2019年、2021年にドラマ放送&劇場版がそれぞれ公開された、市原隼人主演の『おいしい給食』。1980年代の中学校を舞台に、心から給食を愛する教師・甘利田幸男と、同じく給食道を究めんとする生徒との熱すぎる捧腹絶倒のグルメバトルはハマる人を続出させ、多くのファンを生み出してきた。
【写真】たくましい筋肉美にほれぼれ! 市原隼人の撮り下ろしカット(全6枚)
■「群を抜いて一番ハードな現場」への3度目のチャレンジ
1話30分のドラマである『おいしい給食』は、“学校給食”という多くの人が経験したものを、グルメドラマとして、フードバトルとして、そして学園ドラマとして巧みにコミカルに構成。そのうえで80年代という懐かしさが味付けされ、親と子が世代を超えて楽しむことができる。
最大の見どころは、市原が「出演作で群を抜いて一番ハード」と言ってはばからない、文字通りの“魂の熱演”だ。演じる甘利田は、表向きは真面目を装った給食愛駄々漏れの中学教師。1日で最も楽しみにしている給食を目の前にすると踊り出し、幸福感いっぱいに平らげ、同じく給食を愛するライバル生徒とよりよい食べ方を競い合う。市原が全身を使って表現する甘利田の一連の動きが、『おいしい給食』を単なるグルメドラマの域を超えた、究極のエンターテインメントへと昇華させている。
市原自身、ドラマへかける情熱が並大抵ではないことをこれまでも明言してきたが、そんな中、シーズン3を迎えるにあたってのプレッシャーはどれほどのものだったのか。
「正直、プレッシャーはシーズン2よりも大きかったです。
“一切の妥協なし”。しかし、シーズンを重ねていくと、同じことをしていてもマンネリやパワーダウンと捉えられかねない。「シーズン1、シーズン2と見てきてくださった方に対して自分がどうあるべきなのか。そのことに向き合う毎日でした」と、真摯な姿勢を崩さない市原。「でも全力で向き合っていると、自分の理解を超えた動きが生まれてくることがあるんです。シーズン1の撮影が始まる前から監督には挑戦させてくださいと言い続けてきましたし、そういう作品でありたい。オリジナル脚本の作品がこうやってみなさまに支持されて、シーズン3まで続くことって本当に奇跡だと思っています。決してなれ合いではなく、妥協することなく作り上げていける。こんな光栄なことはないです」と噛みしめるように語り、新シーズンの出来栄えにも自信を見せる。
■新たなライバル登場! 甘利田に引けを取らないリアクションは、なんとアドリブ
中学校が舞台となる本ドラマには、当然たくさんの子どもたちも出演している。30分のドラマの中でほぼ出ずっぱりの市原は、ソロショットの撮影に加えて子どもたちとのシーンもあり、そのどちらにも全力で挑んでいる。
「僕だけが演じる部分は後回しにして撮影しています。子どもたちを先に帰さなきゃいけないですから。朝から子どもたち側の撮影をするのですが、彼らが芝居しているときは、カメラに映らない位置で僕も全力で芝居をしています。それは子どもたちの生々しいリアクションを撮るためです」。
映っていないところでも演技と準備を怠らず、気を抜く暇もなさそうだが…。「夕方くらいからやっと僕の撮影になるんですが、そのころにはもうボロボロになってます(笑)。給食シーンの動きやナレーションの抑揚など撮影に入るまでに自分で構築して、現場でもああでもないこうでもないと、ずっと考えたり、1人で踊ったりしています(笑)。そうして甘利田側の撮影に挑むのですが、給食を食べるシーンは撮影した8割はカットされます。でもやっぱり挑戦はしたいんです」。やはり想像を超えるストイックさだ。
そして、このシーズン3からは、これまでの主人公・甘利田のライバルだった少年・神野ゴウ(佐藤大志)に代わり、新たなライバル・粒來(つぶらい)ケン(田澤泰粋)が登場する。
ファン大注目の新ライバルについて、市原は「彼は神野ゴウとはまた違う魅力をまとっています。食べることが本当に好きみたいで、給食のシーンの撮影が終わってもずっと食べてるくらいです(笑)。独特の雰囲気を持っていて頭も切れる子で、メモを取り、台本はいつも付箋だらけになっています。こんなにも真摯にまっすぐに役に向き合う姿を見て、本当に頭が下がる思いです」と賛辞を惜しまない。
今作では粒來が給食をよりよく食べる方法を思いついたとき、彼に稲妻が走るという演出が登場し、笑いを誘う。甘利田に対抗するリアクション芸を生徒役に付与するとは、監督も考えたな…と思いきや、「実はあれ、彼(田澤)が思いついて自分でやりだしたんですよ。もう僕はついていくしかなかったです!(笑)。彼との掛け合いはとても楽しかったです」。なんと、稲妻直撃は田澤本人のアドリブであることが判明。末恐ろしいライバルの誕生である。
■『おいしい給食』のために10kg減量! その意外な理由は
昨年出演した大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合)では、鍛え上げた上半身を披露して話題を呼んだ市原。
「僕にとってのトレーニングは、筋肉をつけたいという考えではないんです。20代の頃、プレッシャーで吐いてしまったりとか、まったく眠れなかったりする日々が続いていたんですが、トレーニングをすることが精神的な支えになっていって、今はそういうこともなくなりました。なのでトレーニングは体を作るということよりも、僕自身の精神を保つための行為だといえるかもしれません」。
そんな日々トレーニングを欠かさない市原だが、役によっては体型を変えなければいけないこともある。そのあたりについては「もちろん太らなければいけない役なら喜んで太ります」ときっぱり。一方、「実は今回の甘利田を演じるにあたっては、10kg落としました」と驚きの告白が。それは、撮影で給食をたくさん食べなければいけないから…?
「いえ、普段のトレーニングでちょっとパンプアップしすぎていて…。数学教師の役ですから、あんまり体が大きいと笑えないなと思いまして(笑)。なので体重をしっかり落としてから撮影に入りました」。
まさかの鍛えすぎて笑えないシルエットになっていたから、という意外な理由だった。
そんなシーズン3は、北の地・函館が舞台。新たに赴任する中学校の校訓は、甘利田にぴったりの「無我夢中」だ。これは俳優・市原隼人を象徴している言葉にも思える。
「俳優、そしてトレーニングもそうですが、バイクだったり料理だったり、好きになったらどんどんその世界に入り込んでいきたいんです。遊んできなさいって言われたら、帰れと言われるまで日が沈んでも遊んでいるような子どもでしたから、今でもずっとそうなんだと思います」と少年のような笑顔を見せた。
■『ROOKIES』初放送から15周年 市原隼人の俳優としての現在地
今年は市原が大きくブレイクしたドラマ『ROOKIES』(TBS)の初放送から15周年。「そうなんですね」と微笑む市原に、これまでの俳優としての転機を聞くと、「例えば会社でも、上司が違えばやり方も全く違ってくる。作品もそれと同じで、それぞれやり方は全く違いますし、正解も変わってくる。転機といえば全部の作品がそうだといえるのかもしれません」と述懐。
その上で、自身の転機について熱のこもった声で続ける。「僕にとっての一番の転機は作品ではなく、応援してくれる方の声をいただいた時です。若い頃は目上の方に敬語すら使えませんでした。
「ある日、余命わずかな方が僕の作品を見て笑顔になれたって聞いたんです。目を手術する方がいて、もしかしたら見えなくなってしまうけど、最後に僕の作品を見ることにしてくれた。そんな声を聞いて、僕の考え方はガラッと変わったんです」と振り返る。
「今回の『おいしい給食』でも、学校が嫌いで仕方なかったのに、この作品を見て学校に行こうと思うようになれたという声もいただきました。そんな声を聞いて涙が出るほどうれしかったんです。僕が何のために芝居をして、何のために現場に入るのか。その役者としての根幹は、応援してくださる方のため、その一択なんです」と思いの丈を真剣に吐露する市原。「芝居の中で死にたい、そう思えるようになりました」と語る彼は、いつか本当にそうしてしまうのではないかと思うくらい、現在、芝居に無我夢中で向き合っている様子が全身から伝わってきた。(取材・文:稲生D 写真:松林満美)
ドラマ『おいしい給食 season3』は、テレビ神奈川、TOKYO MX、BS12 トゥエルビ、TVerほかにて10月より順次放送スタート。