夏の甲子園が始まり、プロ野球が後半戦に入って盛り上がりを見せる中、スポーツニュースでは連日メジャーリーグの大谷翔平選手ら日本人選手の活躍でもにぎわっている。本日8月9日の<野球の日>を記念して、今回は数ある野球を題材にした映画の中から、色んな角度から楽しめる5本をご紹介!
【写真】本物と見紛うばかりの高倉健の鬼監督ぶり
★高倉健が中日ドラゴンズの監督に! 『ミスター・ベースボール』(1992)
数あるハリウッドの野球映画の中でも非常に珍しい、日本プロ野球の“助っ人外国人選手”をテーマにした本作。
日米のギャップに戸惑うメジャーリーガーの姿をコミカルに描き、練習の仕方やコマーシャル出演に至るまで、両国の考え方の違いも興味深い。主人公ジャックを演じるトム・セレックが素晴らしいのはもちろんだが、最も印象に残るのは、中日ドラゴンズの監督を演じた高倉健。
本作の公開は1992年。日本人“大リーガー”野茂英雄がメジャーリーグで活躍するのは3年後のこと。今や大谷翔平選手をはじめとした日本人選手の活躍、WBCの優勝などで、日本プロ野球のことはアメリカでも知られているが、この頃のメジャーリーガーにとっては未知の世界だったことがよく分かる。
★黒人初のメジャーリーガーを描く実話『42 ~世界を変えた男~』(2013)
黒人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンを描くヒューマンドラマ。1947年、ブルックリン・ドジャース(現在のロサンゼルス・ドジャース)は、ニグロリーグ(アメリカの黒人選手を中心とした野球リーグ)で活躍していた黒人選手のジャッキー・ロビンソンを見出し、チームに迎え入れる。しかし当時は人種差別が激しく、メジャーリーグは白人だけのものだった。ロビンソンは相手の選手や監督どころか、味方であるはずのチームメイトやファンからも差別を受けてしまう。しかし差別に耐えながら孤独に戦い続けるロビンソンの姿は、やがてチームメイトや観客までも変えていく。
主人公のジャッキー・ロビンソンを演じたのは、2020年に43歳でこの世を去ったチャドウィック・ボーズマン。彼の名演が本作最大の魅力であることは間違いない。アメコミヒーロー映画『ブラックパンサー』でも知られるボーズマンの、不屈の闘志で差別に立ち向かうロビンソンの姿は、まさにハマり役だった。なおタイトルの「42」はロビンソンがつけていた背番号のこと。彼の歴史的偉業に敬意を表し、現在のメジャーリーグでは全球団を通じての永久欠番となっている。現在この背番号を付けている選手はいないが、ロビンソンがデビューした4月14日は「ジャッキー・ロビンソンデー」に制定されており、毎年全選手がその日の試合は背番号42を付けてプレーすることになっている。
★アスレチックスの革命的戦術を映画化『マネーボール』(2011)
メジャーリーグの貧乏球団、オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャーであるビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、見るからにオタクな風貌のイエール大学卒のピーター(ジョナ・ヒル)と出会う。ビリーは彼が主張するデータ重視のチーム運営論に勝つための突破口を見出し、後に“マネーボール理論”と呼ばれるようになる新しい戦略を実践していく。当初はその理論が活きずに周囲から馬鹿にされるが、次第にその戦略が功を奏し、チームは驚きの快進撃を続けていく。
全30球団もあるメジャーリーグだが、その貧富の格差はすさまじい。最近まで藤浪晋太郎選手が所属していた(先月ボルチモア・オリオールズに移籍)ことでも知られるオークランド・アスレチックスは、今でもメジャーリーグを代表する貧乏球団だ。
球団の裏方であるフロントの業務が中心に描かれるので、選手が売り買いされるトレード期限ギリギリの交渉風景などは、野球ファンにも新鮮に映るだろう。一方、試合シーンも抜かりはなく、本作の役者は野球経験者を中心に構成されていて(数ある野球映画の中には、役者の動きにリアリティがない作品が意外と多かったりするのだが…)、リアリティのある動きで躍動感のある試合描写を実現。その点でも、異色かつ優秀な野球映画と言えるだろう。
★引退試合と野球人生が交差する感動作『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』(1999)
デトロイト・タイガースのベテラン投手ビリー・チャペルは40歳を迎え、腕や肩の痛みは消えず、明らかな衰えを感じていた。今日ビリーが登板する試合の相手は、ニューヨーク・ヤンキース。ヤンキースにとってはこの一戦に勝てばホームでの優勝が決まる大事な一戦だが、タイガースにとっては消化試合。しかし、チームの身売りが決まり、オーナーからは引退かトレードかの選択を迫られていたビリーにとって、この試合は野球人生の集大成を掛けた重要な試合となるのだった。さらにビリーは試合当日の朝、長年の恋人ジェーンに別れを告げられてもいた…。
主演は野球映画の名作『フィールド・オブ・ドリームス』や『さよならゲーム』といった作品に出演してきたケビン・コスナー。コスナーは実際に野球経験があるため、素晴らしい投球フォームを披露している。本作で描かれるのはたった1試合のみ。主人公が引退の判断を迫られる試合の中、1イニングを投げるごとに、回想という形で主人公のこれまでの野球人生、そして最愛の人との思い出がプレイバックしていく。試合の緊張感とストーリーの連続性を損なわず、主人公にしっかりと感情移入させる構成には脱帽。痛みをこらえ、必死に7回までを投げ抜いたビリーは、この試合が完全試合(打者を一度も塁に出さずに試合を終えること)に近づいていることに気が付く。果たして最後まで投げ抜いたとき、ビリーにどんな結果が待ち受けているのか。
このヒューマンドラマでメガホンを取ったのは、なんとホラー映画『死霊のはらわた』のサム・ライミ。振れ幅が大きいその力量にも驚嘆だ。
★不動の野球映画の代名詞『メジャーリーグ』(1989)
言わずと知れたスポーツコメディ映画の傑作にして、公開から35年経った今も野球映画の代名詞的な存在でありつづけている本作。34年間も優勝から遠ざかっている弱小球団クリーブランド・インディアンス。チームを建て直すために集められたのは、どこの球団も取らないような落ちこぼれの選手たち。儲からない弱小球団に愛想をつかした新オーナーのレイチェルは、1年の観客動員が80万人を下回れば本拠地を移転できるルールを利用して、お金になるマイアミへの移転を目論んでいた。そんなことも知らずに連敗を続ける落ちこぼれたちは、勝利を手にしてマイアミ移転を阻止できるのか。
チャーリー・シーン演じるリッキーが名曲「Wild Thing」とともにブルペンから登場するシーンは、何度見ても鳥肌もの。高校時代、チャーリー・シーンはプロからスカウトが来るほどの実力者だったそうで、投球フォームも非常に様になっている。刑務所上がりのチンピラ投手、足はめっぽう早いが打撃はさっぱりのお調子者、変化球が打てないホームランバッターなど、わかりやすい個性が光り、楽しいキャラが目白押し。そんな彼らが繰り広げるドタバタコメディ映画ではあるのだが、意外にもストーリーはマジメ。身勝手なオーナーに現場の選手が立ち向かうという王道のストーリーと、チームが一つになっていき勝ち進んでいく様は何度見ても爽快だ。
(文・稲生D)