クリエイターの発掘・育成を行う短編映画制作プロジェクト「ミラーライアーフィルムズ」の最新シーズン公開にあわせ、ドコモの映像配信サービスLemino(旧dTV)内に「ミラーライアーフィルムズ」チャンネルが開設。“毎週金曜は、ミラーライアーフィルムズ短編映画の日。

”として、Season1~Season4、Season5以降の新作・オリジナル作品・関連作品などが毎週金曜に順次配信される。

【写真】三吉彩花がメガホンをとった『inside you』ポスタービジュアル

 今回、Leminoですでに配信開始されている安藤政信監督『さくら、』、三吉彩花監督『inside you』ほかの4つの作品について、映画ライターによる見どころ紹介コメントが届いた。いずれの作品も全て無料で視聴することができるので、ライターコメントを読んだ後に本編をチェックしてみてほしい。

■配信作品(1)『INSIDE』(「MIRRORLIAR FILMS Season1」収録作品)

オスカー4部門受賞『哀れなるものたち』監督の原点に向けたラブレターのような『INSIDE』

  漫画家・花田陵による監督デビュー作『INSIDE』は、第96回アカデミー賞で4部門を受賞した『哀れなるものたち』を手掛けたヨルゴス・ランティモス監督の原点的作品に向けたラブレターのような一編だ。

 ランティモス監督の名を世に轟かせた『籠の中の乙女』は、「外は危険だ」という妄執に支配された両親によって外界から隔離されて育つ子供たちの不条理な物語だった。一方、花田監督による『INSIDE』は同じような妄執を題材にしているものの、登場するのは母親(木村多江)と年頃の一人の娘(山中蓮名)。
ストーリーの着想ベースは『籠の中の乙女』に近いが、父親や男性を介入させず、母子の関係性に焦点を当てたことで、「外は危険だ」という妄執は母性の悲しき暴走に置き換えられている。

 上下左右に黒味を置いた、まるで漫画のコマのような閉塞感あるフレームの中に映されるのは、白を基調とした部屋で息を殺すかのように生きる母子の異常な日常。起床時に娘は母の用意したタライで足を洗い、テーブル上にシンメトリーに配置された朝食を母子共に同じ動作で食べる。その姿はさながら奇妙な双生児のよう。これらルーティンが反復するように繰り返されることで、二人の暮らしぶりの異様さが強調される。

 外出のために母は防護服を身にまとい、ガスマスクを装着。
ドアには「お母さん以外が外に出たら死にます」との警告文が貼られている。母という絶対的ルールの中(INSIDE)で生きる娘は言葉を発することなく、自分の中に赤い血が流れていることも理解していない。まるで子宮の中に丸まって眠る胎児のように。

 しかし母から解錠を禁じられているドアの外から、誰かが奏でるメロディを耳にして以降、娘の中には好奇心という名の自我が芽生える。それはINSIDEの崩壊の始まり。シンメトリーな食事は娘の一方的な動作によって崩れ、食後毎に与えられていた謎の飲み薬にも疑問を抱き始める。


 INSIDEに押し込もうと狂ったようにわめく母を振りほどき、娘はついに禁じられたドアに手を伸ばす。果たして彼女が開いたドアの外には、母の言う通りの死の世界が口を開けているのか?それとも?(文:石井隼人)

・作品情報&配信情報

 物心ついてから一度も外に出たことのない少女。「外は危険だ」と母は言うが、ある日玄関の向こうから聴こえた「音」。その<ほころび>が、少女のINSIDEを動かし始める。
監督・脚本:花田陵 出演:山中蓮名、木村多江 / 時間:16分

■配信作品(2)『さくら、』(「MIRRORLIAR FILMS Season1」収録作品)

“映画監督”安藤政信の処女作『さくら、』にダイレクトに反映された、映画を信じる力と人生観

 処女作には、作り手たる人間の最もプリミティブな魂が刻印されるという。盟友・山田孝之からのオファーに応えて俳優の安藤政信が映画監督デビューした『さくら、』にもそれは当てはまりそうだ。


 山田、安藤、その二人の男の間で揺れ動くファムファタルを森川葵が演じているのだが、その関係性はいわくありげに仄めかされる程度。明解な説明を排する代わりに食欲と性欲を象徴的に表した映像を積み重ね、誰しもが到達する死に至るまでの不毛な愛と苦悩を炙り出していく。観客一人一人の判断と解釈にゆだねる作りを映画監督デビュー作で手掛けてしまうその裏には、安藤監督自身の映画に対する絶大な信頼も透けて見える。

  俳優活動だけに留まらず、フォトグラファーとしての才も発揮している安藤監督だけに画作りにも個性が滲む。安藤監督の美意識の血肉である浮世絵や日本画、ファッションデザイナーから受けた影響をインスパイアのレイヤーとして重ね、光、影、原色を基調にした映像をフィックス多用で切り取った。撮影監督を安藤監督が「写真の兄貴」と慕う写真家・田島一成に託した事実からも、その狙いは窺い知れる。


 まるで静止画の連なりのようなショットの中で、感情を爆発させて“動”を表した森川の凄まじい熱演にも注目。安藤監督の愁いを帯びたような眼差から人々の営み、すなわち人生はどのように捉えられているのか?『さくら、』は安藤監督の持つ人生観がダイレクトに反映されたアートムービーだ。(文:石井隼人)

・作品情報&配信情報

 主人公は、友人Aの恋人と秘密の逢瀬を重ねていた。だが友人Aが突然亡くなる。順調に思われていた3人の友情は、友人Aの死を引き金に次第に歪んでいく。
監督:安藤政信 脚本:木舩理紗子 出演:山田孝之、森川葵、安藤政信 / 時間:16分

■配信作品(3) 『無題』(「MIRRORLIAR FILMS Season1」収録作品)

映画監督が社会の複雑な構造を自身への問いとして落とし込んだ『無題』

 本当に社会問題に興味があるのか、それとも好奇心か、それとも自分の仕事に役立つからか。
映画の主人公は、映画監督という職業に就いていて、日々、題材を探しており、偶然、ホームレスの少女と出会います。

 この映画のタイトルが『無題』というのも、もしかしたら劇中でホームレスの少女を主人公にした映画の脚本を書くシーンで、タイトルが綴られたからかもしれません。もしくは映画監督の女性の思いこそが、ラストショットそのものであり、自分自身の本心がまだ明確ではないことを意味しているのかもしれません。

 中盤の作品完成後の宣伝会議のシーン、「監督が言っているようなポスターではお客さんは呼べません」というセリフがあります。最初は純粋に被写体となる少女と向き合っているつもりでも、人がどんどん関わればそれぞれの立場のせいで本筋から外れていってしまう。

 そんな社会の複雑な構造を自身への問いとして短編に落とし込んだ藤原知之監督。カメラは時にこっそり覗くように少女を捉えるのですが、それ自体が私達人間の好奇心を象徴しているのかもしれず。そう考えると奥村心結演じる少女が論破するシーンは、実は私達に向けられている気がしてなりません。(文:伊藤さとり 映画パーソナリティ)

・作品情報&配信情報

ある日出会ったホームレスの少女を主人公に、映画を撮り始める若手監督イツキ。しかしイツキはそのことで、ずっと気づかない振りをしていた歪んだ現実を突きつけられることになる。
監督・脚本:藤原知之 出演:仁村紗和、奥村心結 / 時間:16分

■配信作品(4) 『inside you』(「MIRRORLIAR FILMS Season1」収録作品)

『inside you』三吉彩花監督の洗練された演出は人の成長を色合いで象徴する

  俳優・三吉彩花が監督に挑戦。それが驚くほど洗練されていて、画の力を信じたショットの数々から紡がれた作品であったことが衝撃であり、つい見惚れる美しさから視覚の刺激へと移り変わり、彼女の美的センスを再確認することに。よくヨーロッパの映画祭で重要視されることとして「社会問題」とは別に「登場人物のファッション」が上がるのです。それを踏まえると、三吉監督がインタビューで、ヨーロッパ映画が好きだと言っていたことに納得します。

  まさに視覚の情報から生み出された本作は、セリフに頼らない感情表現。ひとりの少女が、思考の中で問う「自分は何者になりたかったのか」を既存の色に捉われず、水の色もより濃密な色に変えてしまう自由さはアート映画のよう。特に無垢な感情を純白に喩え、それを打ち抜く赤は、情熱を表すという描写は、映画は語るものではなく、表現するものだと信じた演出ならでは。短編だから伝えられることとしてアイテムを用い、冒頭のカメラが後半では一眼レフに変化したり、山口まゆ演じる主人公が、白ベースの服装からやがて様々な色が混じり合ったワンピースへと変わるのも、人の成長を色合いで象徴していると読み取れます。(文:伊藤さとり 映画パーソナリティ)

・作品情報&配信情報

自分のしたいことが分からない主人公。「幼い頃、何を夢見ていたのか?」と自問自答する彼女は、移動中のバスの中から、河川敷でクラシックバレエを踊る女性の姿を見つける。
監督:三吉彩花 脚本:相羽咲良 出演:山口まゆ、飯島望未 / 時間:13分

【配信概要】
『毎週金曜は、ミラーライアーフィルムズ短編映画の日。』として、ドコモの映像配信サービスLemino 「ミラーライアーフィルムズ」チャンネルから、Season1~Season4、Season5 以降の新作・オリジナル作品・関連作品などが順次配信される予定。

【「ミラーライアーフィルムズ」概要】
ミラーライアーフィルムズは、映画プロデューサーの伊藤主税、俳優の阿部進之介、山田孝之らがプロデュースする、クリエイターの発掘・育成を行う短編映画制作プロジェクト。2021~22年公開のSeason1~4では公募作品を含む、俳優、映画監督、漫画家、ミュージシャンなどが監督した36本の短編映画を発表した。短編映画だから、短編映画ならば挑戦してみたいと、映画未経験者や普段映画に関わらない異なるバックグラウンドのクリエイターが集まり、新しい視点やアイデアが生まれる場となっている。

Season1~4 参加監督(五十音順)
Azumi Hasegawa/阿部進之介/安藤政信/井樫彩/池田エライザ/枝優花/GAZEBO/紀里谷和明/Ken Shinozaki/駒谷揚/齊藤工/志尊淳/柴咲コウ/柴田有麿/武正晴/西遼太郎/野﨑浩貴/花田陵/林隆行/針生悠伺/福永壮志/藤井道人/藤原知之/真壁勇樹/松居大悟/三島有紀子/水川あさみ/三吉彩花/村岡哲至/村上リ子/ムロツヨシ/山下敦弘/山田佳奈/山田孝之/李闘士男/渡辺大知

2024年5月31日劇場公開となるSeason5には、竹中直人、大橋裕之、榊原有佑、ピウス・マチュルスキス、巖川虎太郎、十川雅司、Season6には小栗旬、浅野忠信、Season7には加藤浩次、加藤シゲアキの参加が決定した。