1980年代に日本中を席巻した女子プロレスブームの裏側を描くNetflixシリーズ『極悪女王』が、いよいよ9月19日より配信開始となる。異様な熱気に包まれた当時の特別な空気にシビれると共に、女性たちが必死に生きる道を模索していく姿をとらえた、青春ドラマの傑作として完成。
【写真】撮影中も仲良すぎ! さまざまなポーズで魅せてくれたゆりやん&唐田&剛力
◆驚愕の肉体改造「最終的に約40キロ増量しました」
企画・脚本・プロデュースに鈴木おさむ、総監督に白石和彌という強力タッグで贈る本作。「やさしすぎて悪役には向かない」と言われた一人の少女が、クラッシュ・ギャルズとしてスターへと駆け上がる長与千種&ライオネス飛鳥ら仲間たちと戦いながら、いかにして日本史上もっとも有名なヒールであるダンプ松本へと変貌したのか。その知られざる物語を描く。
――プロレスラーとしての体づくりや試合シーンなど、演じる上ではあらゆる苦労や覚悟が必要になった役柄のように感じます。どのような意気込みで、本シリーズに臨まれましたか?
ゆりやん:本来ならば、Netflixの作品で、監督が白石さん、しかも主役のオーディションということで「絶対に掴み取りたい!」と思うはずなんですが、当時の私はちょうど3年をかけて体重を45キロ減らしたところで。健康のことを考えても「どうしよう。できないかもしれない…」とオーディションを受けるかどうか悩んだんですが、筋トレや栄養面でサポートしていただければできるかもしれないと覚悟をして、オーディションに臨みました。受かった時には、「私は絶対にダンプさんになるんだ」と決めました。
唐田:私はお仕事がなかった時期に、当時のマネージャーさんからオーディションの話を聞きました。
剛力:私がこのオーディションのお話をいただいたのは、ちょうど30歳になる年で、さらに独立をした後のタイミングでした。この作品ならば、今まで経験できなかったことに挑戦できるかもしれないと思い、オーディションを受けさせていただきました。白石監督とご一緒したいという思いも強くあったので、いろいろなタイミングが重なった時期に本シリーズに出会えたことに、運命やご縁を感じています。
――プロレスラー役に向けて、具体的にはどのような体づくりをされたのでしょうか。
ゆりやん:私は減量をした頃からお世話になっている岡部友さんについていただいて、トレーニングをしました。毎日筋トレに通いながら、メンテナンスをしつつ、筋力が肥大するようなメニューを組んでいただいて。ただがむしゃらにやるのではなく、「当時のダンプさんはこのあたりの筋肉が大きいから鍛えよう」といった感じで、見た目も近づけるようにしていました。ただ筋トレで体を作るにしても、脂肪をつけたり、体重を増やすためにはやっぱり食べるしかないので…。
唐田:長与千種役に決まったところで、10キロ増量しようというお話になって。撮影の半年前から、剛力さんと一緒に週3回のトレーニング、週2回のプロレス練習をスタートさせました。栄養士さん、トレーナーさん、整体師さんについていただきながら、とにかく私も食べまくりました。「食べることが面倒くさい」と思うことってあるんだ!というくらい、食べて(笑)。私と剛力さんはなかなか太りにくい体質ということもあって、栄養士さんからは「血液検査に悪いものが出ない限りは、まずは好きなものを食べてください」と言われましたよね。
剛力:なんでもいいからってね(笑)。
唐田:私はラーメンが好きなので、ラーメンをたくさん食べました。
剛力:私が好きなものは、野菜やお粥、ササミなど太れないものばかりなんです(笑)。
◆伝説の敗者髪切りデスマッチ! 唐田えりかが坊主に
――もともとプロレスに対しては、どのようなイメージを持たれていましたか。
ゆりやん:私はプロレスについて、まったく詳しくなくて。オーディションに受かってから、当時の資料やダンプさんに関しての本を読んだり、ダンプさんご本人からお話を聞いて、知識をつけていきました。ダンプさんは「最恐レスラー」と言われていますが、もともとは松本香さんというめっちゃかわいくて、めっちゃピュアでまっすぐな女の子なんですね。それが環境や人間関係、そして自分に対してももどかしさを抱いて、ダンプ松本というヒールになっていく。日本中の全員に嫌われてもヒールに徹していったダンプさんに、私は本当の強さ、覚悟、やさしさも感じています。すべてが魅力的で、大好きな方になりました。
唐田:私は小学生の頃に一度、プロレスを観たことがあって。
剛力:私もこの作品に携わらせていただくまでは、ほとんどプロレスを観たことがありませんでした。たまにテレビでやっているのを観ても「怖い、痛そう」という感覚だったんですが、実際に携わらせていただくと、ものすごく奥深い世界だと思いました。相手と闘うということは、お互いの信頼関係や、思い合っている感覚がないと到底できないこと。相手と闘うことのすばらしさ、痛さ、悔しさ、苦しさをたくさんの人に見せていくというのは、お芝居にも通じるものだなと感じて、プロレスの見方がそれまでとはまったく変わりました。
――お三方が挑まれたプロレスシーンの迫力には、本当に驚きました。印象深いプロレスシーンや、お互いの存在が励みになったことがあれば教えてください。
ゆりやん:全部の試合が印象的なんですが、ダンプ松本と長与千種の敗者髪切りデスマッチのシーンにはたくさんの思い出があります。2人は一緒に仲良く過ごしていたのに、次第に心がすれ違ってしまうんですが、えりかちゃんと「ダンプさんと長与さんの関係性を体験するために、私たちも話や挨拶をしないようにした方がいいかな」と話し合って、そこからえりかちゃんと挨拶や話をしなくなったんです。えりかちゃんが誰かと楽しそうに話していると「腹立つ!」と思ったり、私のことを本当に嫌いになっちゃったのかな…と感じたりと、リアルな感覚が生まれてきました。敗者髪切りデスマッチの撮影の前日にリハーサルをしたんですが、そこでもあまり話をせずにやっていたら、なかなかうまくいかなくて。そこでえりかちゃんが「レトリ、ご飯行かない?」と声をかけてくれて、2人でご飯に行きました。久しぶりにえりかちゃんとたくさんしゃべって、そうしたら次の日の敗者髪切りデスマッチのシーンも息ぴったりで、ものすごくうまくいったんだよね。
唐田:本当にそうだったね。
――お芝居のために「距離を置く」という取り組みをしたことで、より密なコミュニケーションが生まれたのですね。
ゆりやん:敗者髪切りデスマッチのシーンは「ここでこう持つよ」「これくらいやるよ」とえりかちゃんとたくさん話し合って、決めていきました。
――唐田さんは、印象的なプロレスシーンや技などはありますか?
唐田:長与さんは蹴りが得意な選手ということもあり、みんなとは別に居残り練習をして、蹴りの特訓をしていました。長与さんの得意技で、ニールキックという技があります。難しい技なので、スタッフの皆さんも実際にできるとは思わず、「代役を立ててやる」という話も出ていたんですが、私は負けず嫌いなので「絶対に自分でニールキックをやりたい」と挑戦させていただきました。みんな本気でプロレスシーンに取り組んだので、そのことによって生まれた印象的な表情もたくさんあります。倒れ込んでしまったライオネス飛鳥の顔、覚醒したダンプ松本に見下ろされた時の顔など、お二人の顔を見ることによって自分でも想像していなかった感情がたくさん湧き出てきました。
剛力:私も同じように感じています。ジャガー横田と戦った時の、「起きろよ!」という千種の目は、私にとって忘れられないものになっていて。「この人はスターだ。輝いている」と鳥肌が立ちました。その時に、飛鳥としては「千種を輝かせるために生きよう」と覚悟が決まって。あの唐ちゃん(唐田)の目には、ものすごい情熱が宿っていたように思います。クライマックスの試合で、ダンプが「来い!」と言った時の顔も忘れられない! 私は2人の闘いをロープ際で見ていることが多かったので、ゆりやんと唐ちゃんのエネルギーは本当にすごいなと驚いていました。私は一番の特等席で、その表情を見られたんです。
◆『極悪女王』がそれぞれの転機に
――お話を伺っていても、皆さんが本シリーズに情熱を注いだことがひしひしと伝わってきます。皆さんにとって、本シリーズで得たものはどのようなものだと感じていますか?
ゆりやん:得たものがありすぎて、逆に『極悪女王』に出会っていなかったら、私はどうなっていたんだろうと思うくらいです。オーディションに受かった当初は「Netflix作品だ! イエーイ!」という感じだったんですよ。でも撮影をしているうちに、自分一人では出せなかった表情や感情をたくさん引き出してもらった。それは人生で初めての体験でした。悲しいシーンだから涙を流そうとか、怒っているシーンだから怖い顔をしようとか、そういうことではなくて、本当の感情が湧き上がってきた。表現の仕方も分からなかったような部分を含め、こんなに自分を思い切りさらけ出すことは、芸人としても人間としても今までできなかったことだなと思っています。
唐田:私もレトリと同じで、この作品に出られていなかったら、どうなっていたんだろうと思うくらい転機となった作品です。やっと胸を張って「代表作です」と言えるものができたかもしれないという、うれしさもあります。お仕事がない時期に、長与役を私に決めてくださった白石監督やスタッフさんにも感謝しています。そしてずっと私に向き合ってくださった事務所の社長やマネージャーさん、家族がいるからこそ、私は頑張れています。その人たちに届けられる作品ができて、本当にうれしいです。
剛力:30代に突入して、皆さんがイメージしていなかった役に挑戦することができました。ここまでやることができたのは、プロフェッショナルな皆さんが全力を注いでいる環境があったからこそ。また私自身、「自分を俯瞰で見ること」を学んだ作品という気もしています。プロレスシーンでは、事前にどうやって動くかを決めてから、リングの上で本気でぶつかり合っています。怪我をするリスクも伴うものです。想像もできない感情が湧き上がってきたとしても、そんな時どこか俯瞰で見ている自分がいて「相手にも怪我をさせない、自分も怪我をしない」ということも大事にしていました。冷静に自分を見つめるという、新しいお芝居の仕方を発見したなと思っています。
――劇中のダンプ松本は、怒りや悔しさを原動力にヒールへと変身を遂げます。皆さんにとって、この時、こんなことをきっかけに新しい自分に変身できたと思うようなご経験があれば教えてください。
ゆりやん:芸人になって1年目くらいの頃、「自分は何を面白いと思って、芸人をやっているのか」とまだよく分からなかった時に、先輩とみんなでご飯に連れて行ってもらったことがあって。そこで“怒られるノリ”みたいな流れになって、わーっと先輩に怒られたんですね。「お前はどう思っているんや」と言われて「ホンマに反省しています」と答えたら、「お前は真面目すぎる」という話になって。そこで「なるほどな。私は真面目すぎるんや」と思ったんです。また『さんまのお笑い向上委員会』に出させていただいた時にも、「全部ホンマのことを言わなくてもいいんだな」ということを学びました(笑)。先輩たちの姿から「お笑いとは」「ボケとは」ということが分かってきて、だんだん今のように自分が「楽しい」と思える動きができるようになりました。
唐田:変身という言葉がぴったりと当てはまるかは分かりませんが、敗者髪切りデスマッチのシーンは、自分にとって大きな経験になりました。見た目が坊主になったということもあるかもしれませんが、自分としての覚悟を表現できたシーンであり、みんなの覚悟が集まってできたシーンでもあったなと感じています。あのシーンを乗り越えたことによって、「この作品が自分の覚悟です」と言えるようになりました。
――ゆりやんさんは、あのシーンで震えと涙が止まらなかったとおっしゃっていました。
唐田:おそらく、私よりもレトリの方が緊張していたと思います。地毛を切ることになるので、一発本番であの流れを撮り切らなければいけないわけですから。本番前に、レトリに「大丈夫だよ!」と声をかけた気がします。私としては、髪がなくなった自分を見て落ち込むこともなく、なんだか笑ってしまいました(笑)。
ゆりやん:頭の形が非常にきれいなんですね。一緒に旅館に泊まっていたんですが、敗者髪切りデスマッチの次の日の朝に浴衣を着たえりかちゃんを見たら、一休さんみたいで(笑)。神々しかったです。
剛力:新しい自分に変身したなと思うのは、5歳の時にダンスに出会ったことです。私はすごく人見知りで、誰かと話すことがとても苦手だったんですが、ダンスに出会った時に「自分の感情を表現できるのはこれだ!」と思いました。また7歳の時には、遊園地で遊んでいる時にスナップ撮影をしていただいたことがありました。そこでカメラマンさんに撮ってもらった記憶があまりに楽しくて忘れられず、母親に「私はモデルになる」と断言して。そこでも「私がやりたいことはこれだ」と明確に思いました。そこからブレずに今に至るので、早いタイミングで好きだと思えることに出会えて、私はラッキーだなと思います。モデルもダンスもお芝居も「好き」という気持ちで、ずっと走り続けています。
(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
Netflixシリーズ『極悪女王』は、Netflixにて9月19日より全5話一挙世界独占配信。