声優界のレジェンド・神谷明が「この役ができるのは僕しかない」と強い思いを持ってオーディションに臨んだというアニメ『シティーハンター』の冴羽リョウ。神谷にとって大切なキャラクターが、約4年ぶりとなる劇場版アニメーション『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』として帰ってきた。

テレビアニメスタートから36年に渡りリョウを演じてきた神谷が、あふれ出る“シティーハンター愛”を語った。

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■そうそうたる声優たちに彩られた劇場版!

 1987年に北条司による人気漫画をテレビアニメ化してから36年の歳月が流れた『シティーハンター』の劇場版最新作『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』は、こだま兼嗣総監督いわく「もはや避けて通れない冴羽リョウの原点を探る作品」と銘打たれている。

 この言葉に神谷は「核心に踏み込むような一本筋の通ったストーリーがありつつ、これが最後というより、最終章の始まりというか…。さらなる『シティーハンター』を感じさせてくれる奥行きがある物語だったので、すごくうれしかったですね」と脚本を読んだ時の感想を述べる。

 作品には、冴羽リョウ役の神谷はもちろん、槇村香役の伊倉一恵、野上冴子役の一龍斎春水、海坊主役の玄田哲章、美樹役の小山茉美ら往年のメンバーと、リョウの過去を知る男・海原神役に堀内賢雄、今回の依頼人となるアンジー役に沢城みゆき、さらにはある組織の暗殺者であるピラルクー役の関智一、エスパーダ役の木村昴などそうそうたるメンバーが顔をそろえる。

 作品で重要な役割を果たすアンジー役の沢城について「僕は脚本を読んだとき、沢城さんがパッと頭に浮かんだんです。
内容を読めば読むほど、この役は演技力が要求される。スタッフさんから『アンジーは沢城さんです』と言われたときは、ガッツポーズをしました。実際スタジオでご一緒して、改めて上手な役者さんだなと。迫力もあり素晴らしかった」と絶賛する。

 また神谷は「アンジーの好演があるからこそ、香との関係性も活きてきました」と語ると、長きに渡りタッグを組んできた伊倉についても、「お話をうかがったことはないのですが」と前置きしつつ「リョウのスタンスは最初から変わっていなかったのですが、伊倉さんが今の香に到達するまでは、時間がかかったのかなと。だからと言って最初から違和感はまったくありませんでした。
作品を重ねるごとにじっくりと育て上げた感じがします。その意味で、今回の香はパワフルでかわいい。素晴らしかったです」と目じりを下げる。

 リョウの育ての親という、物語のキーマンとなる海原神を演じた堀内は、最初の『シティーハンター』では端役として出演していたという過去がある。当時神谷の芝居を見て「あんなに軽やかな芝居がいつかできるようになるのか」と尊敬の念を新宿でのプレミアイベントで語っていた。

 「新人のころから知っていて、僕らは『賢雄、賢雄』と呼んでいたのですが、年輪を重ね、軽妙洒脱な演技が大変上手な役者さんになったなと見ていました。
今回の海原は心から憎いと思える役を見事に作られていました。その素晴らしい演技に、じゃっかん嫉妬してしまいました(笑)」。

■神谷「日本中で唯一堂々と『もっこり』と言えるのは、リョウ以外にはいない」

 他のキャストへ最大限のリスペクトを送った神谷。そんな神谷も声優界ではレジェンドと呼ばれる存在だが、堀内が言うように、とにかくリョウは軽やかで格好いい。新宿歌舞伎町の屋外で行われたプレミアイベントでも、リョウの代名詞である「もっこり」を高らかに連呼し会場を盛り上げた。

 「最初にこのセリフを言う時、意識したのは嫌らしく感じられないようにということ。
あとは楽しもうと(笑)。このセリフ、日常では絶対言えないじゃないですか。でも不思議と抵抗はなかったですね。時代は変わりましたが、日本中で唯一堂々と『もっこり』と言えるのは、リョウ以外にはいないんじゃないですかね(笑)」。

 本作で『シティーハンター』デビューした関や木村も神谷の「もっこり」に憧れ、あわよくばどこかで「言ってみたい」と話していた。神谷は「もう誰が言ってもいいセリフですよ。
もし関くんや昴くんが今後も作品に出演する機会があれば、ぜひ『もっこり』を言ってもらいたいです」と笑う。

 すべてにおいて懐が深い『シティーハンター』のキャスト&製作陣。それは本作にも表れている。劇中、日本を代表するアニメキャラクターとコラボしているのだ。「びっくりしました。実は脚本に書かれていなかったキャラクターも登場していたんです。
何も聞かされていなかったので、試写会で初めて見てぶっ飛びました(笑)。しかもそのキャラクターの声優が声を当てている。本当に贅沢だなと思いました。ご覧になっていない人のために、敢えてどんなキャラかは言いませんが、本当に夢のような時間でした」。

■神谷「次があるから頑張って現役を続けようというモチベーションがあります」

 声優活動も50年を超える。代表作をあげれば枚挙にいとまがない。神谷にとって『シティーハンター』はどんな存在なのだろうか―。

 「週刊少年ジャンプで読んでいるときから『アニメ化されたらリョウは自分がやりたい』と強く思っていました」と当時を振り返ると「おそらく日本の俳優でこの役をできるのは僕しかないというぐらいにね。そんな大胆なことを思ったのは、後にも先にもこのキャラクターだけ。オーディションに受かった時は本当にうれしかったですし、今までやってきた役の集大成としてすべてを注ぎ込んだ存在です」。

 原作の力はもちろんだが、神谷が命を吹き込んだリョウは、世界中で大きな人気を博した。2019年にはフランスのフィリップ・ラショーが監督と主演を務めた『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』という作品を世に送り出し、日本でも大きな話題を呼んだ。また2024年には、Netflixで鈴木亮平を主演に実写映画化されることも発表されている。

 神谷は「ラショー監督の作品は“シティーハンター愛”にあふれていました。とにかく素晴らしかった」と語ると「小さいころ『シティーハンター』に夢中になっていた方たちが、新たな形で表現し始めていますよね」と“シティーハンターチルドレン”たちが作品を広げている現実に触れる。

 実写版でリョウを演じる鈴木とは以前から親交があるようで「彼もあふれんばかりの“シティーハンター愛”を持っている方なので、ものすごく楽しみ。この映画のプロモーションが落ち着いたら、ゆっくりと食事をしましょうと話しているんです」と語っていた。

 本作、そして来年はNetflixでの実写化と、ますます“シティーハンター旋風”は吹き荒れそうだ。神谷も「映画の大成功を願っているんです」と力強く述べた。「そしてキャスト全員もきっと次を待っていると思う。次があるから頑張って現役を続けようというモチベーションになります」とファンにはうれしい言葉。

 「大先輩である野沢雅子さんは僕より10歳上でも、バリバリ活躍されています。アメリカには、フランキー・ヴァリさんという89歳の歌手がいるのですが、彼も現役で歌っています。そんな方々を見ていると、本当に力になる。次回作もぜひ製作していただき、僕らも頑張りたいと思います」と力強く語っていた。

(取材・文:磯部正和)

 アニメ映画『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』は、9月8日より全国公開。

※冴羽リョウの「リョウ」はけものへんに「僚」のつくりが正式表記