日本のコンテンツというのは誇らしい部分はあります。
僕も今回大きなチャンスを頂けました。まだまだ、今後も日本のアニメーションが実写化される機会が増えていくことで、さらなるチャンスが広がるかもしれません」。

 ドメスティックではなく、市場は世界。配信というジャンルが文化として根付くことで、俳優としてもさらなるチャンスが広がる。

 「こういう作品が日本から生まれたということを誇らしく思い、噛みしめて欲しいですね。一つ今回僕が海外の作品で感じたのは、語学の大切さ。基本としてネイティブと同等の英語力は必要だと思います。片言では通用しない。もちろんジャッキー・チェンさんぐらいアイコンとして受け入れられれば別ですが(笑)。その意味で、これから世界を目指す若い子たちには、語学の大切さをしっかり認識してほしいです。この作品で、世界を感じてもらえれば、うれしいです」。(取材・文:磯部正和 写真:松林満美)

 映画『聖闘士星矢 The Beginning』は、4月28日より全国公開。

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