是枝裕和監督作『怪物』(インターナショナルタイトル『MONSTER』)が、現地時間5月17日に第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で公式上映され、是枝監督、脚本家の坂元裕二、主演の安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太が登壇。上映後は9分間にもわたるスタンディングオベーションが続き、安藤は「地響きのような拍手で圧倒されました」と振り返った。
【写真】観客がスタンディングオベーション! 第76回カンヌ国際映画祭、映画『怪物』公式上映の様子
『怪物』は、是枝監督と『花束みたいな恋をした』『大豆田とわ子と三人の元夫』などの脚本家・坂元裕二、そして音楽には坂本龍一さんというコラボレーションで紡がれるヒューマンドラマ。出演は、安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子ら実力派と、二人の少年をみずみずしく演じる黒川想矢と柊木陽太。その他、高畑充希、角田晃広、中村獅童など多彩なキャストが集結した。
現地時間5月17日、第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門での公式上映を迎えた『怪物』。是枝監督をはじめ、脚本家の坂元、主演の安藤、永山、黒川、柊木が華やかなレッドカーペットを歩き、会場内で大きな拍手で迎えられた後、着席し上映が開始。エンドロールが始まると、2200人もの観客を収容する会場からは拍手が起こり、坂本龍一さんへの追悼文が流れた際には、さらに割れんばかりの大きな拍手と、敬意を表するような歓声もあがった。
その後も9分半のスタンディングオベーションが続き、是枝監督は少しホッとしたような表情を見せながら、大きく会場内を見渡し、おじぎをしながら称賛にこたえ、両脇の安藤と永山ともハグと言葉を交わし、喜びを分かち合った。また、脚本家の坂元ともしっかり肩を組み、『怪物』が多くの観客に届いた手応えを確かめ合い、称えあった。
スタンディングオベーションの後、マイクを渡された是枝監督は「こんなに多くのスタッフとキャストに支えられて作ることができました。まずはそのスタッフとキャストに感謝します。そのスタッフとキャストの多くが今日ここに集まってくれたことがすごくうれしいです」と語った。
公式上映終了後、是枝監督、脚本家の坂元、安藤、永山が日本メディア向けの囲み取材に参加。
永山は「まずは本当に感謝したい。是枝さん坂本さんさくらさん皆さん含め怪物に携われたことが今まで俳優やって来れて良かったなと思いました」とコメント。今回の役柄について「ぼくは保利先生を演じたのですが、これまでも坂元脚本を演じてきたのですが、一貫してあるのは『生きづらさ』。今回は教師役で子供と向き合う役だったのですが、とにかく余計なことを考えない、現場では監督を信じてやりました」と語った。
是枝監督は「上映後の見てくれた方達の顔がとても輝いていたので、良かったなって思いました」と手応えをにじませ、音楽を担当した坂本龍一さんについて聞かれると「音楽室のシーンがすごく好きだと言ってもらい、あのホルンとトロンボーンの音を邪魔しない音楽を作ろうと思ったという意見をもらいました。映画の中から聞こえてくるような曲になったんじゃないかなと、おこがましいけれど思いました。今日も最後に大好きなAquaが流れて良かったなと思いました」と語った。
脚本の坂元は「カンヌのスタンディングオベーションしか見たことないものですから、どれくらいのレベルかわからず監督を見たら微笑んでいたのでいい反応だとおもいました。胸が震えるような思いがしました」と振り返り、「面白いストーリーを作るために一人一人の登場人物が物語に振り回されないように、一人一人が生きている物語を作りたいなと心がけました」と作品に込めた想いを明かした。
映画『怪物』は6月2日より全国公開。
是枝裕和監督、脚本家の坂元裕二、安藤サクラ、永山瑛太の囲み取材コメント全文は以下の通り。
<是枝裕和監督、脚本・坂元裕二、安藤サクラ、永山瑛太 コメント全文>
――映画が終わった後大きな拍手が送られていました。
坂元:カンヌのスタンディングオベーションしか見たことないものですから、どれくらいのレベルかわからず監督を見たら微笑んでいたのでいい反応だとおもいました。胸が震えるような思いがしました。
永山:まずは本当に感謝したい。是枝さん坂本さんさくらさん皆さん含め怪物に携われたことが今まで俳優やって来れて良かったなと思いました。
安藤:地響きのような拍手で圧倒されました。監督の姿を目に焼き付けようとずっと監督をみていました。なにより主役の(黒川)想矢と(柊木)陽太と一緒に感じられたら良かったのになと思いながらいました。夜遅い時間での上映だったので、2人が一緒にいられなかったのが、もやもやっとしました。しっかり2人に伝えたいなと思います。
是枝監督:トップバッターだったんで責任重大だなと思いながら現場にいましたが、上映後の見てくれた方達の顔がとても輝いていたので、良かったなって思いました。
――拍手が盛り上がって、泣いている観客もいました。地元の観客からは「Beautiful」という感想が出ていました。
安藤:激しく同意します。初めて見たときになんと美しいものを見たんだろう、頭で考える美しさでなく、生きとし生けるもの全ての美しさを感じたので激しく同意です。
是枝監督:なぜでしょうね。映画全体としては人と人が理解できない世界をずっと描いていくのだけど、見終わると、そういう光を感じるっていうのが、自分の映画ではない読後感で、それは坂元マジックだと思うのですが、それがしっかり届いたのではないかなと思います。
――今回トップバッターでの上映だったが、監督のリクエストだったのですか?
是枝監督:結果的にそれは良かったなと思うのですが、そんなリクエストなんておこがましい。彼らがこの作品にとってベストな上映日時を決めてくれたんだろうと思っています。見終わってから、1日2日3日と反芻した方が良い映画なのでね。
――監督にお聞きします。本作は、(企画・プロデュースの)川村元気さん、山田兼司さんが坂元さんと開発していた企画ですが、坂元さん、坂本龍一さんと組んで何が加わったと思いますか?
是枝:なんか違いました? 何が変わったか、か…。それは観た方が感じることだと思うんですよね。
――『怪物』に関わるうえで意識したことをお聞かせ下さい。
坂元:できるだけ嘘のない物語を作ろうと心がけました。面白いストーリーを作るために一人一人の登場人物が物語に振り回されないように、一人一人が生きている物語を作りたいなと心がけました。特に子供たちが出る物語なので、自分自身が子供と遠く離れた歳になったが、自分にとって都合の良い子供を描かないように気をつけました。
永山:ぼくは保利先生を演じたのですが、これまでも坂元脚本を演じてきたのですが、一貫してあるのは「生きづらさ」。僕に書いてくれるキャラクターはある苦しみを抱えている。意識する事は過去とか未来を頭で考えることをやめて、今、共演者やカメラの前に立った時に、思考せずに本能的に感じられるか。
安藤:現場に入る前は、最終章の物語をどういい形にサポートしていけるか、最初の登場人物としてどう表現していくかというのを大事にしたい、その上で脚本を読んだ時に最初に感じた私の印象をお守りのように抱いて現場に入って、現場ではよりセットに入ったら、ニュートラルな状態で楽しく毎日撮影をしていて、現場で特に慎重に繊細にやっていたのは、触れ合うこと。人と触れ合う、息子とのふれあいの距離感だったり、校長先生もそうですし、そのちょっとしたふれあいで距離感が変わる作品なので、そこは繊細にやりました。ちょっとのふれあいで意味合いが変わるなということは、現場に入って思いました。
是枝監督:この面白い脚本とこのキャストがそろった時点で監督はあまり余計なことはしない方がいいとは思っていましたが、何が起こるかわからない中を、観客もいろんな怪物をみることになることだけを意識していました。スタッフが成熟して、取り組んでくれたので、素敵な現場でした。
――観た人にどう感じて欲しいですか。
是枝監督:今日見ていい表情をされているなとは思いましたが、どう感じているかは人それぞれなので、感じてほしいと思うのもおこがましいのではと思いました。
安藤:すごいご覧になって感じた感想を含めた質問でしたね。私全然違う感想だったので、今すごくびっくりしました。
――監督はスタッフも成熟したと語っていましたが、何かエピソードがありましたら教えて下さい。
是枝監督:元の脚本を読み込んだスタッフが町や湖を見つけてきてくれて、スタッフがあの電車、車両を作ってくれて、それがこの映画の世界観、子供達だけの宝物である空間と時間を見事に表現している、その絵の持っている力強さがワンカットワンカット繋がったものが今回の結果だと思う。
――安藤さんがカンヌ映画祭に参加するのは『万引き家族』以来ですが、前回と比べて変わったところはありましたか?
安藤:カンヌが変わったなんてまだ私にはわかりませんが、私自身が二度目ということで、前回の初めての興奮じゃない状態でしっかりと味わおうという気持ちで、前回はあっという間に終わってしまったのですが、今回は「これがカンヌか」というのを噛み締めながら過ごしてます。
――パルム・ドールを受賞した『万引き家族』と今回の『怪物』、拍手が大きかったのはどちらですか?
安藤:今回!? あれ? 違う?! それは私の感じ方か。正解??
――映画の中で、嵐がでてくることでスペクタクル感がありましたが、撮影時はあの雨を待っていたのですか?
是枝監督:雨は全部降らしました。全部作りました。一箇所唯一校庭に降る雨だけ本物で、あとは作り物です。
――是枝監督がカンヌに参加するのは今回で7回目です。作品を作るうえで海外を意識するのですか?
是枝監督:題材選びとか、そういうことですか? あんまり意識してないのかも。デビューして、僕らの世代はすぐに海外の映画祭に呼ばれていくっていう状況が1990年代2000年代初頭にあって、どうやって日本の外で受け入れられるかを考えざるをえない時期があったんだけど、それを考えないと全く成長しないってことはないと勉強しました。自分のローカルな題材をしっかりと掘り下げていけば、地球の反対側にも届くと知りました。
――音楽担当の坂本龍一さんとは、どのようにやりとりされていたのですか。
是枝監督:映画の中で3回繰り返される夜の湖のシーンについて、ロケハンで諏訪に行った時に、ここに坂本龍一さんのピアノが入ると確信しました。ご体調のことはありましたが、一回自分の好きな坂本さんの曲を仮当てし、それをお手紙と共に送って見てもらいました。お返事が来て、映画全体を引き受ける体力はないのだけど、1~2曲閃いたから書いてみます、気に入ったら使ってくださいと返事のお手紙をもらいました。
観た直後に音楽室のシーンがすごく好きだと言ってもらい、あのホルンとトロンボーンの音を邪魔しない音楽を作ろうと思ったという意見をもらいました。映画の中から聞こえてくるような曲になったんじゃないかなと、おこがましいけれど思いました。今日も最後に大好きなAquaが流れて良かったなと思いました。