和山やまの大人気漫画『カラオケ行こ!』が綾野剛主演、齋藤潤出演で実写映画化された。山下敦弘がメガホンを取り、脚本を野木亜紀子が務める本作で二人は、歌が上手くなりたいヤクザ・狂児と真面目だけど毒舌な中学生・聡実の“奇妙な友情”を描き出す。

取材当日、ハグを交わして久々の再会を喜んだ二人。出会いや撮影中のエピソードなどを、作中同様、バディ感たっぷりに語ってくれた。

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◆オーディションに立ち会った綾野剛 齋藤潤の合格を見守る

――齋藤さんは今回、オーディションで選ばれたそうですね。綾野さんは、そのオーディションに立ち会われたとか。

綾野:監督と野木さんに呼んでいただいて、最終選考に参加させていただきました。一緒に戦っていく方々の姿を見ることで、山下組と狂児を生きる上で大切なひと時になるのではないかという想いもありました。一生懸命覚えてきたセリフを自分のものにして、美術や衣装も何も無い空間で、真摯にお芝居に向き合われる姿勢にただただ感動し、彼らのお芝居に惹きつけられました。本当にまっさらで眩しかったです。ものづくりの原点に触れさせていただき、僕も彼と同じような気持ちで改めてこの作品に臨もうと、原点回帰できた瞬間でもありました。

――齋藤さんは綾野さんと初めて会った時はどんな印象がありましたか?

齋藤:僕は、オーディションを受ける前に『オールドルーキー』や『アバランチ』を拝見していましたし、今回、主演が綾野剛さんだとお聞きしていたのですが、最終審査の会場にいらっしゃるとは思っていなくて。なので、本当に「新町さん(『オールドルーキー』で綾野が演じた役名)だ! 羽生さん(『アバランチ』で綾野が演じた役名)だ!」と(笑)。

オーディション会場は広いスタジオだったのですが、そこに監督や野木さん、剛さん、プロデューサーさんとたくさんの方がいらっしゃっていましたし、頭が真っ白になりセリフが飛んでしまったので、自信もあまりなかったのですが、1次審査の時よりは、最終審査に向けて成長した自分を見せられたらいいなと思って臨みました。
1人で何回もカラオケに通いオーディションに臨んだので、選んでいただいた時はものすごくうれしかったです。でもそれと同時に、今まで感じたことのないような責任も感じました。

――それぞれの役を演じるにあたって、どんな準備をしましたか? 演じる上で気をつけたことがありましたら教えてください。

齋藤:僕は聡実と共通点もいろいろとあったので、自分と重ね合わせながら演じていきたいと思っていました。作品の中で聡実が1番多くのキャラクターと関わりますし、思春期で感情がぐちゃぐちゃになるシーンもあったので、丁寧に考えてお芝居をしたいと思い、人との関係性や距離感を繊細に演じようと。

――ご自身との共通点はどういったところに感じていらっしゃったのですか?

齋藤:聡実は合唱部の部長で、変声期で声が出ないことに責任を感じていますが、僕はこの映画の主人公を務めさせていただくという責任がある。聡実と狂児が主軸となってこのお話は回っていきますが、その1人を僕が任されているというプレッシャーや覚悟とリンクするものがありました。

◆「狂児と聡実は“エモい関係”」(齋藤) 「エモい関係! ぜひそれでお願いします」(綾野)

――綾野さんは今回の役作りについていかがですか?

綾野:聡実の成長、言い換えれば齋藤潤くんの成長が、この作品にとても大きな影響を与えてくれると考えていました。それは、監督を含め、現場全体が同じように考えていて、彼の魅力を映し出そう、描こうという想いが集結した現場でした。聡実=齋藤潤くんの心の動きが明確になるような環境や芝居を大切にしていました。

――撮影のための準備もかなりされたのですか?

綾野:クランクイン前に、かなりリハーサルも重ねました。でも、それは完成させていくためのものではありません。
今回は、「いかに完成させずに成立させられるか」を考えた芝居でした。通常は、僕たちはセリフが入った状態で、自分たちの心を通して会話をする。それが(その会話ややりとりが)噛み合うことで、今のはうまくいった、成立したという体感を得る方法もありますが、本作は噛み合ってはいけない。そもそも『初めて会ったヤクザにいきなりカラオケに連れてこられた中学生』という状況で、両者の会話が嚙み合うはずがないのです。芝居的に噛み合ってはいけないから、不自然に間(ま)が空いたりする。そのどこまでも噛み合っていないところが、お麩みたいな。

――「お麩」ですか?

綾野:お麩って、初めは固くてお湯に入れるとほわっと(膨張)変化しますよね。そんな掴みどころがなく繊細な関係性を、この映画の中の狂児と聡実は、維持し続けなくてはいけません。でも、お麩も水分を吸い切った先にある形は、間違いなく元の形よりも大きく、柔らかくなっています。それがこの作品のたおやかさにつながっている気がします。

青春って、美しいばかりでなく、やや鋭利で、甘酸っぱいものだと思います。どちらかというと苦しくて残酷なことの方がストーリーテリングしやすく描かれますが、本作にはただひたすら温かくてたおやかな青春がある。
狂児の存在を薄くし、他のキャストもフラットにいることで、聡実の感情がどのように動いているかだけが明確になる。山下監督が率先してそれだけを描くことを選択し、僕たちも共感し作っていきました。

――なるほど。齋藤さんは、現場で綾野さんに演技について相談することはあったのですか? 現場でどのようなことを感じていたのかも教えてください。

齋藤:お芝居については不安しかなかったですね。ちょうど1年前に撮影したのですが、お芝居の経験があまりなかったですし、知識もなくて、ただただ無我夢中でした。今、剛さんが噛み合う、噛み合わないというお話をされていましたが、僕はまだ正解が何も分からないので、とりあえず一生懸命やってみて、噛み合った時に「あ、今のいい」と思う。でも後から考えると、何か違うと思ったりして…。リハーサルもやっていたのですが、先が見えなくなってしまって、心が折れたことがありました。

綾野:僕は(齋藤が)心が折れたとは感じなかったです。階段を1つ1つ確実に上っているのだと感じました。

――それは、どんな状況だったんですか?

齋藤:自分で何をやっているのか分からなくなってしまって、監督からのアドバイスの通りやってみてもどんどん分からなくなってしまって…。
腑に落ちなくて、ダメかもしれないと思ってしまったことがあったんです。そんな時に、剛さんはずっと側にいてくださって、役者としてのモチベーションの保ち方など、いろいろなアドバイスを下さって、そのおかげで目の前にやるべきことが見えました。

――その時、綾野さんからどんな言葉をかけられたのですか?

綾野:そんな大したことではないですよ。「ちょっと外に風にあたりに行く?」くらいです。「ちょっと散歩しようか」って。でも、冬だったので、外に出たら「ごめん、寒かったね」って。噛み合わない演出を求められ、不安にさせてしまったかもしれないけれど、彼はあらゆることから一度も目を背けなかった。だから、僕から特別な事はすでに必要ではありませんでした。

――では、劇中での狂児と聡実の関係性について、お二人はどのように感じていましたか?

綾野:シンプルに優しい関係。これに尽きます。立場や職業、年齢など関係なしに対等で、フラット。「ありがとう」も「さよなら」も言えるすごく素敵な関係だと思います。


齋藤:本当にその通りだと思います。気持ちが温かくなる二人で、きっと観て下さった方にもそう思っていただけるんじゃないかなと思いました。すごくエモい関係です。

綾野:エモい関係! ぜひそれでお願いします。

◆齋藤潤出演ドラマを全部観ている綾野剛「同じチームの仲間を声を出して応援する感覚」

――こうしてインタビューをしていても、綾野さんが齋藤さんをフォローしたり、声をかけている姿に人間的な優しさを感じますが、齋藤さんは撮影を通して綾野さんに対してどんな思いがありましたか?

齋藤:会うと毎回、ハグをしてくださいますし、お芝居をした後も、「よかったよ」と言ってくださるので、僕はそうした一言で疲れが吹き飛んでいました。すごく幸せな時間でした。

綾野:どうしても撮影中は噛み合わない芝居になるので、撮影外では自分たちのパーソナルや、体温を感じられる距離感が大切だと思いました。お芝居は時に孤独です。ただ、一緒の船に乗っているので、「一緒に漕ぐよ」ということを伝えようとした時に、僕には包み込むことしかできなかった。その気持ちがハグとして表れました。

――綾野さんから見て、齋藤さんはどのような印象ですか? 弟みたいな感覚でしょうか?

綾野:弟みたいな目線で見ているということではないです。1人の役者として尊敬しています。
年齢は離れていますが、1人の役者として、今後も注目し続けますし、お互い成長した姿でまた共演したいです。ドラマに潤くんが出ていると観てしまうんです。

齋藤:本当ですか!?

綾野:同じチームの仲間を声を出して応援する感覚で観ています。

齋藤:照れますね、そういっていただけると。

――ありがとうございました! 最後に、2023年を振り返っていただき、どんな1年でしたか? また、2024年の目標も教えてください。

齋藤:2023年は、この作品の撮影が終わってからも、さまざまな作品に携わらせていただき、いろんな役と出会わせていただいて、自分の幅を広げることができたと思います。新たな作品でたくさんの方と出会い、人とのつながりを感じました。2024年も引き続き、まだ演じたことのない役柄も演じていきたいですし、いろいろなものに挑戦してみたいです。この『カラオケ行こ!』という作品と、聡実を演じた時の自分を超えられるような役者になるために頑張っていきたいと思っています。剛さんと、またお芝居できるように頑張ります。

――綾野さんは、昨年は俳優デビュー20年の節目の年でもあったと思いますが。

綾野:20年はただの数字とも捉えられますが、その20年分の感謝ができるきっかけであると自負しております。役者を続けていくということは、当たり前ではないですし、自分1人ではできないものですから。そういった意味でも感謝の連続です。昨年は、この何十年チャレンジする為に静かに積み立ててきたものが、たくさん動き出した1年でした。2024年は『カラオケ行こ!』が公開します。また何十年と鍛錬してきたものが、やっと形となって表現できる作品がこの先も公開していきますので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。それから、潤くんと早くまたご一緒したいです。お互いにいい成長を遂げて、また違う作品で0から一緒に作っていきましょう。

(取材・文:嶋田真己 写真:高野広美)

  映画『カラオケ行こ!』は、全国公開中。

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