穏やかな微笑みの奥に、揺るぎない知性と探究心をのぞかせる俳優・竹下景子。そんな彼女の最新作が、プレミアムドラマ『終活シェアハウス』だ。
【写真】竹下景子、知性と優しさあふれる美しさは変わらず!
■昭和の呼吸と「世界線」が交差する現場
物語の舞台は、個性豊かなシニア世代が集うシェアハウス。竹下をはじめ、室井滋、戸田恵子、市毛良枝といった実力派俳優たちが繰り広げる会話劇は、まるで長年の友人のような自然な空気に満ちている。
「一度、全体で本読みはしましたが、基本的に現場で生まれたもの、その空気感を大切にしつつという感じで演じています。私たち4人は、大きくくくれば『昭和』。それも、64年あった昭和の前半に属する世代なんです。一緒に給食を食べながら育ったような『昭和の香り』があると、なんとなく同じ呼吸になってくる。そこはすごくありがたいですし、一緒にお芝居をしていても安心できるところでもあります」。
ベテラン俳優たちが醸し出す「昭和」の空気感。そこに、主人公である城桧吏や畑芽育といった若い世代が加わることで、新たな化学反応が生まれる。世代間のギャップさえも、作品の魅力へと昇華させていく。
「同世代だけで完結してしまうのではなく、そこにプラスアルファがある。城さんがよく『未経験の新しい世界』っておっしゃっていましたけど、本当にそうで。今のドラマってこうやって進んでいくんだなって、私自身も気づかされるところはとても多いんです。畑さんのセリフの中に『おばさまたちと私とでは世界線が違うんです』っていうのがあります。私、あんまり『世界線』って言葉をダイレクトに聞いたことがなくて、調べたら『あ、今の人は普通に使うんだ』って。そういう思わぬ発見とか出会いがあるのが、本当に楽しい現場です」。
■変化する時代、変わらぬ芝居への向き合い方
めまぐるしく変化する時代と共に、ドラマ作りの現場も様変わりしてきた。50年以上にわたり俳優として歩んできた竹下は、そのスピード感を肌で感じている。
「私が本当に20代っていうと50年ぐらい前になりますけど、その頃は自分のなかでの役作りがあって、それをテレビでいえば何台かのカメラで切り取るんですけれど、テンポが全然違うんです。今はたくさんのカメラがあって、それを編集でさらにブラッシュアップしていく。出来上がったもののテイストが随分違います。昔の作品の良さはもちろんありますけど、『今』を切り取るという意味では、スピーディーな世の中と非常にリンクしているなと感じます」。
求められる表現の方法は変わっても、役と向き合う真摯な姿勢は変わらない。その礎には、キャリアの大きな転機となった脚本家・倉本聰さんの言葉がある。
「『北の国から』では『芝居をするな』って倉本先生に言われたんです。そこにいることが大事なんだって。だから『悲しいふりをしちゃいけない』とか、そういうことを教えてもらった。それが一つの大きな転機でしたね。頭で考えて演じるのではなく、その人物として、その場で感じた気持ちを口に出す。その教えは、今も私の根幹を成しています」。
■このドラマが、次の世代への「応援歌」に
本作で描かれるのは、パワフルで、言いたいことを言い、生き生きと人生を謳歌するシニアたちの姿。それは、閉塞感が漂う現代社会への一つのメッセージでもある。
「いわゆる高齢者って言われる人たちは、これからの社会を背負っていく若い人たちの重荷になってしまうのは申し訳ないっていう気持ちで、どこか遠慮しているところがあると思うんです。でもこの物語で私たちが演じているキャラクターのように、精神的な意味でも自立して、『私たちは私たちの生きたいように生きるんだ』っていう生き方を見せることができれば、私たち自身も生き生きしますし、次の世代の人たちにとっても何かヒントになるんじゃないかと思いながら演じていました」。
年齢を重ねることへの不安を抱える若い世代にとって、彼女たちの姿は未来への希望となり得る。このドラマが、世代を超えた「応援歌」になってほしいと、竹下は願う。
「私たちの親は、戦争を体験していたり、戦後間もない大変厳しい時に育ってきました。私たちはそういう経験はしていませんが、そういった親の話とか教育を受けてきていますから。これからの日本も、決して安穏で気楽に考えられる材料ばかりではないけれど、そういう中でもみんなどこかで新しいことを考えたり、誰も取りこぼさないで一緒に前に進んでいくことはできるはず。ぜひこれからの世代の人たちにも、活気を持って一歩一歩進んでいってほしい。このドラマが、そんな応援歌みたいになったらいいなって思います」。
■幸運な出会いが繋いだ道、ありのままでいる強さ
長く第一線で活躍を続ける秘訣を問うと、「周りの人たちや作品にとても恵まれてきました。本当に幸運な出会いがたくさんあったんです」と謙虚に語る。その大きな出会いの一つが、国民的映画『男はつらいよ』だという。竹下はファンの多い『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』ほか3度にわたりマドンナを務めている。
「撮影当時はこんなに息が長くて、皆さんが思い出してくださる作品になるとは思っていませんでした。
『クイズダービー』でのお茶目な姿も、多くの人々の記憶に刻まれている。「三択の女王」と呼ばれ、お茶の間の人気者に。俳優業とは違うフィールドでの経験もまた、今の竹下を形作る大切な要素だという。
「(初代の司会を務めていた大橋)巨泉さんが『番組をヒットさせる秘訣はね、番組の中にスターを作ることだよ』っておっしゃって、当時大学生だった私も抜擢してくださった。ドラマとはまた違う意味で、あの番組のファンの方がとてもたくさんいてくださったおかげで、今でも『クイズダービー見ていましたよ』なんてお話が始まることもあります。そこで過ごした時間、一緒に仕事ができた人たちとの出会いが、今の私の本当に大事な部分になっています」
そして近年、ありのままの自分を受け入れる、もう一つの転機があったという。
「割と最近なのですが、NHKのドラマ『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』(2020年)という作品があって。70歳で初めて母親になるという役だったのですが、その時に『あ、もうここでヘアカラーをするのをやめましょう』と思って。自分のそのままのグレーヘアになることで、なんかもう一つ自分がすっと素になれるっていうか、肩の力が抜けて、『あ、今の私でいていいんだ』っていうふうに思わせてくれたのがその作品でした」。
そんな竹下に、これから挑戦したいことについて問うと「コロナ禍に上演した『まるは食堂』という舞台がありまして。主人公のうめさんという女性を演じたのですが、続編でも再演でもいいので、もう一度やってみたいですね」と目を輝かせる。
常に好奇心を持ち、一つひとつの出会いを力に変え、どこまでもしなやかに、そして誠実に進む俳優道。これからも、明るく朗らかな笑顔で視聴者に豊かな物語を届け続けてくれることだろう。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)
プレミアムドラマ『終活シェアハウス』は、BSP4K・BSにて、10月19日より毎週日曜22時放送。