藤本タツキによるヒット漫画『チェンソーマン』。2022年にテレビアニメ化されて人気を博した本作の“続き”を描く劇場版『チェンソーマン レゼ篇』が19日に公開を迎える。
人間が感じるさまざまな恐怖の名を冠した悪魔に対抗しうる存在であるチェンソーマンに変身できる少年デンジ(戸谷菊之介)が、公安のマキマ(楠木ともり)に拾われてデビルハンターとして生活していく本シリーズ。今回はデンジの前に可憐な少女レゼ(上田麗奈)が現れ、恋にバトルにといった騒動が勃発する。クランクイン!ではテレビシリーズに続きデンジ&マキマを演じる戸谷菊之介×楠木ともりの対談を実施。アフレコの舞台裏や演技のアプローチを語ってもらった。
【写真】戸谷菊之介&楠木ともり、クールなスタイリングがかっこいい撮り下ろしショット(10枚)
■デンジ&マキマの映画デートは「楽しく掛け合いができました」
――「レゼ篇」はデンジ/チェンソーマンとボムのバトルや台風の悪魔の描写など、スクリーン映えするシーンも多く含まれた内容ですが、おふたりが劇場版ならではと感じた部分について教えてください。
戸谷菊之介(以下、戸谷):「全て」と言いたくなるくらい、劇場版だと雰囲気がより出るシーンばかりでした。その中で戦闘シーンにおいては、原作で描かれていないコマとコマの間が補完されています。原作の一コマ一コマがバン!という大きなコマで表現されたカッコいいポーズもステキですが、映像ではそこに動きが加わり、また違った魅力が生まれました。スタッフの皆さんが相当力を入れて創っていらっしゃる部分なので、期待していただきたいです。
楠木ともり(以下、楠木):一部ファンの方々の間でもそうだったかと思いますが、私も「レゼ篇」は劇場版で見たいと思っていた一人でした。物語の構成的にもそうですし、大掛かりなシーンも多いエピソードのため、劇場の大きな画面で見られたらすごい迫力になるんじゃないかと思っていたのです。また個人的には、マキマとデンジが映画館デートをするシーンを実際に映画館で見ていただくと、演出も込みで新鮮な体験になるのではないかと楽しみにしています。
――テレビシリーズではデンジとマキマの「ファースト間接キス」がありましたが、楠木さんのおっしゃる通り1日かけて映画をはしごするシーンは今回の見どころの一つです。
戸谷:デンジとしてはマキマさんとデートできることで本当に浮かれて舞い上がってしまい、感情がほとばしるシーンです。僕も100%で演じ切りました。アフレコでは実際に楠木さんと掛け合いで収録でき、実感を持って取り組めました。僕自身も楽しくて、いい思い出になっています。
楠木:デンジからすると上司と初めてプライベートで遊べるワクワク感もありますよね。マキマとしては基本的には変わらず、ちょっとしたニュアンスで遊び心を出させていただきました。とはいえ感情が見えすぎないように調整する中で、大事なポイントになったのは「デンジからマキマがどう見えているか」でした。デンジはとにかくマキマに対して素直なリアクションを取ってくれるので、安心して楽しく掛け合いができました。
戸谷:デンジはセリフも面白いですよね。「やったー!!」とか「カワイイ!!」といった感情ダダもれのほほ笑ましいセリフにも注目していただきたいです。
――映画はしごデートのエピソードを原作で初めて読んだ時、マキマが涙を流す姿が衝撃的でした。
新たな一面が見えるシーンですよね。
楠木:泣くシーンに関しては、あえてアドリブ(※アニメーションでは台本にないセリフだけでなく、息遣いなどもアドリブに入る)を入れませんでした。「静かに音もなく泣いている」という演出を画の方でしていただいているぶん、私の中で大きくマキマの性格を見せたりといった、演出めいたことをしないようにしたいと考えていたのです。このシーンに限らず、デートのパートについてはプライベート感を出したり、デンジとの距離感を詰めたり、印象的な「あったよ」のセリフに関してもあまりあざとくしたくなくて。それはマキマじゃないなと思いましたし、あくまでデンジにはかわいらしく見えてドキドキしただけで、マキマ自身はそうじゃないというバランス感にしたくて、こだわって何度かテイクを重ねさせていただきました。そういった意味では、意識的にこれまでとは変えないようにしています。
――かたやデンジはデビルハンターとしての生活にやりがいを見出すなど、「レゼ篇」で変化が明確に表れていますよね。戸谷さんはどのように収録に臨まれましたか?
戸谷:台本を読む段階ではかなりロジカルに読み解いて自分なりに考えていきますが、収録の最中にはそんなに深くは考えず、ただただデンジとしてその場にいられるように心がけていました。
――ファンからするとあの名ゼリフ「俺が知り合う女がさあ!! 全員オレん事殺そうとしてんだけど!!」が登場するのが楽しみでなりません。
戸谷:そこに至るまでの、 “助走”がしっかりと描かれているので、浮ついた状態から急に突き落とされたことで、マックスもマックス、エクストリームマックスで怒っていました(笑)。そういった意味では、非常に感情が込もったシーンになっているかと思います。
――楠木さんにとって、レゼという人物はどのように映りましたか?
■マキマとレゼは「対照的」
楠木:今回の劇場版にあたって音響監督の名倉靖さんと話したことですが、一つの象徴としてマキマは手が届きそうで届かないのが魅力で、レゼは手が届かなさそうで届いちゃうのが魅力だと感じています。
どちらともデートシーンがありますが、マキマとレゼにギャップがあった方が良いし、しゃべる距離感なども両者のタイプの違いを意識した方がより入り込めるんじゃないかという話をしてから収録しました。もちろんレゼ自体が魅力的で引き込まれるキャラクターであることは言うまでもないですが、マキマと対照的である・位相が違うことは忘れないようにしていました。
――戸谷さんはレゼとのシーンを演じる中でも、常にマキマを意識していたのでしょうか。
戸谷:そうですね。マキマさんのことが好きだけどレゼのことも好きになっちゃってどうしようという気持ちは常にあったかと思いますし、少しずつデビルハンターとしてマキマさんに認められてきた今の生活に満足している気持ちもあり、レゼに「好き」と言われても素直に受け取れないつらさや迷いも同時にありました。
――テレビシリーズに比べると、デンジの感情が複雑化しましたよね。
戸谷:デンジは本当に何も持っていない状態からスタートして、マキマさんに色々と与えてもらって少しずつ普通の生活ができるようになってきました。そうした意味では、『チェンソーマン』はデンジがさまざまなものを獲得していく物語といえるかと思います。その中で「レゼ篇」では「恋をする」という新たな経験をしますが、デンジ自身はきっと「あんまりよく分かってないけどそのまま行っちゃえ」みたいな感覚もあったかと思います。
もちろん感情が複雑化した部分もあり、さまざまな出来事に直面して悩みはしますが、根本の素直さは変わっていないと僕は思っています。
――常に目の前の出来事に対して新鮮に反応し続けるといいますか。実にデンジらしいですね。
戸谷:それこそデンジは衝動的なセリフも多いですから。ただ、台本には色々と書き込んでいるのでちょっとお待ちください(と台本を取って戻ってくる)。
楠木:結構書き込むタイプなの?
戸谷:そうですね。台本を読む段階で、セリフ一つひとつにどういう流れでどういった感情があるか、状況などもイメージしながら書き込んでいます。
楠木:そうなんだ、面白い! なかなか隣の人の台本をのぞき込むことはないので新鮮です。
戸谷:例えば今の生活の話をしているくだりで「口にするとだんだん申し訳ない気持ちが大きくなってくる」とディレクションいただいたのですが、そういった言葉も書き込むようにしていました。現場ではそうした解釈を上乗せして演じていきましたが、演じている最中は没入しているのであまりはっきりとは覚えていません。
――没入型の戸谷さんと俯瞰でロジカルに構築される楠木さんのアプローチは、欲望に忠実なデンジとミステリアスなマキマに重なりますね。
戸谷:僕は完全にそのタイプで、ちょっと馬鹿馬鹿しいかもしれませんが「自分がデンジだと思い込んでやる」というタイプの演じ方しかやってきませんでした。
楠木:私は作品によりますが、マキマに関しては気持ちをひも解いて演じる中で、気持ちを乗せるとニュアンスが出すぎてしまい、受け取り方として最適な形でなくなる可能性があると考えるようになりました。そこで、マキマの気持ちよりもストーリーにもたらす影響や役割に重きを置いて「デンジから見たマキマ像」でしたり、物語を俯瞰したときに「いまのマキマのセリフや行動が後々に何に影響してくるか」を考えて、先回りするような形で演じているため確かに対照的かもしれません。
――最後に、おふたりが『チェンソーマン』に出演されてどういった“初体験”をされたかを教えてください。
戸谷:僕にとっては初主演作で、何もかもが初体験のような状態でした。アフレコでどうやったらうまくできるかのやり方を少しずつ分かっていったのが『チェンソーマン』テレビシリーズでした。本作を通してさまざまな方に僕の声やお芝居を聞いていただけたおかげで色々な作品に出られるようになりましたし、ファンの皆さんからの声が届くようになって「すごいことが起きた」と日々感じています。
楠木:私も「声優をしています」と自己紹介をした際に「『チェンソーマン』のマキマ役です」と言うと通じるうれしさを日々感じています。普段あまりアニメを見ていない方――例えばお世話になった学生時代の恩師や友人からも「見ているよ」と言ってもらえたり、時には驚いていただいたりすることもあって、すごくうれしいです。
私は元々マキマを演じたくてオーディションを受けていて、受かった際にひとりで喜んでいた気持ちがいまやたくさんの人と分かち合えているうれしさもありつつ、発表時にファンの方からの期待も大きく感じていたため責任感もあり、自分にとって大切な作品の一つになっています。
(取材・文:SYO 写真:上野留加)
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』は、9月19日より公開。
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