2013年放送のリアリティ番組『テラスハウス』の出演で注目を浴び、今やモデルや俳優として数多くの作品で活躍する筧美和子が、映画『オオムタアツシの青春』で初主演を務める。「役に向き合うしか今の私にはできないと思った」と話す彼女は、いつもと変わらないスタンスで本作へ向き合ったという。
【写真】爽やかなブルーのドレスを着こなす筧美和子の撮りおろしカット(全9枚)
■主演決定につながった自身の“YouTubeチャンネル”
本作は、昭和の風情が残る炭鉱町を舞台に、人生につまずいた大人たちと、病気を抱えながらも前向きに生きる少女の偶然の出会いから生まれる、かけがえのない絆の物語。監督は、映画『ラーメン侍』、『いのちスケッチ』、『恋のしずく』など、地域・グルメをモチーフにした作品に定評がある瀬木直貴が務める。
筧の出演は、瀬木監督の妻からの推薦で決まった。「監督の奥様が私のYouTubeチャンネルを見てくださっていたみたいで、監督が主演の俳優を探している時に推薦してくださったようです」と驚いた様子で、「監督も私が出演している映画を見てくださり、ご夫婦で話し合われたと聞きました」と自身のYouTubeチャンネルが映画出演につながった“まさか”の出来事を回顧する。
筧が演じた亜美は夢だった洋菓子店をオープンさせるため炭鉱文化の名残ある町、福岡県大牟田市にやってきたパティシエ。共同経営するはずだった友人に見放され、1人途方に暮れるも、少女・日菜子(奥野楓)や青年・高杉司(福山翔大)、初老の男性・樋渡静男(陣内孝則)との偶然の出会いが発端となり、店の開店に向けて再び前を向き進み出す。負けん気が強く“やると決めたら一直線”の亜美について筧は「自分と同じように、いろいろ模索しながら一生懸命生きている1人の等身大の女性」と共感し、ダメなところも包み隠さず見せるからこそ周囲に力を与えられる、真っすぐな姿勢が印象的なキャラクターだとニッコリ。
「映画初主演と聞いた当時は純粋にうれしかったですが、役に向き合うしか今の私にはできないと思ったので、『主演だからこうしよう』とか特別なことは深く考えずに、いつもと変わらないスタンスで(芝居に)臨ませてもらいました」と話す。パティシエ役に必要な技術面やセリフの博多弁など、クランクイン前から準備することも多かったとか。「亜美のセリフを日常の中でブツブツ言っていたら、独り言の語尾に方言が出てくるようになって楽しかったです。カラオケで歌いたい歌を完璧に歌えるまで練習するような気分でしたね。
店のオープンに向けて奮闘する亜美にとって、司(福山)、静男(陣内)、日菜子(奥野)との出会いは1つのターニングポイントになる。年齢も生まれた場所も違う4人が夢に向かって切磋琢磨する様子が描かれた脚本が筧の心を引き込んだ。「デコボコした、一般的にはあんまり一緒にいないタイプの4人が集まり、短い時間の中で寄り添い合って生きている姿にすごく心が温かくなって、この映画が好きになりました。それぞれが問題を抱えていて、そんな過去も含めた4人の生き方に励まされるような…自分自身も折り合いがつかないこととかありますが、そういうことに対してヒントをもらえるような、励みになるようなメッセージが込められた映画になっています」。
筧の脇を固めるのは、大河ドラマ『おんな城主 直虎』や『JK☆ROCK』出演の福山翔大、『極道渡世の素敵な面々』、『疵』で日本アカデミー賞・優秀主演男優賞を受賞した陣内孝則など福岡出身の俳優たち。筧と同世代の福山との共演は彼女に大きな影響を与えたようで、「すごく映画に熱い人で、裏の座長のような印象があった」と意外な一言が。司は、どちらかというと亜美や静男のやり取りを後ろから見守る寡黙な青年だが、福山自身は「少し亜美みたいな真っすぐさがあるのかもしれない」という。「福山さんの作品に対する向き合い方とかを間近で見させてもらって、すごく影響を受けたと思います。亜美と司の関係とは真逆ですね」と分析していた。
また、以前焼き鳥屋をやっていた経験を活かして亜美にアドバイスを送る男性・静男を演じた陣内の存在も頼もしい。「型破りなイメージ通り、なんでも笑い飛ばしてくれるような正直な姿に救われました。
さらに、日菜子の母親・沙緒里を演じた林田麻里は大牟田大使を務めており、撮影時には方言指導にも尽力していたとか。「俳優の枠を超える仕事の仕方をしていました。私もだいぶお世話になって、感謝しかありません」と筧も感動するほどの活躍ぶりを見せる彼女の姿が、現場に良い相乗効果を生んでいたと明かす。
■俳優人生のターニングポイントは?
大牟田市で約1ヵ月間実施された本作の撮影は、地元の協力がなくてはならないものだった。「地元の方々がすごく協力的で、撮影のサポートもしていただきました。どこに行っても皆さんフレンドリーで、町の人と一緒に映画を作っている感覚でした」と語る筧に現地での思い出を伺うと、「大牟田市にあるおいしいラーメン屋さんを紹介してもらいました! 地元で有名なお店が3店舗あって、それを制覇してほしいと。『ラーメン食べたか~?』ってすごく気にしてくれていました(笑)」と地元ならではの交流エピソードを教えてくれた。
「昔から変わらない景色が残る昭和風情あふれる町で生活しながら撮影できたことがすごくよかったです。これが東京にある自分の家と行き来する生活だったら、また全然違ったと思いますね。泊まり込みだと集中できるので、大牟田の町を感じながら撮影に没頭できました」。
友人に裏切られ、夢の実現が途絶えかけるも、司や静男に支えられ再び前を向くことができた亜美と、そんな亜美を福山や陣内ら共演者をはじめ地元の人たちのサポートのもと演じきった筧の様子から、“出会い”と“助け合い”は本作のキーワードとも言えるだろう。
「演技経験があまりなかった私を採用してくれた吉田恵輔監督との出会いはすごく大きいです。真剣に作品を作られている大人たちを間近で見ることができたいい環境でしたし、その中で技術とか何もない私を信用して自由にやらせてくださっていたことにも感動しました。自由にやらせることってすごく勇気がいることだと思いますし、自分にとって(演技を)続けたいと思えた瞬間だったので、『犬猿』の現場を経験することができてすごく良かったです」と自身の俳優としてのルーツを辿る筧の姿は、初心を忘れず、俳優としてまだまだ経験を積んでいきたいという思いを感じる力強いものだった。
(取材・文:杉崎絵奈 写真:上野留加)
映画『オオムタアツシの青春』は全国公開中。