ドラマ、映画とさまざまな作品で唯一無二の存在感を放ち、今年デビュー40周年を迎えた斉藤由貴。近年は音楽活動にも積極的に取り組み、40周年記念コンサートツアーも大好評のうちに幕を下ろした。
【写真】デビュー40周年を迎えた斉藤由貴 あふれ出るキュートさは変わらず!
◆京本大我のピュアな歌声は主人公・ガイにぴったり!
原作は2007年に公開されたアイルランド映画『ONCE ダブリンの街角で』。ダブリンという移民の街を舞台に、美しい音楽と共に人生の再生の物語を丁寧に描いた。代表曲「Falling Slowly」は、主人公・ガイとヒロイン・ガールの繊細な心の揺れ動きを見事に表現し、第80回アカデミー賞最優秀歌曲賞を受賞した名曲だ。
2011年に誕生したミュージカル版を稲葉賀恵の演出により初めて日本人キャストで上演する本作には、主人公・ガイに京本大我、ヒロイン・ガールにsara、ほかに小柳友、上口耕平、こがけん、鶴見慎吾ら実力派が集結。斉藤は、ガールの母親でチェコ移民のバルシュカを演じる。
――出演オファーをお聞きになった時のお気持ちはいかがでしたか?
斉藤:舞台そのものがちょっと久しぶりになってしまったので、やっと舞台ができる!と思いました。最近しばらく映像のお仕事が続いて、舞台とご縁がなくなっていたことが自分の中で気になっていたので、すごくうれしかったです。
――作品の印象はいかがでしょう。
斉藤:海外で上演された舞台の映像を拝見したのですが、やっぱり印象に残ったのは「Falling Slowly」というガイのメインテーマ。本当に心に響く素晴らしい曲だなと思いました。
――演じられるバルシュカはどんな女性でしょうか?
斉藤:ものすごく個性的な人です。パンチの効いた役をもらうことが多いんです(笑)。でも、このお話は“ガイとガールの物語”なので、作品として出来上がったときにバルシュカのボリュームはそんなにないと思うんですね。その中でどれくらい自分を出すのが正解なのかなというのはまだ未知数で、こればっかりは演出の稲葉さんに委ねて作品に参加していきたいなと思っています。
――演出の稲葉さんとは初めての顔合わせです。
斉藤:不安が大きいです。なによりセリフを憶えるのが遅いものですから(笑)。演出家にしてみれば、「ちょっと、セリフ憶えてきてよ~」と思われることが多いので。今からドキドキしています。
――ガイを演じられる京本さんにはどんな印象をお持ちですか?
斉藤:舞台で活躍されているという噂は聞いてはいたんですけど、私にとってはピカピカのアイドルのイメージしかなかったので、どんな感じなのかなと思っていたんです。
◆本格初舞台で『レ・ミゼラブル』コゼット役を経験したことがキャリアの助けに
――久しぶりの舞台作品となりますが、斉藤さんの中でミュージカルとストレートプレイでお気持ち的に違いはありますか?
斉藤:ミュージカルのほうが楽しい! ストレートプレイのお芝居は、緊張感で胃が痛くなりますね。
ミュージカルのほうが舞台の持つ趣旨には合っている気がするんですよね。暗闇の中で目の前で出演者が演じ歌ってくれて、幸せな気持ちになってワクワクしながらひと時を過ごし、「あぁ~楽しかった!」と思わせてお客様を帰すことができるじゃないですか。本来舞台ってそういうものじゃないかなって。今は重めの舞台も多いですしテーマによってお客様に預けるものは違いますけど、でも本来舞台ってお客様と舞台上の役者が一体となって楽しい空間を作りあげ、夢を見させるものなんじゃないかなと思うんです。だから私はミュージカルがすごく好きなんですよね。
――斉藤さんの初舞台は、1987年の『レ・ミゼラブル』。初舞台が、帝国劇場で、レミゼで、コゼットで、というのはかなりスパルタな印象がありますが…。
斉藤:本当のことを言うと、その前に1つ出てるんです。学生の時の夏休みに栗原小巻さん主演の『マイ・フェア・レディ』に、花売り娘で1シーンだけ。
その後に、帝劇で『レ・ミゼラブル』のオーディションを受けて出演が決まって。でも演じたコゼットという役がとても難しい役だったんですよね。ピュアなかわいいガールという象徴的な役だったので、演じるという意味では葛藤の多い、チャレンジングな、あがいてもあがいてもどこをどう攻めればいいのか分からないような役でした。かわいい役だけど、ゆえに苦しかったですよね。でもそれを最初に経験したことが、のちの私のキャリアにとってはすごく助けになった気はします。
――キャリアということで言いますと、今年はデビュー40周年。記念コンサートにも伺いましたが、ヒット曲の数々を当時のままのキーで歌われていて感動しました。
斉藤:どうしても年齢を経るごとに喉って開きづらくなるし、声帯も弱くなってくるので、ここ数年歌のお仕事の前はちゃんとボイトレをしたり、私にしては珍しく頑張って努力しています。
あと、とても運がいいことに、あまり声が下がらないんですね。歌手一辺倒ではないのでものすごくトレーニングしているわけではないんですけど、なぜかあまり低くならないというか。
◆デビュー40年で変わったこと、変わらないこと
――1985年に「卒業」でレコードデビューされて、すぐ『スケバン刑事』が始まり、相米慎二監督の映画『雪の断章 -情熱-』があり、翌年には朝ドラ『はね駒』があり、年末には紅白歌合戦の司会、さらに翌年には帝劇で『レ・ミゼラブル』。デビューから3年目までに大きな仕事を一気に駆け抜けられたんですよね。
斉藤:本当に自分で言うとバカみたいなんですけど、デビューしてあらゆることがボーンと行ったので、すごいとか思う暇すらなかったのが正直です。
――この40年の中で、ターニングポイントになったような出会いや作品を挙げるとするとどんなものになりますか?
斉藤:一番大きな出会いと思えるような出会いがいっぱいあったので、選ぶのは正直難しいです。そういう「うわぁ~これは大きい出会いだな」と思うものがいくつも積み重なって今があるという感じ。
ただこの40年やってきて、すごく思いがけない昨今の発見としては、あんなに本当に気を失うくらい忙しかった初期に働いたあらゆることが、今の自分にものすごく大きな糧として返って来ているということ。40年経って、あの時あんなに頑張っていたことが自分にとっての助けになったりするなんて、すごく不思議な運命だなと感じています。
――デビュー初期と比べて、ここは変わらないなと思うところはありますか?
斉藤:行き当たりばったりなところですね。すごく傲慢な言い方をすると、多分この仕事って、きちんと正確にやることを求められているのではなくて、その時その時の一瞬のエネルギーの爆発みたいなものをお客様に誠実に届けることのほうが優先だと思うんです。「きちんとやりますよ」「上手にやりますよ」「完璧にやりますよ、観てください!」ではなくて、その時何か自分の表現の中にリミッターを超えた発露というか感情の爆発みたいなものがあって、そのエネルギーの放出がお客様に届くのではないかと思うんです。
だから、きちんと準備しようとか、ちゃんと正確にやろうとか全然思っていないところがあって。覚えてなくたって、順番通りにやれてなくても、その時いかにガチ勝負で、なんだったらお客様にケンカ売るじゃないですけど、それくらいの真剣勝負の瞬間が一瞬あって、それでお客様を納得させられなければダメだと思っているところがある。それは歌の世界でも、舞台の世界でも、ドラマの世界でも。すごく乱暴なやり方だけれど、その一瞬をいかに捻出できるかが大事だと思っています。それはたぶん最初のころから変わってないと思います。
――逆に変わったところはどこでしょう?
斉藤:自分自身をプロデュースする計算をちゃんとする、客観性みたいなものを持てるようになってきました。何かきっかけがあってとかではなく徐々にでしょうか。自分の人生でもいろんなフェーズがあっていろんな経験をして、それを全部ひっくるめてどんなふうに自分を演出していくことが、表現する人間として見ている人に見たいと思ってもらえる価値を維持できるかというのをすごく考えるようになりました。
要はお客様に「わ!この人面白い!」「この人どこに行くんだろう?」「見ていたい」「目が離せない」と思ってもらえるかどうかがすべてだと思うんです。「わ!上手」とか「きちんとやってる」とか、そういうところではないところに多分本質があって、それを感じてもらえなかったら負けなんだなと思います。
――この作品に斉藤由貴さんが出演しますと聞くと、どんなお芝居を見せてくれるんだろう?と気になって見たくなる女優さんであることは間違いないです。
斉藤:でもハラハラもするでしょ?(笑)。
――今回の作品でのバルシュカもとても楽しみですが、今後、どんな“女優・斉藤由貴”を見せていきたいという思いをお持ちですか?
斉藤:「こういう作品を」っていう欲が実はそんなになくて。その時その時、与えられた仕事を利用して、自分がものすごく集中できる瞬間を体験できたらいいなっていう気持ちなんですよね。『Once』のプロデューサーのいるところですごく言いづらいんですけど(笑)、作品のためにというのはあまり考えてなくて、どんな集中した真剣勝負を行えるかっていうところに主軸を置いています。ある意味すごくエゴイストなんですよね。
もちろんお客様には感謝しているんですが、お客様のためにというより、その瞬間自分がどんなに集中して歌を歌えるか、どんなにいい表現をできるかっていうことだけにフォーカスしている。「見てください」じゃなくて、「そうやってやってる自分をどうぞ見てください」っていう感じなんです。エンターテインメントの表現の仕方っていろんな種類があるんですけど、私にはそのやり方が合っている。
「みなさん!見てください!」っていうのもエンターテインメント。でも私は、自分に内省していって自分の集中を高めていくこと、それを見たいと思ってもらうこと、固唾を呑んでたとえ私が後ろを向いていてもそれを見たいと思ってもらうこと、それが私にとっての大事なエンターテインメントのやり方というか。
こういう作品をやりたいっていうのはなくて、仕事をもらえるのだったらそこでどれだけ集中できるのか。集中を極めて針の先っぽみたいなものを突き詰めていくことが、たぶんものすごく気持ちがいいことなんですよね。そうしたことにやりがいがあるので、これからもそれを模索していく、その一点に尽きるかもしれません。
(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)
ミュージカル『Once』は、9月9日~28日東京・日生劇場にて上演。その後、10月4日・5日愛知・御園座、10月11日~14日大阪・梅田芸術劇場 メインホール、10月20日~26日福岡・博多座にて上演。