市原隼人が、文字通り異常なまでの給食愛を見せる中学教師・甘利田幸男を演じて大好評を博しているシリーズの第3弾、『おいしい給食 season3』(BS12 トゥエルビほか)が10月より順次スタートする。新シリーズは、本州を飛び出し、北海道・函館が舞台だ。

放送を前に、『season1』から市原にオフィシャル取材し、函館ロケを含めた撮影を目の前で目撃した記者が、俳優・市原隼人のスゴさを改めて伝える!

【写真】真剣な表情でモニターを見つめる市原隼人

◆『おいしい給食』は近年の市原隼人のパワーを加速させた

 2019年より始まった同シリーズは、市原隼人のイメージを一新した。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合ほか)、ドラマ『正直不動産』(NHK総合ほか)『風間公親‐教場0‐』第1話(フジテレビ系)、『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ系)と、このところ市原のパワーが加速度的に高まっているのは明白だが、それは『おいしい給食』という当たり役と出会えたことも大きい。

 1999年に芸能活動を開始した市原は、デビュー映画『リリイ・シュシュのすべて』(2001)で早くもブレイク。繊細な少年の顔を印象付けたが、その後は『チェケラッチョ!!』、『ぼくたちと駐在さんたちの700日戦争』、「ROOKIES」シリーズなどで、いわゆる硬派でやんちゃで真っすぐなイメージを作り上げていった。

 そんな従来の魅力を残したままに、いい塩梅に歳を重ね始めたタイミングでコメディ要素を一気に投入し、全体の魅力をグンと引き上げてみせたのが『おいしい給食』の中学教師・甘利田幸男役である。そして現場で目撃した市原の人となりは、作品に誠実に向き合うイメージ通り、いや、それ以上のスゴイ人だった。


◆役と向き合う“生真面目さ”が、食と向き合う甘利田そのもの

 現場での市原は、甘利田同様、ビシっとした姿勢の良さが目を引く。同時に「あ、今日は取材ですか。ありがとうございます」と柔らかな笑顔が印象的だ。

 実直に給食と向き合い、実は生徒とも向き合っている甘利田の姿は、『season1』から人気となり、劇場版、そしてシリーズ化されていったが、市原はそこに甘んじることなく、新シリーズ制作が決まっても、「いまの自分にできるだろうか」とまず逡巡したという。体力的にも精神的にも全力を捧げている甘利田幸男という役。それをまた新たにできるだろうかと。


 本作は、目の前の給食をどれだけおいしく食べるか、日々、真剣に向き合う教師を見つめた“コメディ”だが、どれだけ熱量を要する作品かは、一度見れば一目瞭然。人気があるのだからこれまで通りにやればいいなどと、ぬるま湯に浸かろうとしない市原の覚悟が伝わる。

 彼のストイックさがよく分かる日があった。詳細は見てのお楽しみだが、函館「忍川中学校」での生徒たちの登校シーン。新たなライバルとなる生徒・粒來ケン(田澤泰粋)を門で迎える、ある朝のシーンが撮影された。そこで、甘利田が全身を使ったある動きを見せたのだが、その動きは市原に一任された。


 これまでにも、机上でのあまりに美しい“背筋ピーンのばし” など、もともと器械体操をやっていた市原ならではの身体能力の高さを活かしたショットが、本シリーズには随所に登場してきたが、午後の一連の撮影に向けて、市原は朝からずっと準備を繰り返していた。それどころか、聞けば、前日の夜も、「どういった動きにすればいいだろう」とずっと悩んでいたと言う。傍から見れば笑える動きのため、生徒役の子役たちも最初は普通に笑っていた。

 しかし朝からひたすら、とにかくひたすら、撮影の合間、合間に動きを試し続ける市原の姿を前に、子どもたちも笑うどころではなくなってくる。次第に「役と、芝居と向き合うとは」との真理が伝わってくるかのよう。図らずも甘利田と給食そのものから、自然と生徒たちが何かを教えられる姿に重なるのだった。


◆シーズンを重ねたスタッフとの絆が伝わる現場

 本シリーズはドラマ全10話を一気に撮影するスタイルのため、1日の中でも複数の回が混ざって撮影されることも多い。当然、市原のセリフが多くを占めるが、市原は脚本をほぼ見ない。先に挙げたように、ひとりストイックに集中していることもある市原だが、そうした姿は限られており、普段はみんなの輪の中にある。さらに『season3』ともなれば、スタッフとの一体感も相当なものだ。

 ふたたび函館にて。移動撮影のためのレールをグラウンドに連結して敷いていった折、率先して動いていたスタッフに目をやると、なんとそれは市原ではないか! 「しゅ、主演俳優が撮影道具のレールを設置している!?」。
あまりのことに目を疑ったが、ごく自然に溶け込んでいた。『おいしい給食』は『season1』から同じ座組で作られている。『season3』という、できあがった関係性ならではの空気がそこにあった。

 スタッフ陣は変わらないが、キャストは、給食配膳員の文枝さんを演じるいとうまい子以外は一新されている。そのキャストたちとも和気あいあいと笑い合う市原を見ることができた。

 新ヒロインの比留川愛を演じる大原優乃は、彼女が現場に来るだけで、パッと空気が華やぐ。
とても明るい人柄で大原のキュートさに思わず市原からも笑いが漏れる。また、甘利田を一方的にライバル視する体育教師として登場する木戸四郎役の栄信も、これまでにいなかったタイプ。その演技を綾部真弥監督と一緒にモニターで見ていた市原は、大きな身体を使った芝居に大笑い。監督から「OK!」の声がかかると、「面白かった~!」と市原から声をかけにいっていた。

◆衝撃! 熱量を凝縮したモノローグ&全力投球の実食シーン

 そして忘れちゃいけないのが、給食の実食シーン。市原の甘利田を当たり役にしたのは、ユニークな身振り手振りだけでなく、非常に聞き取りやすいモノローグ(心の声)のすばらしさも大きい。給食を食べている最中の甘利田の心の声は、撮影日に、まずは給食シーンの段取りを行いある程度の動きを決めてから、隣の教室で一気にモノローグを録音する。閉め切られた教室の中は、市原がひとりで繰り広げる凄まじい熱量の舞台のようだった!

 この熱を凝縮した“声”を流しながら、続けて実食シーンを撮影していく。本編を見れば分かる通り、細かくカットを切っての撮影でも、給食の一部だけを食べて終わらせるわけでもなく、モノローグの演技に合わせて、市原は給食を一食分がっつり食べていく。それも数回にわたって。しばしば市原は本シリーズの撮影を「これまで演じてきた役の中でもっともキツイ役」と語っているが、それに偽りナシとよく分かる。

 甘利田役に全力投球の市原。となれば、カットがかかったら瞬間に脱力しても良さそうなものだが、それも一切ない。疲れた顔を片時も見せないのだ。そこにも理由がある。生徒役の子役たちと同じく、10代の頃から芸能界に身を置いていた市原は、子どもたちに、とにかく現場を好きになって欲しいとずっと語ってきた。

 本シリーズのクランクインの際は、市原が皆の前で“心構え”のあいさつをするのが恒例となっている。撮影期間中は、市原が自身の一眼レフカメラで生徒ひとりひとりにレンズを向け、写真を撮影している姿も見慣れた風景となった。そして、クランクアップの際には、ひとりひとりに声をかけながら“卒業証書”を渡す。作品を包んでいるこうした愛情も、知らずと画面を通じて伝わってくるのかもしれない。甘利田を演じる市原は、ストイックだけではない愛を持ったスゴイ男だった。(取材・文:望月ふみ)

 ドラマ『おいしい給食 season3』は、テレビ神奈川、TOKYO MX、BS12 トゥエルビ、TVerほかにて10月より順次放送スタート。