映画ファンなら知らぬ者はいないポップカルチャーの奇才、クエンティン・タランティーノ。タランティーノ監督はかねてより「自分は長編映画を10本しか撮らない」と公言しており、これまでに9本を手がけてきた。

デビュー作『レザボア・ドッグス』(1992)で鮮烈な印象を残し、『パルプ・フィクション』(1994)で一躍時代の寵児に。おしゃれなセリフ回しと独自の暴力美学、そして映画愛に満ちた引用で、90年代以降の映画シーンを更新し続けてきた。今回はそんなタランティーノ作品の中から、編集部で3本をピックアップして、その魅力を改めて掘り下げる。

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■『パルプ・フィクション』(1994)

 まずはタランティーノの名を世界に轟かせた代表作『パルプ・フィクション』。1994年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞し、以降90年代映画を象徴する一本となった。

 殺し屋コンビのヴィンセント(ジョン・トラボルタ)とジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)、ギャングの妻ミア(ユマ・サーマン)、落ちぶれたボクサーのブッチ(ブルース・ウィリス)らが織りなす群像劇。時間軸を大胆にシャッフルした構成が特徴で、断片的に描かれるエピソードが最後にパズルのように組み上がる構成美が冴えわたる。

 何気ない日常会話が突如として暴力に転じるブラックユーモアはタランティーノの真骨頂。また、ミアとヴィンセントが踊るツイストダンスのシーンは映画史に残る名場面として語り継がれている。犯罪映画の枠を超え、自由奔放な物語の運びが観客を虜にした。

■『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)

 続いては2007年公開の『デス・プルーフ in グラインドハウス』。ロバート・ロドリゲス監督との共同企画「グラインドハウス」の一編として製作された作品で、70年代B級映画へのオマージュが全編を覆う。


 伝説のスタントマン“スタントマン・マイク”(カート・ラッセル)が改造車を凶器に若い女性たちを襲うという物語。前半と後半でガラリとトーンが変わり、前半で恐怖の対象だった女性たちが後半では一転、復讐者としてマイクを追い詰める展開が痛快。

 最大の見せ場は、息を呑むカーチェイス。特に後半の白いダッジ・チャレンジャーが疾走するシーンは圧巻で、ものすごい迫力。粗削りな映像美とマニアックな引用の数々は、タランティーノ流の映画への愛の告白なのかもしれない。

■『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)

 最後に紹介するのは2019年公開の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。第92回アカデミー賞で助演男優賞(ブラッド・ピット)と美術賞を受賞し、監督自身のフィルモグラフィの集大成とも言える一本。

 舞台は1969年のハリウッド。落ち目のテレビ俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と、相棒であるスタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)の友情が中心に描かれる。隣家に住むのは女優シャロン・テート(マーゴット・ロビー)。史実の惨劇を下敷きにしながらも、物語はフィクションならではの“もしも”の結末へと突き進む。

 セットや衣装、小道具に至るまで60年代ハリウッドを徹底再現。
テレビ番組や映画作品を緻密に作り込む姿勢から、タランティーノの映画文化への偏愛が溢れ出す。ノスタルジーと映画愛をこれでもかと詰め込んだ作品であり、彼のキャリアを象徴する一本となった。

■タランティーノはまだ終わらない!

 タランティーノはデビュー以来、常に観客を挑発し、驚かせ、そして映画を愛する喜びを思い出させてくれる存在であり続けてきた。『パルプ・フィクション』の衝撃、『デス・プルーフ』の実験精神、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の映画愛。いずれの作品も、その独自の美学を濃厚に体現している。

 「10本しか撮らない」と語るタランティーノが、最後にどんな映画を世に送り出すのか。映画界全体が固唾を呑んで見守っている。

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