人気漫画の実写化が原作ファンに受け入れられた好例の一つ、映画『キングダム』シリーズ。中でも最も人気のあるキャラの一人で、実写化が難しいと思われた王騎が高い評価を受けたことは、映画を大ヒットに導いた要因の一つだろう。
12日公開の『キングダム 大将軍の帰還』は、そんな王騎を物語の軸に据えた物語となっている。そこで今回、王騎役の大沢たかおにインタビューを行い、王騎として過ごした8年を振り返ってもらった。
【動画】8年間の重みを感じるインタビューに 大沢たかお、『キングダム』を語る
■命がけの重量級の戦いは「犠牲も必要」という覚悟で
――『キングダム』(2019)から準備期間を含めて8年が経ち、シリーズ第4弾『キングダム 大将軍の帰還』ご出演にあたり、緊張感やプレッシャーはいかがでしたか。
大沢たかお(以下、大沢):今回の『キングダム 大将軍の帰還』はある意味集大成というか、1つの区切りになる作品で。僕だけじゃなく、他のキャスト、スタッフにも共通して「すごいものにしてやる」という情熱や鬼気迫るものが現場に常にあった気がします。
――今回の見どころは、特にホウ煖(吉川晃司)との「矛と矛」の戦い。日本のアクション映画ではあまり見ることのない重量級の戦いでしたが、どのように稽古されたのでしょうか。
大沢:「練習」がかなり必要になるので、1人でも、吉川さんとも一緒にしましたし、撮影現場でもやりました。日本ではああいう大型な戦いはなかなかないので、アクション監督の下村勇二さんが殺陣にかなり工夫を凝らしてくれていて、僕が練習を始めた時には、完成されたアクションシーンの世界観のイメージができていました。
――ホウ煖との戦いはどのくらいの時間をかけて撮影されたのですか。
大沢:ホウ煖とのシーンだけでも5~6日間、朝から晩までぶっ通しでやっているんですよ。1個1個のシーンをみんながこだわり抜いているし、自分の中でも過去に経験のない強烈なアクションシーンになったなと思います。
――あれだけ大きな重い矛を振り回して、激しく長時間のアクションをするシーンは、これまでなかった気がします。どんなものを使って稽古したのですか。
大沢:疑似の矛を使うんですが、どんどん壊しちゃうので、何本も用意しているんですね。また、刃の見え方がどうかによって、重さを変えるので、何種類もあるんですよ。軽く見えてはいけないし、かといって重く見せるには限界がある。実際に矛の重さは結構ありますし、刃がカメラの前に近づく時は先端だけで20kgぐらいあるものを使っています。
――重さに耐えるためのトレーニングもあったのでしょうか。
大沢:稽古の段階では、動きに慣れるよう、最初は軽いものから始めて、だんだん重くしていきました。あれだけの長さの矛を使って1対1で戦うので、振るとその重みで、矛が止まらないんですね。当然お互いの体に当たりますが、怖がっていてもしょうがない。本物の武器じゃないけど、それでもあざはできるし、かなり痛いですよね。それに、クライマックスのようなシーンが続く中で、最後のクライマックスのシーンでは、僕も吉川さんも痛みが積み重なってきていて、そうしたリアルな痛みも作品の中にそのまま投影されています。
現場はケガだらけ、治療する人たちも常にいたけど、それが迫力になるし、本当の命がけの重量級の戦いを日本のエンターテインメントで見せるためには、それなりの犠牲も必要だという覚悟でやっていました。
――本作は王騎の人間味ある部分や背景も描かれています。その中で、信(山崎賢人)との関係性も深掘りされますが、王騎は信をどう見ていると思いましたか。
大沢:信は王騎の姿を見て、勝手に成長していくと思うんですね。王騎には、信に何かを教えてやろうなんて気はさらさらないと思う。王騎はそんなに優しい人ではないですよ(笑)。
――王騎そのものの言葉に聞こえました…。8年にわたって王騎を演じることは、肉体的にも精神的にもかなり大変だったのではないかと思います。
■『キングダム』は俳優としても人生でも「特別な作品」
大沢:むしろこういうお仕事をもらえたことに感謝しているし、やるからには自分の俳優としての誇りをかけたいと思っていました。特に僕は2017年から準備を始めたので、8年間1つの仕事をぶっ通しでやってきたわけなんですね。自分の俳優のキャリアとしても、人生のキャリアとしても特別な作品だし、自分の限界以上のところで戦わないと、そういう誇りを持てる作品にはならないと思い、ずっと必死でした。
――原作ファンの想像を超える「王騎」が評判になったからこそ、映画の大ヒットにもつながった気がします。
王騎をつかんだと感じたのはどのあたりからだったのでしょうか。
大沢:つかんだ時はないですね。いつかつかみたいと思いながら、もがき続けた8年間でした。
――原作を読んでいる時点では想像できなかった声・しゃべりが、映画を見て「これが正解なんだ」と思いました。
大沢:正解ってないんですよね。ただ、僕がやったことで、見た人がそういうものだとイメージを断定してしまう責任があるのが厄介で。「正解で良かった」で終われば良いけど、実際にはどうか分からない。だから、日々、現場でどういう選択が良いのか考えながら、やってきました。特に『キングダム』の現場はリハーサルをほとんどやらないんですよ。クライマックスもほとんど1発で合わせて、すぐ本番。10回も20回もやらせてくれたら悔いなく終われるけど、1回でほぼNGなしなんです。佐藤(信介)監督は、多少セリフを間違えてもOKにする監督なので、自分ではベストを尽くしているけど、 正解か不正解かはずっと分からないです。
――リハーサルなく一発でやるからこそ、ああいう王騎になったと思うところもありますか。
大沢:自分ではなんとも言えないけど、他の役者さんやカメラ、照明、もちろん監督含めて、みんなが作ってくれた王騎だと思います。自分の考えた王騎を100倍豊かにしてくれたのはチームだし、他のキャストだと思いますから。
――8年間を振り返ってどんなことを思い出しますか。
大沢:最初は、「漫画の実写で、しかも中国の歴史なんて当たるわけがない」といったノイズが聞こえてきたところからのスタートでした。シリーズなんて考えられなかったし、続編を撮れることになったら、今度はコロナという壁にぶつかり。中国ロケはできず、日本中のいろんな山や川や野原を見つけて撮影に行って、酷暑の中での撮影や、雪が降る中、裸みたいな格好で走ったこともありました。試練がずっと続いた8年で、ここまで辿り着いたのも奇跡だと思います。
――コロナ禍で大量のエキストラを使って撮影されたシーンなど、圧巻でした。
大沢:コロナ禍では本番だけマスクを取って、撮影が終わるとみんなバラバラに帰り、コミュニケーションも取れない状態でした。それでも誰1人めげず、 絶対お客さんに喜んでもらうぞ、1作目より2作目、2作目より3作目へと高めていかなきゃ意味がないと、スタッフキャスト全員が思ってやってきました。ブレずに来られたのは、山崎くんのピュアな思いが土台にあったし、常に上を目指す監督やプロデューサーの思いがあってのことです。
――では、王騎としてずっと共に走り続けてきた大沢たかおという役者に声をかけるとしたら、どんなことを言いますか。
大沢:どうだろう…もっとこうすれば良かった、ああすれば良かったしか思いつかない。やりきった思いもないし、その時々で自分にできること以上のことをやってきたつもりだけど。ただ、この作品を見てくれた人の心のどこかに、大将軍という人が住みついて、何かに苦戦した時、困難に立ち向かい続けるような力になれたら良いなと思います。
※ホウ煖の「ホウ」は「まだれに龍」が正式表記
※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記
(取材・文:田幸和歌子 写真:小川遼)
映画『キングダム 大将軍の帰還』は現在公開中。
編集部おすすめ