河瀬直美監督の最新作『たしかにあった幻』が、2026年2月に全国公開されることが決定。また、第78回ロカルノ国際映画祭(8月6日~16日)のインターナショナル・コンペティション部門において、クロージング作品として正式招待されることが明らかになった。



【写真】河瀬直美監督最新作は、命の灯を照らす“愛”の物語 映画『たしかにあった幻』場面写真

 本作は、小児臓器移植実施施設を舞台に、命の灯を照らす“愛”の物語。フランスから来日したレシピエント移植コーディネーター・コリーが、脳死ドナーの家族や、臓器提供を待つ少年少女とその家族たちと関わる中で、命の尊さと真摯に向き合っていく。同時に、突然失踪した恋人の行方を追う彼女の姿を通して、愛と喪失、そして希望が描かれる。

 これまで『あん』ではハンセン病を抱える女性、『光』では視力を失っていく男性、『朝が来る』では特別養子縁組の夫婦を取り上げ、社会的偏見や喪失の中で、他者との関係性を通して救われる「愛のかたち」を描いてきた河瀬監督。本作でも、深い人間ドラマを通じて命と愛の意味を問いかける。

 撮影期間は、2024年6月から11月。兵庫、大阪、奈良、岐阜、屋久島、パリとロケーションを転々としながら実施された。小児臓器移植に携わる実際の医療関係者たちが、現在の日本が抱える臓器移植の問題点をディスカッションするシーンや、移植手術シーンなどはドキュメントとして撮影されており、それらをドラマの中に巧みに取り込むことで、作品全体に高いリアリティと臨場感を与えている。

 主人公コリーを演じるのは、ポール・トーマス・アンダーソン監督『ファントム・スレッド』への出演をきっかけに国際的な名声を獲得したヴィッキー・クリープス。臓器移植の現場で命と向き合いながら、失踪した恋人の足跡をたどる姿は忘れることのできない印象を残す。コリーの恋人であり、突然失踪する迅を演じるのは、若手実力派俳優・寛一郎。静謐な演技の中に宿した鋭さに、誰もが心を奪われるだろう。


 河瀬監督は、長編第2作『火垂』で第53回ロカルノ国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。翌年の第54回には『きゃからばあ』がコンペティション部門に招待され、第65回には監督のパーソナル・ドキュメンタリー5作品(『塵』『垂乳女』『きゃからばあ』『かたつもり』『につつまれて』)がオマージュ上映されるなど、ロカルノ映画祭とは深い縁がある。また、河瀬監督がプロデュースしたドキュメンタリー映画『祈-Inori-』は、新鋭監督部門グランプリを受賞。ロカルノは、河瀬監督の才能とまなざしに共鳴し、その国際的評価の礎となってきた地でもある。

 映画『たしかにあった幻』は、2026年2月全国公開。

※河瀬直美監督、ヴィッキー・クリープス、寛一郎のコメント全文は以下の通り。

<コメント全文>

■監督・脚本:河瀬直美

 この度、映画を本当に愛してやまないロカルノ国際映画祭の選考委員の皆様に本年度のコンペ部門のクロージングフィルムに選んでいただきましたことを大変光栄に思います。思い返せば、2000年公開の『火垂』がロカルノで受賞したことは私にとってとても美しい忘れられない想い出です。25年の月日を経て、またロカルノに戻って来れたことに感謝しています。

 新作に寄せたロカルノ映画祭のアーティスティックディレクターのGiona A.Nazzaroさんからのメッセージを以下に記します。

 「水のように、音を立てずに深く掘り下げ沈黙を恐れず、耳を傾ける映画を作ってくれてありがとう」。

■ヴィッキー・クリープス

When I make a movie, I follow an invisible thread - one woven into the larger tapestry of dreams. This particular thread led me deep into the ancient forests of Yakushima and back into the gentle heart of childhood. I walked the delicate line between ghosts and reality, drawn by the mystery of love.

 映画を作るとき、私は目に見えない一本の糸をたどります――夢という大きな織物に織り込まれていく糸です。
今回、糸は、私を屋久島の太古の森の奥深くへと導き、そして幼い頃のやさしい心へと連れ戻してくれました。幽霊と現実のあいだの繊細な境界線を歩きながら、私は愛という謎に引き寄せられていきました。

■寛一郎

 諸行無常。何かこの作品に込められたテーマのような気がしています。この作品は自分にとって挑戦でした。言語、さまざまな自然での撮影、新たな人との出会いで、沢山の学びと、この現場でしか体験できない経験をさせてもらいました。そんな作品がこうしてロカルノ国際映画祭に招待していただいたことを光栄に思います。関わった沢山の人たちの努力が報われる気がします。そしてこの作品が世界の人に見ていただけることに喜びを感じています。

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