水川あさみが、石橋義正監督の約10年ぶりとなる最新作『唄う六人の女』で、セリフを一言も発しない謎の女役にトライ。また新たな境地を開いている。

放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』の母親役も注目を集めるなど、年齢を重ねるごとにその輝きは増すばかり。「年齢を重ねるごとに、パワーがみなぎっている感じがして。すごく元気!」と大きな笑顔を見せる水川が、40代に足を踏み入れた心境や、「恥をかいていきたい」という今後の率直な希望までを語った。

【写真】やわらかく優しい笑顔が美しい! 水川あさみ、撮り下ろしショット

◆セリフなしの謎の女 新たな挑戦に「ものすごく面白かった」と充実感

 本作は、異例のマネキン主演ドラマ『オー!マイキー』や、山田孝之の七変化が話題を呼んだ『ミロクローゼ』など独特の世界観を持つ石橋監督の最新作となるサスペンススリラー。人里離れた森の奥深くに迷い込んだ二人の男が、その森に暮らす六人の女たちと出会い、壮大な真実に辿り着くまでを描く。主演の竹野内豊と山田孝之が演じる二人の男が出会う女たちは、彼らが何を聞いても一切答えず、奇妙な振る舞いを続ける。水川は、彼らのことを小枝で突いたり叩いたりする、“刺す女”と名付けられた役柄を演じた。

 六人の女たちが何も話さないからこそ、観客はあらゆる想像力を掻き立てられ、男たちと共に壮大かつ、不思議な世界へと誘われる本作。水川は「台本を読んで、どういう映像になるのかまったく想像ができなくて。未知なる可能性がたくさんある作品なんじゃないかと感じました」と惹かれた理由を吐露。一切セリフがない役についても「とても新鮮な体験をした」と続ける。

 「台本にセリフがないとしても、演じる側としては何かを伝えようとしてしまうものなんですよね。
例えば竹野内さん演じる男に何か話しかけられたりすると、どうしても答えてしまいそうになる。でも石橋監督は、女たちは“ただそこに存在する”ということを重視していたので『表情でもリアクションをしないでほしい』と言われていました。おそらく、映画を観る人にとっての余白を残しておきたいという意図だったんだと思います。今回は“何もしてはいけない”ということがテーマになりました。とても面白かったです」と新境地への充実感をにじませる。

◆年齢によって演じる役が変化していくのは「とても面白いこと」

 森に迷い込む中で人間のエゴを剥き出しにしていく男・宇和島に扮したのは、山田孝之。水川と山田は、2002年放送のドラマ『ロング・ラブレター~漂流教室~』で初共演して以来、20年以上にわたって親交を深めている。

 劇中では宇和島が“刺す女”をビンタする場面もあるが、水川は「孝之とは同い年で、長年の友だちですが、こうしてガッツリと芝居をするのはかなり久しぶりのこと」としみじみ。「宇和島は悪いエネルギーを満たしているような役なので、自分を追い込みながら役を作り出していく孝之のパワーや気合いを、ものすごく感じられる役だったと思います。すごく集中していましたね」と山田の発する狂気に感服する。

 同世代に山田がいることは、「とてもありがたいこと」だという水川。山田が発起人となっている短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS』では、山田の声がけによって、短編映画『おとこのことを』で監督デビューを果たしたこともある。
水川は「監督をやるなんて、自分でもまったく想像していませんでした。孝之ではない人に誘われていたとしたら、断っていたかもしれません。同世代であり、お互いに新しいことをやっていきたいと考えている、切磋琢磨する仲間の一人が誘ってくれたプロジェクトだからこそ挑むことができました」と大いに刺激をくれる存在だと話す。

 仲間と切磋琢磨しながら歩みを進め、水川は今年、40代へと足を踏み入れた。1997年に『劇場版 金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』で俳優デビューした彼女だが、今、俳優業への原動力となっているのは「役を通して、見たことのない自分を見たい」という興味と好奇心だ。「長くこのお仕事を続けていると、年齢によってできる役が出てきたり、できなくなってくる役もあったりと、演じられる役が変容していきます」と切り出し、「年齢を重ねたり、成長していく中で演じる役が変わってくるということは、自分の中でどんなものが芽生えているのか、自分自身の充実度も役に反映されてしまう仕事なんだなと思って。40代に入って、それがやりがいや面白みにつながっていくんだということに気づきました」とにっこり。

 さらに「以前は『これまでに演じたものと似た役は、避けたい』と思う時期もありましたが、似たようなポジションの役だったとしても、同じ役ってひとつもないんですね。最近特に思うのが、いくら似ている役だとしても、それを違う役に見せられる人間力を持つことが大切だということ。それは今後、役者として生きていく上での課題でもあります」と語りつつ、「死ぬまでこのお仕事を続けたとして、いつか『うん』というセリフだけで観ている方を納得させられるお芝居ができるようになったら、ものすごく面白いと思うんです。そのためには、どんな人間力や経験値が必要なのかなと思ったりもします。それを知るためにも、日々成長していきたいなと感じています」と力強く語る。


◆『ブギウギ』は実父も絶賛! 50代に向けて「思い切り失敗したり、恥をかいたりしていきたい」

 『ブギウギ』ではヒロインの母親・ツヤ役を演じて好評を博している。ユーモアを忘れず、愛情や懐の深さをたっぷりとにじませる母親は、まさに水川自身の人間力が注がれているからこそ、厚みのあるキャラクターになっているように感じる。

 水川は「すごく反響をいただいています。私のもとにも、ツヤを応援してくださっているという声が届いていて。うちの父親がわざわざ電話をしてきて、『すごくいいですね』と言ってくれた」と笑いながら、「なかなかそんなことはないので、よかったです」と楽しそうにコメント。脚本を務める足立紳とは、映画『喜劇 愛妻物語』でもタッグを組んでいた。水川は「足立さんの脚本が本当に面白い。ツヤは、彼女の優しさや元気さなどそのすべてが、娘の鈴子に影響しているようなお母さん。“一筋縄ではいかないお母ちゃん”を描かせると、足立さんの本領が余計に発揮されるなと感じています」とツヤに愛情を傾けながら、分析する。

 セリフのない役、母親役、監督業など、次々と新たな扉を開いている水川だが、「パワーがどんどんみなぎっている感じがして。年齢を重ねるごとに元気! うざいかもって思われるくらい、元気なんですよ!」と大きな笑顔。

 では、50代に向けて、どのように過ごしていきたいだろうか? すると「誰かが言っていたんですが、人間は“生まれてから50歳までは、どう生きるかという過程を歩むもの”。
そして“50歳から死ぬまでは、魂を磨く時間だ”という話を聞いたことがあって。それを実践するとしたら、50歳までは思い切り失敗したり、恥をかいたり、できないことはできないと言ったり…。そうやって、素直に生きることを心がけたいです。歳を重ねると恥をかかないように自分をプロテクトしてしまったりするものだけれど、そういうものは脱ぎ捨てて、自分の核となるものを見つけていきたい」と意欲を見せる。

 11月3日からは『リムジン』、2024年には『骨と軽蔑』と、舞台への出演も続く。「私は舞台の経験が少ないんですが、やっぱり舞台ってものすごく大変で!」と苦笑いを見せた水川は、「舞台って自分の表現があまりにも少ないと落ち込んだり、裸で立たされているような気持ちになったりする。『できない! 恥ずかしい!』ということを実感する(笑)。でも、そういうことを大切にしていきたいですね」と50代に向けての意気込みにぴったりの仕事が舞い込んでいる様子。この日も気さくな笑顔でインタビューに応じた彼女からは、おおらかで誠実な人柄がたっぷりと伝わってきた。水川あさみがこれからどのような顔を見せてくれるのか、大いに楽しみだ。

(取材・文:成田おり枝 写真:上野留加)

 映画『唄う六人の女』は全国公開中。

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